218 / 319
彼の心はどこへ行く?
しおりを挟む
マリアの恋は、今年初めての雪が降った時に動いた。
外は雪だが、執務室の中は暖かく、アオがスヤスヤとソファで寝ている。
「リヴィオ!マリアが朝からいないのよ!」
連絡球から静寂を破る声がした。リヴィオとマリアの母であるオリビアから、いきなり昼頃に連絡がきた。
「は!?何があったんだ?家出か?こっちには来てないが……」
困惑するリヴィオ。
「昨夜、ステラ王女主催の夜会へ行っていたのよ。帰ってきた時にメイドが言うには、ひどく落ち込んでいたって!」
「原因はわからねーけどってことか。まぁ……こっちに来たら、すぐ知らせる」
青ざめて心配そうなオリビアがお願いねと言うと連絡球は切れた。
「ああ。なんだ?あいつ、なにも言わないで、出かけたとかじゃねーのか?買い物とか?友達の家とか?」
「リヴィオ……ちょっとジーニーと連絡とってみてよ」
私の一言で彼はハッと気づく。エスマブル学園の学園長室へ繫げる。
「珍しいね。そっちからわざわざ連絡球で……って、もうバレたのかい?」
「マリアの落ち込んでいる原因はおまえだろ?」
「……まぁね。君の妹を泣かせてしまったよ。でも、謝らない」
「謝らなくて良いけどな、朝からマリアがいない。何があった?」
ジーニーが言いたくないけどと、口ごもる。リヴィオは咄嗟に私に席を外すように言う。素直に従い、私はそっと部屋から出た。
数分後、執務室からアオを抱えながら、リヴィオは出てきた。
「なんだったの?」
私の顔を見て、リヴィオは低い声で言う。
「……結論で言うと、マリアはどうも振られたらしい」
「私、旅館の方を探してくるわ!」
慌てて、私は転移魔法を紡ぐ。リヴィオが気をつけろよ!と言うと同時に、抱きかかえていたアオを放り投げた。
「にゃーーー!?」
思わず猫語が出たアオは転移すると同時に怒る。
「あの黒猫があああ!神様をなんじゃと思っておるー!」
「ごめんね。私の護衛につけてくれたんだと思うわ」
「ラッキーアイテムとカン違いしておるじゃろ!?あやつはっ!」
敬えー!と騒ぐアオを宥めて、私は『海鳴亭』の中を歩く。マリアの行き先の心当たりといえばここか『花葉亭』しか私には思い浮かばない。王城が見えるほどの近さ、彼女の家からの距離からして『海鳴亭』が妥当な気がした。
スタッフにマリアが来ていないかと尋ねる前に言われる。
「あっ!女将ー!マリアさんが来てますよ」
「朝から来ていて、お風呂に入ってからバーの方へ行きましたよ」
親切なスタッフ達は、さりげなく見守ってくれていたようだ。
「ありがとう!」
私はエレベーターに乗り、急ぐ。
「何、呑もうかのぅ」
「なんで、呑もうとしてるのよ?」
「妾には関係の無い話じゃからのー。恋だの愛だの人は忙しいのー」
時々、達観した神様に戻るわね。呑みたいだけでしょ……と私は半眼になる。
エレベーターからの景色は美しく、白い雪が空から無数に落ちてくる。海に吸い込まれるように消える。マリアからジーニーへの想いを打ち明けられた日も雪の日だったと思う。
バー『黒猫』のドアを開けると、淡い照明のカウンターにマリアが座っていた。私の顔を見ると笑顔になった。泣いてはいなかった。
「来てくれると思いましたわ」
「なんとなく、ここかな?と思ったの。大丈夫?」
バーのカウンターにアオが飛び乗り、マイペースに『冬に合うカクテルを』なんて注文しているのは無視しとく。
「思ったより大丈夫ですわ。聞きましたのね」
「聞いたのはリヴィオで、私は、結論しか知らないのよ」
リヴィオはジーニーとの会話を言わなかったからわからない。
バーテンダーが注文しなくても、私の好きなジンジャー系のカクテルをナッツ付きでスッと出してくれる。
店内に静かなジャズ風のピアノの音楽が流れている。
「ずっと待ってるつもりだったんですわ」
ポツリと話し始める。ずっと少女のままだと思っていたステラ王女もマリアも大人になっていく。
「でも待つだけの恋って、かなりしんどくありません?相手の言動一つで、浮かれたり、落ち込んだりしますわ」
