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足湯を楽しむ者たち
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トーラディム王国の銭湯には足湯でティータイムができるという特色がある。銭湯の入口近くのスペースがカフェになっている。ここからは街の景色が見える。
「私、カフェラテ!」
「同じのを。リヴィオさんとセイラさんは?」
『………』
私とリヴィオは無言になる。ミラがメニューを見て、頼むとトーラディム王まで注文している。
「あの……ミラさんはともかく、なぜ陛下がこちらに?大丈夫なんですか?」
護衛とか安全面とか?と小さい声で言うと、メガネをかけて、変装したつもりの陛下はニッコリと柔らかな笑みを浮かべて言い放つ。
「大丈夫だよ。護衛ならミラがいるし、オレも守護者だし、何かあったら、このへん更地になるくらいで済むよ」
「えっ!?銭湯できたばかりなので、それはやめてください!」
私が焦ると、冗談だよーと返されたが、本当だろうか?
「メガネ一つで忍べないだろ……」
リヴィオはそうツッコミ、半眼になりつつ、アイスコーヒーを頼む。私はホットココアを頼んだ。
「誰も王様がこんなところで足湯してるなんて思わないよ」
確かに、想像がつかないかも。でも、こないだ亡霊が仕掛けてきたばかりなのに……。
「言いたいことはわかるわ。でもなぜか、私のこと嫌ってるみたいから、私がいたら来ないでしょ。まるで私は虫除けよね!」
ミラがそう言って、足をチャプチャプさせている。
「黒い力の正体はわかったが、それをどうやって鎮めるかだな」
リヴィオはそう話を切り出した。
「へぇ……すごいな。もうそこまで分析できたんだ」
「知っていたんだな」
「この国は魔物とは長い付き合いだからね」
王とリヴィオの視線がぶつかる。それなら早く教えろよ!というリヴィオの心の内が聞こえるようだ。
「今日は休暇ということで、くらーい話はやめましょ!私はかなり久しぶりの休暇を楽しみたいのよっ!足湯を楽しみに来たんでしょおおおお!?」
重い空気をぶった斬ったのはミラだった。バサッと雑誌をテーブルに置いた。
「仕事のストレス半端ないのよ!」
「えっ……いや、なんか、ごめん」
彼女の仕事の主である陛下が謝る。
「こっちの世界にも働き方改革、必要だなー」
リヴィオがそう言って笑う。神官の仕事事情はけっこうハードなようだ。
店員さんが注文の物を持ってきてくれ、飲み物が揃い、足元のお湯も良い温度である……冷たい飲み物にすればよかったかしら?
私にハイッと雑誌を渡すミラ。
「今度、どこのお店に行くー?このネイルのお店とかも可愛いのよね。したことなくて、一人で行くには勇気がいるし、一緒に行かない?」
華やかな爪のサンプルが載っている。なんと割引クーポン付き。
「可愛いわ!私、この2色のカラーに雪の結晶みたいなのしてみようかな?好きかも………」
ハッ!つられて、女子高生か女子大生みたいな会話になってしまった。足が温まり、甘いココアを飲んで、つい私もリラックスしてしまっているようだ。しかしミラはウキウキした漢字でのってくる。
「そうね。季節に合ってるし、青っぽさと白さがセイラに似合いそう。いいわね!うーん……どれにしようか迷うわね。種類多いわね。私はこのラメ入りのも捨てがたい」
リヴィオはお気に入りの『男の休日』に似た雑誌の『男の趣味』というトーラディム王国の雑誌を開いて見ている。このカップとか渋くて良いなー……と、さっきまで世界が魔物がどうこうというな話をしていたわりに、切り替えが早い彼だった。
陛下は本を手にしていないが、窓から見える、外の景色をジッと眺めていた。そこには王都に住まう人達が歩いている。楽しげに幸せそうに行き交う。
その姿を見て、彼は何を思い、願っているのか……口元は笑っている形を作り、優しげなのに、メガネの奥にある空色の目は真剣だった。休暇を楽しむこと。それは王にとってはなかなか難しいことらしい。疲れてる……よね?
私の視線に気づく。フッと微笑む陛下。
「温泉を作ってくれて、ありがとう。王都に住む人々も喜んでいるし、評判も良いって耳にしているよ」
「いえ、思っていた以上に喜んでもらえて嬉しいです」
まだ作りたいなら許可するよ。健康にも良いみたいだよねとニコニコ笑う。
「王宮にも1つ作りましょうか?お疲れのようだし……」
陛下は空色の目を丸くした。そして柔らかく微笑んだ。それは嬉しい顔だとわかる。
「それはいいかもしれないな」
リヴィオがそれを聞いて、本を置く。また仕事増やすなよーと呆れている。
「温泉付き王宮か……いいね!お願いするよ」
ミラが贅沢ねーと笑うと陛下は銭湯には流石に気軽に行けないから許してほしいと言う。
「確かに王様と銭湯で鉢合わせは驚かれるわ!互いに気まずいわね」
ミラがそう言って笑うと、陛下もそうだろ!?と言い、アハハと声をあげて笑い合う二人の穏やかな姿になんだかホッとした私だった。
互いのことをわかっていながら、線を引き、越えないようにしているのが……ミラと陛下からわかる。こんなゆっくりとしたささやかな時間を過ごせる現在の時を大事に味わっている気がした。
それはミラが言っていた、いつか来る別れにそなえるためになのだろうか?だとしたら、せつなすぎると思うが、何もできない私は、少し冷めた甘いココアを一口飲んだのだった。
「私、カフェラテ!」
「同じのを。リヴィオさんとセイラさんは?」
『………』
私とリヴィオは無言になる。ミラがメニューを見て、頼むとトーラディム王まで注文している。
「あの……ミラさんはともかく、なぜ陛下がこちらに?大丈夫なんですか?」
護衛とか安全面とか?と小さい声で言うと、メガネをかけて、変装したつもりの陛下はニッコリと柔らかな笑みを浮かべて言い放つ。
「大丈夫だよ。護衛ならミラがいるし、オレも守護者だし、何かあったら、このへん更地になるくらいで済むよ」
「えっ!?銭湯できたばかりなので、それはやめてください!」
私が焦ると、冗談だよーと返されたが、本当だろうか?
「メガネ一つで忍べないだろ……」
リヴィオはそうツッコミ、半眼になりつつ、アイスコーヒーを頼む。私はホットココアを頼んだ。
「誰も王様がこんなところで足湯してるなんて思わないよ」
確かに、想像がつかないかも。でも、こないだ亡霊が仕掛けてきたばかりなのに……。
「言いたいことはわかるわ。でもなぜか、私のこと嫌ってるみたいから、私がいたら来ないでしょ。まるで私は虫除けよね!」
ミラがそう言って、足をチャプチャプさせている。
「黒い力の正体はわかったが、それをどうやって鎮めるかだな」
リヴィオはそう話を切り出した。
「へぇ……すごいな。もうそこまで分析できたんだ」
「知っていたんだな」
「この国は魔物とは長い付き合いだからね」
王とリヴィオの視線がぶつかる。それなら早く教えろよ!というリヴィオの心の内が聞こえるようだ。
「今日は休暇ということで、くらーい話はやめましょ!私はかなり久しぶりの休暇を楽しみたいのよっ!足湯を楽しみに来たんでしょおおおお!?」
重い空気をぶった斬ったのはミラだった。バサッと雑誌をテーブルに置いた。
「仕事のストレス半端ないのよ!」
「えっ……いや、なんか、ごめん」
彼女の仕事の主である陛下が謝る。
「こっちの世界にも働き方改革、必要だなー」
リヴィオがそう言って笑う。神官の仕事事情はけっこうハードなようだ。
店員さんが注文の物を持ってきてくれ、飲み物が揃い、足元のお湯も良い温度である……冷たい飲み物にすればよかったかしら?
私にハイッと雑誌を渡すミラ。
「今度、どこのお店に行くー?このネイルのお店とかも可愛いのよね。したことなくて、一人で行くには勇気がいるし、一緒に行かない?」
華やかな爪のサンプルが載っている。なんと割引クーポン付き。
「可愛いわ!私、この2色のカラーに雪の結晶みたいなのしてみようかな?好きかも………」
ハッ!つられて、女子高生か女子大生みたいな会話になってしまった。足が温まり、甘いココアを飲んで、つい私もリラックスしてしまっているようだ。しかしミラはウキウキした漢字でのってくる。
「そうね。季節に合ってるし、青っぽさと白さがセイラに似合いそう。いいわね!うーん……どれにしようか迷うわね。種類多いわね。私はこのラメ入りのも捨てがたい」
リヴィオはお気に入りの『男の休日』に似た雑誌の『男の趣味』というトーラディム王国の雑誌を開いて見ている。このカップとか渋くて良いなー……と、さっきまで世界が魔物がどうこうというな話をしていたわりに、切り替えが早い彼だった。
陛下は本を手にしていないが、窓から見える、外の景色をジッと眺めていた。そこには王都に住まう人達が歩いている。楽しげに幸せそうに行き交う。
その姿を見て、彼は何を思い、願っているのか……口元は笑っている形を作り、優しげなのに、メガネの奥にある空色の目は真剣だった。休暇を楽しむこと。それは王にとってはなかなか難しいことらしい。疲れてる……よね?
私の視線に気づく。フッと微笑む陛下。
「温泉を作ってくれて、ありがとう。王都に住む人々も喜んでいるし、評判も良いって耳にしているよ」
「いえ、思っていた以上に喜んでもらえて嬉しいです」
まだ作りたいなら許可するよ。健康にも良いみたいだよねとニコニコ笑う。
「王宮にも1つ作りましょうか?お疲れのようだし……」
陛下は空色の目を丸くした。そして柔らかく微笑んだ。それは嬉しい顔だとわかる。
「それはいいかもしれないな」
リヴィオがそれを聞いて、本を置く。また仕事増やすなよーと呆れている。
「温泉付き王宮か……いいね!お願いするよ」
ミラが贅沢ねーと笑うと陛下は銭湯には流石に気軽に行けないから許してほしいと言う。
「確かに王様と銭湯で鉢合わせは驚かれるわ!互いに気まずいわね」
ミラがそう言って笑うと、陛下もそうだろ!?と言い、アハハと声をあげて笑い合う二人の穏やかな姿になんだかホッとした私だった。
互いのことをわかっていながら、線を引き、越えないようにしているのが……ミラと陛下からわかる。こんなゆっくりとしたささやかな時間を過ごせる現在の時を大事に味わっている気がした。
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