転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ

文字の大きさ
220 / 319

足湯を楽しむ者たち

しおりを挟む
 トーラディム王国の銭湯には足湯でティータイムができるという特色がある。銭湯の入口近くのスペースがカフェになっている。ここからは街の景色が見える。

「私、カフェラテ!」

「同じのを。リヴィオさんとセイラさんは?」

『………』

 私とリヴィオは無言になる。ミラがメニューを見て、頼むとトーラディム王まで注文している。

「あの……ミラさんはともかく、なぜ陛下がこちらに?大丈夫なんですか?」

 護衛とか安全面とか?と小さい声で言うと、メガネをかけて、変装したつもりの陛下はニッコリと柔らかな笑みを浮かべて言い放つ。

「大丈夫だよ。護衛ならミラがいるし、オレも守護者だし、何かあったら、このへん更地になるくらいで済むよ」

「えっ!?銭湯できたばかりなので、それはやめてください!」

 私が焦ると、冗談だよーと返されたが、本当だろうか?

「メガネ一つで忍べないだろ……」

 リヴィオはそうツッコミ、半眼になりつつ、アイスコーヒーを頼む。私はホットココアを頼んだ。

「誰も王様がこんなところで足湯してるなんて思わないよ」

 確かに、想像がつかないかも。でも、こないだ亡霊が仕掛けてきたばかりなのに……。

「言いたいことはわかるわ。でもなぜか、私のこと嫌ってるみたいから、私がいたら来ないでしょ。まるで私は虫除けよね!」

 ミラがそう言って、足をチャプチャプさせている。

「黒い力の正体はわかったが、それをどうやって鎮めるかだな」

 リヴィオはそう話を切り出した。

「へぇ……すごいな。もうそこまで分析できたんだ」

「知っていたんだな」

「この国は魔物とは長い付き合いだからね」

 王とリヴィオの視線がぶつかる。それなら早く教えろよ!というリヴィオの心の内が聞こえるようだ。

「今日は休暇ということで、くらーい話はやめましょ!私はかなり久しぶりの休暇を楽しみたいのよっ!足湯を楽しみに来たんでしょおおおお!?」

 重い空気をぶった斬ったのはミラだった。バサッと雑誌をテーブルに置いた。

「仕事のストレス半端ないのよ!」

「えっ……いや、なんか、ごめん」

 彼女の仕事の主である陛下が謝る。

「こっちの世界にも働き方改革、必要だなー」
 
 リヴィオがそう言って笑う。神官の仕事事情はけっこうハードなようだ。

 店員さんが注文の物を持ってきてくれ、飲み物が揃い、足元のお湯も良い温度である……冷たい飲み物にすればよかったかしら?

 私にハイッと雑誌を渡すミラ。

「今度、どこのお店に行くー?このネイルのお店とかも可愛いのよね。したことなくて、一人で行くには勇気がいるし、一緒に行かない?」

 華やかな爪のサンプルが載っている。なんと割引クーポン付き。

「可愛いわ!私、この2色のカラーに雪の結晶みたいなのしてみようかな?好きかも………」

 ハッ!つられて、女子高生か女子大生みたいな会話になってしまった。足が温まり、甘いココアを飲んで、つい私もリラックスしてしまっているようだ。しかしミラはウキウキした漢字でのってくる。

「そうね。季節に合ってるし、青っぽさと白さがセイラに似合いそう。いいわね!うーん……どれにしようか迷うわね。種類多いわね。私はこのラメ入りのも捨てがたい」

 リヴィオはお気に入りの『男の休日』に似た雑誌の『男の趣味』というトーラディム王国の雑誌を開いて見ている。このカップとか渋くて良いなー……と、さっきまで世界が魔物がどうこうというな話をしていたわりに、切り替えが早い彼だった。

 陛下は本を手にしていないが、窓から見える、外の景色をジッと眺めていた。そこには王都に住まう人達が歩いている。楽しげに幸せそうに行き交う。

 その姿を見て、彼は何を思い、願っているのか……口元は笑っている形を作り、優しげなのに、メガネの奥にある空色の目は真剣だった。休暇を楽しむこと。それは王にとってはなかなか難しいことらしい。疲れてる……よね?

 私の視線に気づく。フッと微笑む陛下。

「温泉を作ってくれて、ありがとう。王都に住む人々も喜んでいるし、評判も良いって耳にしているよ」

「いえ、思っていた以上に喜んでもらえて嬉しいです」

 まだ作りたいなら許可するよ。健康にも良いみたいだよねとニコニコ笑う。

「王宮にも1つ作りましょうか?お疲れのようだし……」

 陛下は空色の目を丸くした。そして柔らかく微笑んだ。それは嬉しい顔だとわかる。

「それはいいかもしれないな」

 リヴィオがそれを聞いて、本を置く。また仕事増やすなよーと呆れている。

「温泉付き王宮か……いいね!お願いするよ」

 ミラが贅沢ねーと笑うと陛下は銭湯には流石に気軽に行けないから許してほしいと言う。

「確かに王様と銭湯で鉢合わせは驚かれるわ!互いに気まずいわね」

 ミラがそう言って笑うと、陛下もそうだろ!?と言い、アハハと声をあげて笑い合う二人の穏やかな姿になんだかホッとした私だった。

 互いのことをわかっていながら、線を引き、越えないようにしているのが……ミラと陛下からわかる。こんなゆっくりとしたささやかな時間を過ごせる現在の時を大事に味わっている気がした。

 それはミラが言っていた、いつか来る別れにそなえるためになのだろうか?だとしたら、せつなすぎると思うが、何もできない私は、少し冷めた甘いココアを一口飲んだのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...