うん、そうねと私は頷く。
「こんなに苦しい気持ちになるなら、告白なんてしなければよかった」
涙が滲むマリア。なんだか……私ももらい泣きしそうだった。
「セイラさんが原因ではありませんわ。わたくしのことはずっと幼い頃から見てきたから妹にしか思えないと言われましたの。この先もそれは変わらないと……」
「そうなのね……」
「でも最後に夜会で一緒に踊ってくれましたわ。その瞬間はまるで魔法が、かかったように幸せでしたわ」
気持ちにいつかは区切りをつけなければ、前に進めない。わかってるけど、多くの人は本当に傷ついてボロボロになるまでできない。愛とか恋とかいうものは、自分の思い描く通りにはならなくて難しい。
「マリアさんは強いわ。自分の気持ちに真っ直ぐで、相手に向かっていく力があったもの。私なんて弱くて、逃げてばかりだったわ。どれだけ待ってもらったかわからないわ」
「わたくしもリヴィオお兄様も、血なのかしら?追いかけてばかりですわ」
クスクスと笑いだしたマリアはすっきりとした顔をしていた。
「そうですわ。わたくしは弱くありませんわ。カムパネルラ公爵家の者は強いのですわ。ジーニーのことは、きっとこれからも大好きですわ。初めて口にした好きという想い、忘れませんわ」
さて、とマリアは立ち上がる。
「帰りますわ。皆を心配させてしまってますわ」
ギュッと私はマリアを抱きしめた。セ、セイラさん!?と驚く声。
「可愛い妹だもの」
私は気の利いたことは何一つ、言えなかった。ただ、私はギュッとマリアを抱きしめたのだった。
ありがとうとくぐもった声がした。
マリアはそれから家に帰った。リヴィオは私にどうやって家に帰らせたのか聞きたそうだったが、特に何も言わなかった。彼がジーニーとした話の内容をやはり教えてくれなかった。
今回はお互いに……何も言わないほうが正解だとわかっている。
パチパチと燃える暖炉の前にいるアオだけは、真実を知っている。だけど興味なさげにあくびを一つして、眠ってた。
外は雪だが、執務室の中は暖かく、アオがスヤスヤとソファで寝ている。
「リヴィオ!マリアが朝からいないのよ!」
連絡球から静寂を破る声がした。リヴィオとマリアの母であるオリビアから、いきなり昼頃に連絡がきた。
「は!?何があったんだ?家出か?こっちには来てないが……」
困惑するリヴィオ。
「昨夜、ステラ王女主催の夜会へ行っていたのよ。帰ってきた時にメイドが言うには、ひどく落ち込んでいたって!」
「原因はわからねーけどってことか。まぁ……こっちに来たら、すぐ知らせる」
青ざめて心配そうなオリビアがお願いねと言うと連絡球は切れた。
「ああ。なんだ?あいつ、なにも言わないで、出かけたとかじゃねーのか?買い物とか?友達の家とか?」
「リヴィオ……ちょっとジーニーと連絡とってみてよ」
私の一言で彼はハッと気づく。エスマブル学園の学園長室へ繫げる。
「珍しいね。そっちからわざわざ連絡球で……って、もうバレたのかい?」
「マリアの落ち込んでいる原因はおまえだろ?」
「……まぁね。君の妹を泣かせてしまったよ。でも、謝らない」
「謝らなくて良いけどな、朝からマリアがいない。何があった?」
ジーニーが言いたくないけどと、口ごもる。リヴィオは咄嗟に私に席を外すように言う。素直に従い、私はそっと部屋から出た。
数分後、執務室からアオを抱えながら、リヴィオは出てきた。
「なんだったの?」
私の顔を見て、リヴィオは低い声で言う。
「……結論で言うと、マリアはどうも振られたらしい」
「私、旅館の方を探してくるわ!」
慌てて、私は転移魔法を紡ぐ。リヴィオが気をつけろよ!と言うと同時に、抱きかかえていたアオを放り投げた。
「にゃーーー!?」
思わず猫語が出たアオは転移すると同時に怒る。
「あの黒猫があああ!神様をなんじゃと思っておるー!」
「ごめんね。私の護衛につけてくれたんだと思うわ」
「ラッキーアイテムとカン違いしておるじゃろ!?あやつはっ!」
