転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ

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オペレーション!クライ・ベイビー

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「いらっしゃいませー!」

 私がいつものようにお出迎えした時、気になる夫婦がいた。

「おい!おまえ泣き止ませろよ」

「ちょっ、ちょっとまってねー」

 ビエエエエエエンと赤ちゃんは馬車から降りた瞬間から泣きっぱなしだった。
 裕福な商人一家らしく、男は新品の服をピシッと着ていた。母親である奥さんに怒鳴るようにそういった。

「勘弁してくれよ。馬車の中でも泣き通しだっただろ!」

「なんで泣いてるのかわからないんだもの……」

 気弱そうに母親の方は言う。おむつもミルクも大丈夫なのに……と。

「母親のくせにわからないのか!?」

 年配のスタッフがスッと前へ出る。

「まあ!可愛い赤ちゃんですこと、少し抱っこさせてください」

「え?ええ……」

 ヨシヨシとにこやかに赤ちゃんの顔を見ながらあやす。しばし泣き止んだ。

「うわ!ありがとうございます!……なんだか理由もなくよく泣く子なんです」

「お母さんに甘えてるのよ。わたしだとお母さんじゃないから、泣かないのね。わかってるのよ。賢い子ねぇ。このままお部屋まで案内しますよ」

 年配のスタッフは感謝する母親に安心させるようにそう言って、部屋へと案内する。男の方はすでに一人で行ってしまった。

 私もどうしていいかわからなかったので、ホッとした。
 まだまだ精進が足りないわ。スタッフに助けられた。

「……ってことがあったのよ」

「僕も無理だね。泣く子は苦手だ」

 ジーニーに廊下で出会って言うと、苦笑し行ってしまった。お風呂に入りに来ただけだった模様だ。

 くっ……ジーニーでも対策とれないとか!赤ちゃん恐るべし。

「聞く相手が普通に間違っておろう?」

 肩に乗っていたアオがそう言う。その時、パタパタと慌てるスタッフの足音。

「た、大変ですーっ!女将!」

「どうしたの?他のお客様びっくりするわよ」

「申しわけありません……それが、いなくなったんですー!赤ちゃんのお母様が!」

 なっ!?なんですってー!!私は慌てて客室へと行った。

「……で、旦那様の方は奥様がどこへ行かれたのか、ご存知ないのですか?」

「知らんっ!」

 ビエエエエエエエンと盛大な泣き声をあげる赤ちゃんを抱っこしようともしない男。仕方なく私が抱っこしてみる。

「アーーーーーッ!」

 ペチコーンッと小さい手で頬を叩かれた。拒否されたああああ!鼻が痛いデス……。バタバタ暴れている。

 落ち着くのよ!セイラ!!今こそ育児書についての記憶を蘇らせるのよ!なんて書いてあった!?膨大な量の本を読んだじゃない!

 ………育児書は私の読書記録にナシ!!
 打つ手なしいいいいっ!

「よしよしっ!」

 一生懸命あやしながら、先程の手慣れたスタッフが来てくれたので渡す。

「おむつですね。女将もしてみます?将来、リヴィオ様とのご結婚の際に役立つ………」

「しっ!しませんーーっ!!……あ、いえ、ごめんなさい。赤ちゃんのお客様が来ることあるわよね。させて頂きます」

 危うく冷静さに欠けるところだったわ。リヴィオの名前は余計でしょうがっ!スタッフの間ではいつ婚約するか?結婚するか?賭け事になっているらしい。……と、先日判明した。

「あら、上手ですよ!女将!……あ、そうです。腰の辺りからお尻を持ち上げて、ハイッ。お尻拭きましょう」

 レクチャーされつつ、なんとかできた。額に汗。……私、向いてないかも。

「フン!あいつは探してくれてるんだろうな?」
 
 男が横柄にそう言う。

「今から参ります。旦那様は行かないのですか?奥様は旦那様が来てくれることを待ってるのではありませんか?」

 知るか!と窓の方を向いてしまう。

 私とスタッフは赤ちゃんを抱っこしながら探す。

「赤ちゃんのお母さん何所ですかねぇー?」

「あら!セイラ様、抱っこがお上手になってきましたよ!そうそう体を密着させたほうが赤ちゃんは安心しますからね」

 はい……と勉強中の私は素直に頷いた。よし。これが終わったら育児書を読み漁ろう!と決心した頭の本棚に入っていないのは都合が悪い。

「どこかしらねぇ」

 スタッフがそう言う……私はふと中庭の方へ足が向いた。中庭にはベンチがある。ゆっくり座って池や木々、草花などを見れる。

 一つのベンチに人が横になって、スースーと寝息が聞こえた。

「……疲れてらっしゃるんですねぇ」
 
 私はしみじみと言う。母親の寝不足気味の顔が今は気持ちよさそうに春の日差しと柔らかいそよそよとした風で穏やかだ。

「わたしがしばらく見てますよ。女将、お母様の方についててくださいな」

 スタッフがそう言ってくれる。
 私は頷くと中庭に日除けの傘を持ってきてそっと眩しくないようにしばらくかざした。
 どれだけそうしていただろうか?

「あ……ああっ!!すいませんっ!こんなところで寝ちゃって」

 ガバッと慌てて起き上がる。

「日傘をありがとうございます。……大変だわ!赤ちゃん!!」

「ちゃんといますよ」

 スタッフが声を聞いて、背中におんぶされてスヤスヤ眠る赤ちゃんと一緒にきた。

「すごい!泣いてないわ!!」

「赤ちゃん、おんぶの体勢が好きみたいですね。おんぶ紐したことありますか?」

「ないわ。だって、なにか作業する必要などなかったから……」

「良かったら教えますよ。こうやって背中にくっついて寝ると安心するのかもしれませんね。一人一人赤ちゃんだって、個性あるんですよ。寝る時も好きな寝方ありますからねぇ」

 ありがとうとスタッフにお礼を言ってから彼女は大きなため息をついた。

「わたしってダメな母親よね」

「頑張っておいでだと思いますよ」

 私は心からそう言う。なにせ私もオロオロしていたのだから。

「彼、ちっとも手伝ってくれないの。女の仕事だろって言うのよ。夜もね……わたし一人であやしてて、彼はうるさいって違う部屋へ行って寝ちゃうのよ」

「わかりますよっ!うちの旦那もそうだったわ」

 年配のスタッフはふかーーく頷いた。

「子どもを6人育てたけど、ほんっとに旦那は7人目の子どもでしたよ!」

「うちなんて、オムツ替えてって頼んだらね、臭いからやだ!とか言うのよ」

「こっちは育児してクタクタなところ食事を作ってるのに一週間前に食べたメニューだなとか偉そうにっ!金を今の倍稼いできて、シェフでも雇えっていうのよっ!」

 あれ?なんか人数増えてますけど……気づくと周りに集まってきた既婚者女性陣が同調し始める。なんだこれ……?

「旦那さん連れてきたわよっ!ちゃんと気持ち伝えなさいな!最初が肝心よ」

 ヒソヒソと彼女に耳打ちする一人。旦那を連れてきたのも既婚者女性スタッフ……公開処刑しないよね?大丈夫だよね?

「このっ!バカヤローっ!」

 顔を見るなりに怒鳴りつける男。ズズイッとスタッフ達が前に出ようとした時、言葉を男は続けた。

「心配したじゃないか!」

「あなた……ごめんなさい。ちょっと眠くなっちゃって、赤ちゃんの声が聞こえないところで寝たかったのよ」

「おまえが疲れてるから、この旅行を計画したのに……メイドに任せてくればいいものを!赤ん坊を連れてくるからだろう!」

 ええええ!奥様のための旅行だったのか!

「でもっ!置いてくるのは心配だったの」

「少し休まないとだめだろうが!」

 不器用な言い方しかできないわけね……スタッフ達もそれがわかって微笑ましそうに見ていた。

「でもわたしたちの子どもでしょう?あなたも少し傍にいてあげてよ。いつも仕事でこの子の顔も見ないじゃない?」

「……子どもは苦手だ。あと、何をしていいかわからん!」

「じゃあ…これから言うからしてくれる?」

「うっ……できる範囲でな。母親だからできるだろう?父親なんてわからないことだらけだぞ!男はそんなもんなんだ!」

 本気で子どもが苦手そうだ。彼女は首を横に振る。

「わたしだって、初めて母親になったのよ?女とか男とか母親だから父親だからなんて関係ないわ。わたしもわからないし、できないことばかりなの……赤ちゃんと一緒に泣きたいくらい」

「はぁ……めんどくさいな」

 たまに男の言い分に女性陣から殴りかかりそうなほどの殺気を感じるが……気づかないふりしとこう。

「赤ちゃんはお父さんもお母さんもどちらも大好きですよ!こうやって育児の話を旦那さんとできるっていいですね」

 そうスタッフの一人が言うと二人は私達の視線に気づいて顔を赤らめた。

「赤ちゃんには笑顔を見せると安心しますよ。大人だってそうでしょう?お父様、大きな声だとびっくりしますから、優しい声で話しかけるとよろしいかと…まずはそこから始めてみたらいかがでしょうか?」

 スタッフのアドバイスになるほどと素直に頷く男。

「幸い、今はぐっすり眠っていますから、お母様、今のうちにお風呂を楽しんできたらどうですか?」

 スタッフの機転で、母親の方はお風呂へと行った。男は赤ちゃんの側に寄り添い『起きたらどうしよう』と緊張感で体を動かせないようだったが、離れることなくいたのだった。たまにそっと頬に触れてみて、ぎこちなく笑顔を作ってみせていた。

 後日、勉強不足であった私は執務室のソファに腰掛けて熟読していた。『0歳からの子育て』『離乳食スタートブック』『子どもの発達』『赤ちゃんの気持ちに寄り添う育児』などなど、知識を溜め込んでいく。記憶の本棚に入っていなかったとは迂闊だったわ。

「なんの本を読んで………なっ!?おまえら……おまえら知らない間に……そんなバカな!いつからだ!?」

 ジーニーが私の積み上げた本の題名を見て驚愕の表情を浮かべた。

 おまえら……??私は首を傾げてジーニーを見た。なんでジーニーは震えている?

「セイラ、妊娠してるのか!?リヴィオとの子供かーーーっ!?あいつ知ってるのかーーっ!?」

「なに、寝ぼけたこと言ってんのよーーーっ!!」

 思わずゴッ!と投げた一冊の本がジーニーの顔面に直撃したのだった。

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