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騎士団長は微笑む
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『海鳴亭』は朝から結婚式の準備に追われていた。
「ホールに花は持っていった?」
「女将~!料理の確認お願いします!」
「お客様の名簿どこいったー!?」
言ったりきたりする。目まぐるしさ。そのうち、馬車が玄関に着いた。
降りてきたのはホワイトアッシュの髪、端正な顔立ちと長身の美青年の騎士団長。そしてとあのアイスクリーム店で働いていたサリだった。
「本日はおめ………」
おめでとうございます!と私が言おうとすると後ろからドドドドドと足音が聞こえてきた。
『団長ーーーっ!おめでとうございます!!』
騎士団の面々が駆け寄る。胴上げでもしそうな勢いだ。
「あ、ああ。ありがとう。おまえたち、もう酒が入っているな?」
騎士団長が呆れたように言った。
「温泉にも浸かってましたよ!」
「こんなめでたい日に飲まずにいられますかって!」
「団長とサリさーんにカンパーイ!」
旅館のスタッフ達がクスクスと笑っている。私はやれやれと思いつつ、控室へ案内する。
「『海鳴亭』を選んでくださってありがとうございます」
「サリの希望なんです。セイラさんにはお世話になったし、アイスクリームで繋がった縁だって……」
「あれからゼイン殿下を慰めてくれて、わたし達に矛先が向かないようにしてくださっていたでしょう?」
サリの言葉に、そんなことあったっけ?と一瞬考えて……思い出したのはリヴィオが殿下を飲むぞ~と連れ出していったことくらいだった。
あの行動にそんな深い意味があったどうかは謎だけど……。
「ま、まぁ……そうかもしれませんね」
わからないので、そう返事をしておく。二人が準備できるまで、再び会場に戻った。お客様が集まってきていて、飲み物を配る。
「あのサリちゃんがねぇ。立派な人と結婚するなんてねぇ」
「騎士団長が選ぶだけあって、良い子ですよ!」
「海の見える結婚式とか素敵!今度、わたしもここでしたい!」
話が弾んでいる。そのうち、皆が席につく。今日は快晴で室内はとても明るく、窓から見える海は青くて澄んでいる。
「なんかリヴィオとの結婚式、思い出しちゃうわ」
懐かしさにふけようとした時、音楽隊が軽やかで明るい音楽を奏でた。
騎士団長はサリの手をとり、優しい眼差しで階段を降りてきた。サリもまた見つめ返す。感動的な……と思いきや。
「団長ー!おめでとうございまーーすっ!」
「よっ!アツいねー」
「羨ましすぎる~!お幸せにいいいい!」
……王国のエリート騎士団のはずだけど、今日はハメを外している。フリッツいわく、鬼のような副団長が今日は団長がいないため、王都を離れられないから、来てないらしい。騎士団に入りたての頃はリヴィオさんもさすがに副団長に生意気だ!って、やられてましたよとフリッツが言う。
「エイデンさんも居残り組みたいですねー。きてないですね」
確かに……。ここに居たら騒がしすぎるから良かったかも。
お祝いの席が盛り上がってきた時のことだった。扉が開く。思わず皆がその方向を見た。
『ゼイン殿下ーーー!?』
ゼイン殿下が突然現れる。騎士団員、出席者たちが声を揃えた。オロオロするサリ。
「結婚祝いを持ってきてやった!」
偉そうに言う殿下に騎士団長が目を細め、微笑む。その表情は柔らかく、本当の殿下を知っているからこその表情なのかもしれない。
周囲は何が起こる!?と緊張しているが……。
「来てくれないかと思いましたが……」
「来て頂き、嬉しいです」
二人にそう言われて、フンッと窓の外を向く。
「そんなに心が狭い男じゃない!皆、窓の外を見ろ!騎士団長、サリ、結婚祝いを受け取れ!」
ブワッと無数の風船が空に舞う。それは目に鮮やかで空へ飛び出していく。おおおー!と皆が声を上げる。青い空にカラフルな色の花が咲いたように、ふわふわと消えてゆく。
拍手が起こった。気がつくとゼイン殿下はこの場にはもうおらず、消えていた。
「甘やかされて育ち、問題があるものの、本来は悪い方ではないんです……王になりたいが王には向かない。そんな葛藤を幼い頃からあの方は繰り返してました」
幼い頃からの付き合いの騎士団長がゼイン殿下のことをそう言うなら、そうなのだろう。最近の殿下は落ち着いていて、悪い評判も聞かない。
「そうなんですね。素敵なプレゼントでしたね」
私がそう言うと、サリがゼイン殿下……とつぶやいて感動し、嬉し涙を流したのだった。
そう言えば、いつも一緒にいる、トトとテテの兄であるイーノがいなかった。珍しかったと言うと、トトとテテが、あの時、地味に大量の風船を抱えていて、風魔法も駆使をし、綺麗に飛ばすのが大変だった!とイーノが言っていたことを教えてくれた。
あの素敵なシーンに地道に窓の下で頑張るイーノを、想像すると……なんだか感動が薄れるので、誰にも言わないことにした。密かにその頑張りに拍手しておくことにしよう。ゼイン殿下は恋には敗れたけど良き友、良き理解者がいるわと思ったのだった。それもまた人生において、得難く大切なものだ。
「ホールに花は持っていった?」
「女将~!料理の確認お願いします!」
「お客様の名簿どこいったー!?」
言ったりきたりする。目まぐるしさ。そのうち、馬車が玄関に着いた。
降りてきたのはホワイトアッシュの髪、端正な顔立ちと長身の美青年の騎士団長。そしてとあのアイスクリーム店で働いていたサリだった。
「本日はおめ………」
おめでとうございます!と私が言おうとすると後ろからドドドドドと足音が聞こえてきた。
『団長ーーーっ!おめでとうございます!!』
騎士団の面々が駆け寄る。胴上げでもしそうな勢いだ。
「あ、ああ。ありがとう。おまえたち、もう酒が入っているな?」
騎士団長が呆れたように言った。
「温泉にも浸かってましたよ!」
「こんなめでたい日に飲まずにいられますかって!」
「団長とサリさーんにカンパーイ!」
旅館のスタッフ達がクスクスと笑っている。私はやれやれと思いつつ、控室へ案内する。
「『海鳴亭』を選んでくださってありがとうございます」
「サリの希望なんです。セイラさんにはお世話になったし、アイスクリームで繋がった縁だって……」
「あれからゼイン殿下を慰めてくれて、わたし達に矛先が向かないようにしてくださっていたでしょう?」
サリの言葉に、そんなことあったっけ?と一瞬考えて……思い出したのはリヴィオが殿下を飲むぞ~と連れ出していったことくらいだった。
あの行動にそんな深い意味があったどうかは謎だけど……。
「ま、まぁ……そうかもしれませんね」
わからないので、そう返事をしておく。二人が準備できるまで、再び会場に戻った。お客様が集まってきていて、飲み物を配る。
「あのサリちゃんがねぇ。立派な人と結婚するなんてねぇ」
「騎士団長が選ぶだけあって、良い子ですよ!」
「海の見える結婚式とか素敵!今度、わたしもここでしたい!」
話が弾んでいる。そのうち、皆が席につく。今日は快晴で室内はとても明るく、窓から見える海は青くて澄んでいる。
「なんかリヴィオとの結婚式、思い出しちゃうわ」
懐かしさにふけようとした時、音楽隊が軽やかで明るい音楽を奏でた。
騎士団長はサリの手をとり、優しい眼差しで階段を降りてきた。サリもまた見つめ返す。感動的な……と思いきや。
「団長ー!おめでとうございまーーすっ!」
「よっ!アツいねー」
「羨ましすぎる~!お幸せにいいいい!」
……王国のエリート騎士団のはずだけど、今日はハメを外している。フリッツいわく、鬼のような副団長が今日は団長がいないため、王都を離れられないから、来てないらしい。騎士団に入りたての頃はリヴィオさんもさすがに副団長に生意気だ!って、やられてましたよとフリッツが言う。
「エイデンさんも居残り組みたいですねー。きてないですね」
確かに……。ここに居たら騒がしすぎるから良かったかも。
お祝いの席が盛り上がってきた時のことだった。扉が開く。思わず皆がその方向を見た。
『ゼイン殿下ーーー!?』
ゼイン殿下が突然現れる。騎士団員、出席者たちが声を揃えた。オロオロするサリ。
「結婚祝いを持ってきてやった!」
偉そうに言う殿下に騎士団長が目を細め、微笑む。その表情は柔らかく、本当の殿下を知っているからこその表情なのかもしれない。
周囲は何が起こる!?と緊張しているが……。
「来てくれないかと思いましたが……」
「来て頂き、嬉しいです」
二人にそう言われて、フンッと窓の外を向く。
「そんなに心が狭い男じゃない!皆、窓の外を見ろ!騎士団長、サリ、結婚祝いを受け取れ!」
ブワッと無数の風船が空に舞う。それは目に鮮やかで空へ飛び出していく。おおおー!と皆が声を上げる。青い空にカラフルな色の花が咲いたように、ふわふわと消えてゆく。
拍手が起こった。気がつくとゼイン殿下はこの場にはもうおらず、消えていた。
「甘やかされて育ち、問題があるものの、本来は悪い方ではないんです……王になりたいが王には向かない。そんな葛藤を幼い頃からあの方は繰り返してました」
幼い頃からの付き合いの騎士団長がゼイン殿下のことをそう言うなら、そうなのだろう。最近の殿下は落ち着いていて、悪い評判も聞かない。
「そうなんですね。素敵なプレゼントでしたね」
私がそう言うと、サリがゼイン殿下……とつぶやいて感動し、嬉し涙を流したのだった。
そう言えば、いつも一緒にいる、トトとテテの兄であるイーノがいなかった。珍しかったと言うと、トトとテテが、あの時、地味に大量の風船を抱えていて、風魔法も駆使をし、綺麗に飛ばすのが大変だった!とイーノが言っていたことを教えてくれた。
あの素敵なシーンに地道に窓の下で頑張るイーノを、想像すると……なんだか感動が薄れるので、誰にも言わないことにした。密かにその頑張りに拍手しておくことにしよう。ゼイン殿下は恋には敗れたけど良き友、良き理解者がいるわと思ったのだった。それもまた人生において、得難く大切なものだ。
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