敬えー!と騒ぐアオを宥めて、私は『海鳴亭』の中を歩く。マリアの行き先の心当たりといえばここか『花葉亭』しか私には思い浮かばない。王城が見えるほどの近さ、彼女の家からの距離からして『海鳴亭』が妥当な気がした。
スタッフにマリアが来ていないかと尋ねる前に言われる。
「あっ!女将ー!マリアさんが来てますよ」
「朝から来ていて、お風呂に入ってからバーの方へ行きましたよ」
親切なスタッフ達は、さりげなく見守ってくれていたようだ。
「ありがとう!」
私はエレベーターに乗り、急ぐ。
「何、呑もうかのぅ」
「なんで、呑もうとしてるのよ?」
「妾には関係の無い話じゃからのー。恋だの愛だの人は忙しいのー」
時々、達観した神様に戻るわね。呑みたいだけでしょ……と私は半眼になる。
エレベーターからの景色は美しく、白い雪が空から無数に落ちてくる。海に吸い込まれるように消える。マリアからジーニーへの想いを打ち明けられた日も雪の日だったと思う。
バー『黒猫』のドアを開けると、淡い照明のカウンターにマリアが座っていた。私の顔を見ると笑顔になった。泣いてはいなかった。
「来てくれると思いましたわ」
「なんとなく、ここかな?と思ったの。大丈夫?」
バーのカウンターにアオが飛び乗り、マイペースに『冬に合うカクテルを』なんて注文しているのは無視しとく。
「思ったより大丈夫ですわ。聞きましたのね」
「聞いたのはリヴィオで、私は、結論しか知らないのよ」
リヴィオはジーニーとの会話を言わなかったからわからない。
バーテンダーが注文しなくても、私の好きなジンジャー系のカクテルをナッツ付きでスッと出してくれる。
店内に静かなジャズ風のピアノの音楽が流れている。
「ずっと待ってるつもりだったんですわ」
ポツリと話し始める。ずっと少女のままだと思っていたステラ王女もマリアも大人になっていく。
「でも待つだけの恋って、かなりしんどくありません?相手の言動一つで、浮かれたり、落ち込んだりしますわ」
うん、そうねと私は頷く。
「こんなに苦しい気持ちになるなら、告白なんてしなければよかった」
涙が滲むマリア。なんだか……私ももらい泣きしそうだった。
「セイラさんが原因ではありませんわ。わたくしのことはずっと幼い頃から見てきたから妹にしか思えないと言われましたの。この先もそれは変わらないと……」
「そうなのね……」
「でも最後に夜会で一緒に踊ってくれましたわ。その瞬間はまるで魔法が、かかったように幸せでしたわ」
気持ちにいつかは区切りをつけなければ、前に進めない。わかってるけど、多くの人は本当に傷ついてボロボロになるまでできない。愛とか恋とかいうものは、自分の思い描く通りにはならなくて難しい。
「マリアさんは強いわ。自分の気持ちに真っ直ぐで、相手に向かっていく力があったもの。私なんて弱くて、逃げてばかりだったわ。どれだけ待ってもらったかわからないわ」
「わたくしもリヴィオお兄様も、血なのかしら?追いかけてばかりですわ」
クスクスと笑いだしたマリアはすっきりとした顔をしていた。
「そうですわ。わたくしは弱くありませんわ。カムパネルラ公爵家の者は強いのですわ。ジーニーのことは、きっとこれからも大好きですわ。初めて口にした好きという想い、忘れませんわ」
さて、とマリアは立ち上がる。
「帰りますわ。皆を心配させてしまってますわ」
ギュッと私はマリアを抱きしめた。セ、セイラさん!?と驚く声。
「可愛い妹だもの」
私は気の利いたことは何一つ、言えなかった。ただ、私はギュッとマリアを抱きしめたのだった。
ありがとうとくぐもった声がした。
マリアはそれから家に帰った。リヴィオは私にどうやって家に帰らせたのか聞きたそうだったが、特に何も言わなかった。彼がジーニーとした話の内容をやはり教えてくれなかった。
今回はお互いに……何も言わないほうが正解だとわかっている。
パチパチと燃える暖炉の前にいるアオだけは、真実を知っている。だけど興味なさげにあくびを一つして、眠ってた。
0
あなたにおすすめの小説
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる