70 / 88
第70話
しおりを挟む
梅雨の合間の晴れ間で、ハウスの中はジメジメ暑い。ムワッとするような空気とトマトの良い匂い。
トマトの苗が大きくなってきて、青い実が少し色づいているのもある。私も種をポットに蒔くのを手伝ったので、なんだかここまで大きくなると、嬉しくて可愛く感じてしまう。
葉に触れると香りが強くなり、トマトの匂いがしてくる。隣に植えてある緑の葉はなんだろう?ハーブ?匂いが混ざりあうとなんだか……どこかで食べたことある物が頭に浮かんでくる。
「トマトはハウスの中で育てるんですね?トマトの横に植えてある葉っぱはなんですか?」
「そうそう。トマトは雨に弱くて根腐れしてしまうからこっちのほうが安全なんだ。横のハーブはバジル。トマトの水分調節に良いんだ。トマトが甘くなる。コンパニオンプランツっていう方法なんだ」
「バジル……あっ!だからパスタとかピザとかの匂いがするんだって思いました」
「アハハ!なるほどね!美味しそうな匂いだった?トマトがたくさん採れるようになったらパスタやピザを作るよ」
イタリアンの方も作れるのね……。自家製トマトソース美味しいよと言う。私、いつか料理の腕、追い付けるのかな……。
そんなことを話しつつ、ハサミで丁寧に脇芽をとっていく作業をしている。私も間違えないようにと、ドキドキしながらしているので、手は遅い……千陽さんはいつもテキパキとしていて、あっという間に終わる。
ハウス横にある水道の蛇口をひねり、ハンドソープをつける。手を洗うと……。
「千陽さん……私の手の泡が、黄色いです!」
「え?……アハハ!桜音ちゃん、素手でトマト触ったね!?」
「トマトの脇芽をとったやつ、集める時に手袋外していました。……あっ!そのせい!?」
「そうだよー。手袋、なるべくしてないとダメだよ。茄子のヘタも触るとトゲトゲしてて、痛い。たまに刺さるから意外と野菜も危険なんだよ」
新鮮すぎる野菜はすごい……。
「私、キュウリや茄子がこんなにトゲトゲしてるって初めて知りました。私、負けてます」
「え!?勝ち負けなの……!?時々、桜音ちゃんは面白いこというよね。茄子の棘は僕も刺さるよ」
可笑しそうに笑って、私の脱ぎ捨てた手袋を持ってきてくれて、ちゃんとつけるように渡………ええっ!?
手を握られて、つけられる!?自分でできます……と思ったけど声は出なかった。
「手が荒れるし、傷ついたら困るし、なるべく手袋していてよ」
ハイ……とドキドキした心臓の音を隠すように返事をした私だった。私ばっかりドキドキしてる。千陽さんみたいに、余裕ある人になりたいなぁ。パッと顔をあげると顔が近くて……目が合う。千陽さんはなぜか慌てたように目をそらして、手を離す。
そして、いきなりさっき捨てたトマトの脇芽の話をする。
「そういえば……トマトは強くてさ、桜音ちゃんがとってた脇芽、それを植えておくと、根がついて大きくなる」
「えっ!?これ……食べれるくらいになるんですか!?」
「なるよ。育ててみる?」
してみたいです!と言うと千陽さんは野菜のポットに土を無造作に入れて、トマトの脇芽をグサッと刺した。
「これでいいよ。水を最初のうちは根付くまでこまめにあげるといいよ。根付いたら、大きい植木鉢かプランターに植え替えしてね」
「こ、これだけで!?できるんですか!?」
「できるんだ。トマトの生命力すごいだろ?」
私はもらったトマトのポットを持ち帰って育ててみることにした。
家へ帰る前にふと、明日から月曜日で学校だと気づく。
あれから松沢くんは教室で何度も声をかけてきたり、電車に乗るとわざわざ同じ車両に来たりする。
それに「新居って塾とか行ってないのに頭良いよなぁ?勉強教えてよ」とか「一人暮らしって聞いたけどほんと!?なんで!?」とか、すごく踏み込んでくる。
明日から月曜で、また電車で会うのかなと思って、なんとなく憂鬱なため息がはぁ……と出たのだった。
茉莉ちゃんが言うように私だけ好意を持っている感じではなく、クラスの皆にも好かれてていつも彼の周りは賑やかで友達がたくさんいた。
悪い人じゃないのに、ちょっとめんどくさい人だなって気持ちを持っちゃう私自身が問題あるのかもしれないと罪悪感を感じてしまう。
「ん?どうしたの?」
千陽さんが私の少し暗い雰囲気に気づく。
「明日から月曜なので、なんだか憂鬱なんです」
「なるほど……じゃあ、僕は元気になれるように美味しいお弁当作るよ。何かリクエストある?」
「いつもお弁当には元気もらってます!そんな……リクエストなんて……あ!でもトマトのなにか食べたいです。トマトのスイッチ入りました」
わかったよ~とニコニコする千陽さん。その笑顔だけで、元気になれそう……と私もニッコリしたのだった。
トマトの苗が大きくなってきて、青い実が少し色づいているのもある。私も種をポットに蒔くのを手伝ったので、なんだかここまで大きくなると、嬉しくて可愛く感じてしまう。
葉に触れると香りが強くなり、トマトの匂いがしてくる。隣に植えてある緑の葉はなんだろう?ハーブ?匂いが混ざりあうとなんだか……どこかで食べたことある物が頭に浮かんでくる。
「トマトはハウスの中で育てるんですね?トマトの横に植えてある葉っぱはなんですか?」
「そうそう。トマトは雨に弱くて根腐れしてしまうからこっちのほうが安全なんだ。横のハーブはバジル。トマトの水分調節に良いんだ。トマトが甘くなる。コンパニオンプランツっていう方法なんだ」
「バジル……あっ!だからパスタとかピザとかの匂いがするんだって思いました」
「アハハ!なるほどね!美味しそうな匂いだった?トマトがたくさん採れるようになったらパスタやピザを作るよ」
イタリアンの方も作れるのね……。自家製トマトソース美味しいよと言う。私、いつか料理の腕、追い付けるのかな……。
そんなことを話しつつ、ハサミで丁寧に脇芽をとっていく作業をしている。私も間違えないようにと、ドキドキしながらしているので、手は遅い……千陽さんはいつもテキパキとしていて、あっという間に終わる。
ハウス横にある水道の蛇口をひねり、ハンドソープをつける。手を洗うと……。
「千陽さん……私の手の泡が、黄色いです!」
「え?……アハハ!桜音ちゃん、素手でトマト触ったね!?」
「トマトの脇芽をとったやつ、集める時に手袋外していました。……あっ!そのせい!?」
「そうだよー。手袋、なるべくしてないとダメだよ。茄子のヘタも触るとトゲトゲしてて、痛い。たまに刺さるから意外と野菜も危険なんだよ」
新鮮すぎる野菜はすごい……。
「私、キュウリや茄子がこんなにトゲトゲしてるって初めて知りました。私、負けてます」
「え!?勝ち負けなの……!?時々、桜音ちゃんは面白いこというよね。茄子の棘は僕も刺さるよ」
可笑しそうに笑って、私の脱ぎ捨てた手袋を持ってきてくれて、ちゃんとつけるように渡………ええっ!?
手を握られて、つけられる!?自分でできます……と思ったけど声は出なかった。
「手が荒れるし、傷ついたら困るし、なるべく手袋していてよ」
ハイ……とドキドキした心臓の音を隠すように返事をした私だった。私ばっかりドキドキしてる。千陽さんみたいに、余裕ある人になりたいなぁ。パッと顔をあげると顔が近くて……目が合う。千陽さんはなぜか慌てたように目をそらして、手を離す。
そして、いきなりさっき捨てたトマトの脇芽の話をする。
「そういえば……トマトは強くてさ、桜音ちゃんがとってた脇芽、それを植えておくと、根がついて大きくなる」
「えっ!?これ……食べれるくらいになるんですか!?」
「なるよ。育ててみる?」
してみたいです!と言うと千陽さんは野菜のポットに土を無造作に入れて、トマトの脇芽をグサッと刺した。
「これでいいよ。水を最初のうちは根付くまでこまめにあげるといいよ。根付いたら、大きい植木鉢かプランターに植え替えしてね」
「こ、これだけで!?できるんですか!?」
「できるんだ。トマトの生命力すごいだろ?」
私はもらったトマトのポットを持ち帰って育ててみることにした。
家へ帰る前にふと、明日から月曜日で学校だと気づく。
あれから松沢くんは教室で何度も声をかけてきたり、電車に乗るとわざわざ同じ車両に来たりする。
それに「新居って塾とか行ってないのに頭良いよなぁ?勉強教えてよ」とか「一人暮らしって聞いたけどほんと!?なんで!?」とか、すごく踏み込んでくる。
明日から月曜で、また電車で会うのかなと思って、なんとなく憂鬱なため息がはぁ……と出たのだった。
茉莉ちゃんが言うように私だけ好意を持っている感じではなく、クラスの皆にも好かれてていつも彼の周りは賑やかで友達がたくさんいた。
悪い人じゃないのに、ちょっとめんどくさい人だなって気持ちを持っちゃう私自身が問題あるのかもしれないと罪悪感を感じてしまう。
「ん?どうしたの?」
千陽さんが私の少し暗い雰囲気に気づく。
「明日から月曜なので、なんだか憂鬱なんです」
「なるほど……じゃあ、僕は元気になれるように美味しいお弁当作るよ。何かリクエストある?」
「いつもお弁当には元気もらってます!そんな……リクエストなんて……あ!でもトマトのなにか食べたいです。トマトのスイッチ入りました」
わかったよ~とニコニコする千陽さん。その笑顔だけで、元気になれそう……と私もニッコリしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる