66 / 319
表舞台に立たぬ者
しおりを挟む
カサカサと風に落ち葉が舞って、慌てて箒で抑える。風が強くて、なかなか掃除がはかどらない。
玄関先に落ちてきた落ち葉を履いていると、風と共に女性が現れた。
「一晩泊めてもらえる?」
「こんにちは。構いませんが、空き部屋があるか確認させてくださいね」
どうぞと私は旅館内へ案内する。まだチェックインするには早く、他の人はいない。受付にもスタッフ一人。
今日のお客さんの名簿を確認する。そこへリヴィオがどーしたー?と受付の机の所に顔を出す……その瞬間、私の体をバッと引き寄せて、自分の後ろへやり、ダンッと机を蹴って飛び出す。
女性客がリヴィオの攻撃に備えて構える。
「おいっ!なんでこんなやついれた!?」
「こんなやつって……?」
私は驚く。
「エスマブル学園の諜報部に入った……クラスメイトまた覚えてねーのか?」
忘れてたわけではない。そもそも覚えてない。
「セイラ=バシュレ!他人に興味がないのは相変わらずねぇ。でもさすがに……ライバルのあたしのことくらい覚えててもいーんじゃない?」
いや……今はあります。と思いつつも距離感を保つ。ライバル!?マジマジと顔を見る。
「うーん………誰でしたっけ?」
その瞬間、ものすごく不機嫌な顔をされた。
「いや……けっこー、こいつ、セイラに難癖つけて絡んでただろ?イジメかよ?とオレは思っていたんだが?ダフネ=キャンデロンだろ?」
ライトブラウンの短い髪に緑色の目をした彼女をマジマジと私は見た。……うーん。いたような気もするような?
「その都度、邪魔するのがジーニーとリヴィオだったけどね!あと、あの煩いフォスター家の双子っ!!それがよけいに女子の反感を買っていたのよっ!」
ビシッと指をさしてくる。
「そんなことあった?かばってもらってた!?お礼言うには遅いかもしれないけど、ありがとう」
リヴィオに言うと、いまさら感だと肩をすくめた。
「で、何の用だ?」
「リヴィオ!あんた元諜報部員S級をメッタメタにしたでしょ?」
「知らねーなー。諜報部員だったのか?」
「とぼけないっ!ジーニーから聞いてるでしょ?こっちはジーニーに言われて、セイラ=バシュレのためにいろいろ諜報活動をしてやってるっていうのに、どうなのよっ」
リヴィオがハッと鼻先で不敵に笑う。
「S級の割によえーな。もっと鍛錬しとけよ」
「元!元諜報部なのよっ!……あたしは素敵な方だと尊敬していたのよ!」
「それで?なんだ?仕返しにきたのか?」
受けて立つぞ?と不敵な笑いをし、好戦的に構える。
「エスマブル学園、諜報部に顔だしなさいよっ!あたしの気がおさまらないわ」
「ふーん……いいぜ?オレが何をしたのか知ってて言ってるんだよな?やる気なら容赦しない」
リヴィオがニヤリと邪悪な笑みを浮かべるとビクッと体を震わせるダフネ。目に恐怖の色を浮かべた。
二人のやり取りに私は焦る。
「待って!私が行って謝るわ。リヴィオは私のためにしたのよ!」
私の言葉にダフネは目を丸くする。
「そんなこと、言えるようになったのねぇ。ってか、あんたがあのベッカー家と関わりがあったとかホントありえない!あたしの青春返して!」
ど、どういうことなの?青春ってなに??
「いいから!セイラはここにいろ。危ない」
「これは私のせいで起きたことだもの……リヴィオにこれ以上迷惑かけられないわ」
「言ったはずだ。オレがセイラを守ると……」
「リヴィオ……」
はいは~いと手をパンパンと叩いてスタッフたちが呆れる。
「そこまでにしといてくださーい。お二人共、そろそろお客様きますよー」
「ちょっとふざけてるでしょ?」
「茶番劇を見せつけるのやめてくださいよ」
私はペロッと舌を出す。リヴィオはバレたか?と笑う。
「めんどくせーし、行く気ない。用があるならそっちから出向いてこい」
「だいたい、ジーニーが何も言わないのに学園長を越して言いに来るのは越権行為よね。で、宿泊するの?しないの?」
何故かダフネは半泣きで『するわよぉ!』と言ったのだった。
「アホみたいやつだが、諜報部には優秀なやつしか入れない。実力はあるとみていい。セイラに敵意をもっている。オレが対応しよう」
ヒソヒソとリヴィオが言う。
「私がするわ。大丈夫よ」
リヴィオが……ま、いいかと言う。
「あいつがセイラに勝てたところを見たことがないしな。だが、気をつけろ。何、しでかすかわからないからな」
「聞こえてるわよっ!はやく案内しなさいよーっ!」
「では、改めまして、いらっしゃいませ。お部屋まで案内させて頂きます」
私が部屋へと案内する。キョロキョロとインテリアや建物内を見回す。
「へぇ……なんか異国情緒溢れるわね。素敵ね」
「ミニ提灯、お土産用のインテリアなど売店にありますから、後で見ていただいても楽しいかと思います」
興味がわいてきたらしく、ダフネは頷いている。
「こちら季節のお菓子とお茶です。胡桃と栗を使った小さなお饅頭となってます」
「優しい甘さで美味しいわ……セイラ=バシュレ、ほんとに雰囲気変わったわねぇ」
「あら?女将、どんな感じだったんですか?お召し物こちらに置いておきますねー!お風呂のセットも一緒にありますから、使ってくださいね」
スタッフの一人がお風呂セットを持ってきて、声をかける。
「冷たいし、誰も目に入ってないし、暗いし……そのくせ生意気で負けず嫌い」
クスクスとスタッフが笑う。
「女将、負けず嫌いなのはあまり変わりませんわね」
「そうかもしれないわ……勝負事はムキになっちゃうもの」
フフフッと私も笑う。
「良かったですねぇ。クラスメイトが訪ねて来られるなんて、なかなかないですものね。懐かしいお話をどうぞ、ごゆっくりなされてください」
スタッフがそう和ませて去っていく。
「……良いスタッフね。そうやって笑う姿とかびっくりしてるんだけど?」
「そうですか?お茶のおかわりいかがですか?」
「ありがとう。お茶をあんたに注いでもらう日がくるとはねぇ。……もう一度勝負しない?学園のときのように」
私は目を丸くした。しばらく考えてから答える。
「勝負事にもよりますけど、きっと現役のダフネさんの方がもう強いですわ。温泉に入ってゆっくり過ごされるのがよろしいですわ」
シーンと静かになった。そのまま私は部屋から出ていった。リヴィオがドアの前で待っていた。大丈夫そうだなと去っていった。
うーん……思ったより悪い人ではなさそうだと私は思った。
ダフネはしっかり大浴場や露天風呂をたのしみ、夕食も美味しそうに食べた。温泉旅館を満喫し、スタッフとも楽しそうに話してる姿を見かけた。
本当なにしにきたんだろう?私は疑問文が浮かんだが、まぁ……ただ遊びにきたかっただけかもしれない。
お酒をまったりと部屋で飲んでいるらしく、追加が入ったので私が持っていく。
「失礼します。これはサービスです」
おつまみのナッツとクラッカーを載せた皿を置く。彼女は窓辺で静かに飲んでいた。
「あら?ありがとう……ここ良い旅館ね。気に入ったわ」
「良かったです。またいらしてくださいね」
「あたし達諜報部は表に出ないわ。華々しく成功をしているあんたにはわからないかもしれないけど……けっこう辛いこともあるわ」
はぁ…と頷く。
「でもこうやって、ゆっくり過ごせる時間があると心が癒やされるものね。あんたが卒業式間際にいなくなったとき、皆、騒いでいたのよ。何も言わずに消えるんだもの!別れくらい言っていきなさいよね。その中でもリヴィオとジーニーたちのショックを受けていた様子が忘れられないわ。いなくなって本当につまらなかったわ」
「すいません……実家にすぐ戻ってこいと言われたので……」
私も卒業式まではいたかったのだが、それは許されなかった。卒業の資格は得ていたから良かったが……もし得ていないとしてもあの時の私にとって、どうでもいいことだっただろう。
祖父がいなくなり、私は一人になった。バシュレ家への帰路はそれはそれは……足取り重く、その先の将来もなにもかもどうでもよくなっていた。
「一口飲む?もう、仕事終わりでしょ?」
「止めときます。リヴィオから油断するなと言われてますので……」
「ほら!それよ、それっ!今まで誰が何を言ってもどーでもいいって顔してたのに!人の話を聞いて判断するとか……びっくりなのよーーっ!あたしの酒が飲めないのかーーいっ!」
酔っ払いめ……と心の中で毒づく。私も帰って明日に備えたいのよっ!
落ち着け、スマイル0円。笑顔を保つ。
「秋は夜が長いですわ。ごゆっくりお過ごしください。私はまだすることがありますので」
そーっと去っていく。後ろからなにやら声がするけど。
「待ちなさいよーっ!お酒の相手しなさいよ!冷たい女ねー!!」
他のお客様の迷惑にならないように隅の部屋にしといて正解だったわね。
スタッフに酔いすぎないように後からそっと見にいってもらえるよう頼み、私は屋敷に戻った。いつもより遅くなってしまった……。
執務室にジーニーがいた。
「悪いな。めんどくさいやつが来ただろ?諜報部の所長が止めたが行ったとか……所長が謝っておいてくれと言っていた」
「大丈夫よ。すっかり楽しんでるわよ」
温泉で懐柔しときました。
やれやれと肩をすくめる若き学園長。
「ジーニーはなんで旅館手伝ってくれたの?」
「学園長をしていると、学園時代を思い出す。懐かしくて戻りたくなる。リヴィオとセイラとトトとテテと過ごしていると、少しだけその時間に戻った気持ちになる。なかなかそんな友人達とずっと付き合えるなんてない。貴重な時を過ごさせてもらっている」
ほんとに同世代ですか?というくらい大人びている。私が変わったようにジーニーも大人になっていく。学園長らしくなっていってると微笑んだ。
「ありがとう。私も助かってるし、一緒に皆と過ごせて……むしろ学園時代のできなかった楽しいことをもう一度させてもらってるわ」
バンッと扉が勢いよく開いた。リヴィオだ。
「こ、こんな夜更けにどしたのよ!?先に休んでたんじゃないの?」
「こっちのセリフだーーっ!なかなか帰ってこないし……執務室でジーニーと喋ってるし、おまえなーっ!」
「ふふん。ヤキモチかい?」
焦ってるリヴィオとは逆にジーニーが余裕の笑みで、ニヤリとした。
「ち、違うっ!」
「僕は人妻でも範囲内だからね」
ん?どういうこと?なんの範囲??
「なっ、なにを……おいっ!ジーニー!?」
「うかうかしないように、気をつけることだね」
私は意味がわからず半眼になって二人に言った。
「二人共、屋敷の人達が起きるから、静かにしてよ」
『ハイ』
素直に静かになった二人だった。
次の日、ダフネは二日酔いの頭を抱えて帰っていった。ニヤニヤとリヴィオはそれを見て言った。
「やっぱりセイラに勝てなかったなー。」
「お酒に負けたんでしょう」
私は飲みすぎた彼女に二日酔いの薬草を渡して見送った。
その後、エスマブル学園諜報部の慰安旅行に『花葉亭』を利用していただける事となった。
玄関先に落ちてきた落ち葉を履いていると、風と共に女性が現れた。
「一晩泊めてもらえる?」
「こんにちは。構いませんが、空き部屋があるか確認させてくださいね」
どうぞと私は旅館内へ案内する。まだチェックインするには早く、他の人はいない。受付にもスタッフ一人。
今日のお客さんの名簿を確認する。そこへリヴィオがどーしたー?と受付の机の所に顔を出す……その瞬間、私の体をバッと引き寄せて、自分の後ろへやり、ダンッと机を蹴って飛び出す。
女性客がリヴィオの攻撃に備えて構える。
「おいっ!なんでこんなやついれた!?」
「こんなやつって……?」
私は驚く。
「エスマブル学園の諜報部に入った……クラスメイトまた覚えてねーのか?」
忘れてたわけではない。そもそも覚えてない。
「セイラ=バシュレ!他人に興味がないのは相変わらずねぇ。でもさすがに……ライバルのあたしのことくらい覚えててもいーんじゃない?」
いや……今はあります。と思いつつも距離感を保つ。ライバル!?マジマジと顔を見る。
「うーん………誰でしたっけ?」
その瞬間、ものすごく不機嫌な顔をされた。
「いや……けっこー、こいつ、セイラに難癖つけて絡んでただろ?イジメかよ?とオレは思っていたんだが?ダフネ=キャンデロンだろ?」
ライトブラウンの短い髪に緑色の目をした彼女をマジマジと私は見た。……うーん。いたような気もするような?
「その都度、邪魔するのがジーニーとリヴィオだったけどね!あと、あの煩いフォスター家の双子っ!!それがよけいに女子の反感を買っていたのよっ!」
ビシッと指をさしてくる。
「そんなことあった?かばってもらってた!?お礼言うには遅いかもしれないけど、ありがとう」
リヴィオに言うと、いまさら感だと肩をすくめた。
「で、何の用だ?」
「リヴィオ!あんた元諜報部員S級をメッタメタにしたでしょ?」
「知らねーなー。諜報部員だったのか?」
「とぼけないっ!ジーニーから聞いてるでしょ?こっちはジーニーに言われて、セイラ=バシュレのためにいろいろ諜報活動をしてやってるっていうのに、どうなのよっ」
リヴィオがハッと鼻先で不敵に笑う。
「S級の割によえーな。もっと鍛錬しとけよ」
「元!元諜報部なのよっ!……あたしは素敵な方だと尊敬していたのよ!」
「それで?なんだ?仕返しにきたのか?」
受けて立つぞ?と不敵な笑いをし、好戦的に構える。
「エスマブル学園、諜報部に顔だしなさいよっ!あたしの気がおさまらないわ」
「ふーん……いいぜ?オレが何をしたのか知ってて言ってるんだよな?やる気なら容赦しない」
リヴィオがニヤリと邪悪な笑みを浮かべるとビクッと体を震わせるダフネ。目に恐怖の色を浮かべた。
二人のやり取りに私は焦る。
「待って!私が行って謝るわ。リヴィオは私のためにしたのよ!」
私の言葉にダフネは目を丸くする。
「そんなこと、言えるようになったのねぇ。ってか、あんたがあのベッカー家と関わりがあったとかホントありえない!あたしの青春返して!」
ど、どういうことなの?青春ってなに??
「いいから!セイラはここにいろ。危ない」
「これは私のせいで起きたことだもの……リヴィオにこれ以上迷惑かけられないわ」
「言ったはずだ。オレがセイラを守ると……」
「リヴィオ……」
はいは~いと手をパンパンと叩いてスタッフたちが呆れる。
「そこまでにしといてくださーい。お二人共、そろそろお客様きますよー」
「ちょっとふざけてるでしょ?」
「茶番劇を見せつけるのやめてくださいよ」
私はペロッと舌を出す。リヴィオはバレたか?と笑う。
「めんどくせーし、行く気ない。用があるならそっちから出向いてこい」
「だいたい、ジーニーが何も言わないのに学園長を越して言いに来るのは越権行為よね。で、宿泊するの?しないの?」
何故かダフネは半泣きで『するわよぉ!』と言ったのだった。
「アホみたいやつだが、諜報部には優秀なやつしか入れない。実力はあるとみていい。セイラに敵意をもっている。オレが対応しよう」
ヒソヒソとリヴィオが言う。
「私がするわ。大丈夫よ」
リヴィオが……ま、いいかと言う。
「あいつがセイラに勝てたところを見たことがないしな。だが、気をつけろ。何、しでかすかわからないからな」
「聞こえてるわよっ!はやく案内しなさいよーっ!」
「では、改めまして、いらっしゃいませ。お部屋まで案内させて頂きます」
私が部屋へと案内する。キョロキョロとインテリアや建物内を見回す。
「へぇ……なんか異国情緒溢れるわね。素敵ね」
「ミニ提灯、お土産用のインテリアなど売店にありますから、後で見ていただいても楽しいかと思います」
興味がわいてきたらしく、ダフネは頷いている。
「こちら季節のお菓子とお茶です。胡桃と栗を使った小さなお饅頭となってます」
「優しい甘さで美味しいわ……セイラ=バシュレ、ほんとに雰囲気変わったわねぇ」
「あら?女将、どんな感じだったんですか?お召し物こちらに置いておきますねー!お風呂のセットも一緒にありますから、使ってくださいね」
スタッフの一人がお風呂セットを持ってきて、声をかける。
「冷たいし、誰も目に入ってないし、暗いし……そのくせ生意気で負けず嫌い」
クスクスとスタッフが笑う。
「女将、負けず嫌いなのはあまり変わりませんわね」
「そうかもしれないわ……勝負事はムキになっちゃうもの」
フフフッと私も笑う。
「良かったですねぇ。クラスメイトが訪ねて来られるなんて、なかなかないですものね。懐かしいお話をどうぞ、ごゆっくりなされてください」
スタッフがそう和ませて去っていく。
「……良いスタッフね。そうやって笑う姿とかびっくりしてるんだけど?」
「そうですか?お茶のおかわりいかがですか?」
「ありがとう。お茶をあんたに注いでもらう日がくるとはねぇ。……もう一度勝負しない?学園のときのように」
私は目を丸くした。しばらく考えてから答える。
「勝負事にもよりますけど、きっと現役のダフネさんの方がもう強いですわ。温泉に入ってゆっくり過ごされるのがよろしいですわ」
シーンと静かになった。そのまま私は部屋から出ていった。リヴィオがドアの前で待っていた。大丈夫そうだなと去っていった。
うーん……思ったより悪い人ではなさそうだと私は思った。
ダフネはしっかり大浴場や露天風呂をたのしみ、夕食も美味しそうに食べた。温泉旅館を満喫し、スタッフとも楽しそうに話してる姿を見かけた。
本当なにしにきたんだろう?私は疑問文が浮かんだが、まぁ……ただ遊びにきたかっただけかもしれない。
お酒をまったりと部屋で飲んでいるらしく、追加が入ったので私が持っていく。
「失礼します。これはサービスです」
おつまみのナッツとクラッカーを載せた皿を置く。彼女は窓辺で静かに飲んでいた。
「あら?ありがとう……ここ良い旅館ね。気に入ったわ」
「良かったです。またいらしてくださいね」
「あたし達諜報部は表に出ないわ。華々しく成功をしているあんたにはわからないかもしれないけど……けっこう辛いこともあるわ」
はぁ…と頷く。
「でもこうやって、ゆっくり過ごせる時間があると心が癒やされるものね。あんたが卒業式間際にいなくなったとき、皆、騒いでいたのよ。何も言わずに消えるんだもの!別れくらい言っていきなさいよね。その中でもリヴィオとジーニーたちのショックを受けていた様子が忘れられないわ。いなくなって本当につまらなかったわ」
「すいません……実家にすぐ戻ってこいと言われたので……」
私も卒業式まではいたかったのだが、それは許されなかった。卒業の資格は得ていたから良かったが……もし得ていないとしてもあの時の私にとって、どうでもいいことだっただろう。
祖父がいなくなり、私は一人になった。バシュレ家への帰路はそれはそれは……足取り重く、その先の将来もなにもかもどうでもよくなっていた。
「一口飲む?もう、仕事終わりでしょ?」
「止めときます。リヴィオから油断するなと言われてますので……」
「ほら!それよ、それっ!今まで誰が何を言ってもどーでもいいって顔してたのに!人の話を聞いて判断するとか……びっくりなのよーーっ!あたしの酒が飲めないのかーーいっ!」
酔っ払いめ……と心の中で毒づく。私も帰って明日に備えたいのよっ!
落ち着け、スマイル0円。笑顔を保つ。
「秋は夜が長いですわ。ごゆっくりお過ごしください。私はまだすることがありますので」
そーっと去っていく。後ろからなにやら声がするけど。
「待ちなさいよーっ!お酒の相手しなさいよ!冷たい女ねー!!」
他のお客様の迷惑にならないように隅の部屋にしといて正解だったわね。
スタッフに酔いすぎないように後からそっと見にいってもらえるよう頼み、私は屋敷に戻った。いつもより遅くなってしまった……。
執務室にジーニーがいた。
「悪いな。めんどくさいやつが来ただろ?諜報部の所長が止めたが行ったとか……所長が謝っておいてくれと言っていた」
「大丈夫よ。すっかり楽しんでるわよ」
温泉で懐柔しときました。
やれやれと肩をすくめる若き学園長。
「ジーニーはなんで旅館手伝ってくれたの?」
「学園長をしていると、学園時代を思い出す。懐かしくて戻りたくなる。リヴィオとセイラとトトとテテと過ごしていると、少しだけその時間に戻った気持ちになる。なかなかそんな友人達とずっと付き合えるなんてない。貴重な時を過ごさせてもらっている」
ほんとに同世代ですか?というくらい大人びている。私が変わったようにジーニーも大人になっていく。学園長らしくなっていってると微笑んだ。
「ありがとう。私も助かってるし、一緒に皆と過ごせて……むしろ学園時代のできなかった楽しいことをもう一度させてもらってるわ」
バンッと扉が勢いよく開いた。リヴィオだ。
「こ、こんな夜更けにどしたのよ!?先に休んでたんじゃないの?」
「こっちのセリフだーーっ!なかなか帰ってこないし……執務室でジーニーと喋ってるし、おまえなーっ!」
「ふふん。ヤキモチかい?」
焦ってるリヴィオとは逆にジーニーが余裕の笑みで、ニヤリとした。
「ち、違うっ!」
「僕は人妻でも範囲内だからね」
ん?どういうこと?なんの範囲??
「なっ、なにを……おいっ!ジーニー!?」
「うかうかしないように、気をつけることだね」
私は意味がわからず半眼になって二人に言った。
「二人共、屋敷の人達が起きるから、静かにしてよ」
『ハイ』
素直に静かになった二人だった。
次の日、ダフネは二日酔いの頭を抱えて帰っていった。ニヤニヤとリヴィオはそれを見て言った。
「やっぱりセイラに勝てなかったなー。」
「お酒に負けたんでしょう」
私は飲みすぎた彼女に二日酔いの薬草を渡して見送った。
その後、エスマブル学園諜報部の慰安旅行に『花葉亭』を利用していただける事となった。
32
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる