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第24 話
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陛下に呼ばれるなんて、嫌な予感がした。きっと私とフランのことに違いないと思った。オースティン殿下は陛下がいない間にことをすませた。だからいつか呼ばれるような気がしていた。
オースティン殿下は結婚承諾書にサインをさせ、陛下の許可なく『出ていけ』と言ったのだった。ちょうどその頃、陛下は外遊しており、一ヶ月留守にしていたから、前々から考えていたのだろう。
だけど、私は気に入られていなかったから、陛下が望むとしたら、フランだと思う。オースティン殿下に次いで一番王座に近い血縁は今のところフランだけなのだ。
そう思うと、夜も眠れなかった。きっと陛下はフランを寄越せと言ってくる。王位継承権を持つフランは王家に閉じ込められるだろう。
「シア様、ちゃんと寝れてますか?なにか心配ことがあるんじゃないですかぁ?」
「なにもないわよ」
私は笑顔を作ってみせる。
「でも目の下のクマが……それに顔色も……真っ青です」
そんなことないわ!と私は元気に勢いよく立ち上がり、フランを学校へ見送ろうとした。
その瞬間だった。ぐらりと目の前が揺らぐ。
シア様ー!奥様ー!と言う声が遠く遠くから聞こえた。意識が暗転して、嫌な声がした。
『おまえが?』
私は緊張のあまり足が震えていた。目の前にはオースティン殿下。次期王と言われていた。なにを間違えたのか、私が妃として名指しされた。
王家に呼ばれ、断ることができないから来たのに、とても冷たい声で、怖い顔をしている。社交界に出席したとき、知らないうちに王子様から気に入られてたのかしら?私のどこがよかったのかしら?すごくお優しい方だといいなとさっきまで思っていた気持ちは、今、ここですべて否定された。
ジロジロと上から下まで見られる。
『ふん。容姿はまあまあだな。だが、色気ゼロの子供っぽいやつだな』
私はよろしくお願いしますとずっと頭を下げたままだったため、顔をそっとあげると、突然、頭にパシッと手袋を投げつけられた。それはオースティン殿下が嵌めていたものだった。一瞬、何が起こったのかわからなかった。
『頭を下げてろ!上げていいとは言っていないだろう!』
はい……と私はお辞儀したままいた。失礼な人ねっ!と頰をこの時、ひっぱたいてやれば良かったと今なら思う。例え罪に問われても、王家から出て行くチャンスだったのだ。それを私は逃した。
『おまえとは仕方なく結婚してやる。父上がどうしてもイザベラの身分では不服だと言う。貴族の娘から迎え入れれば側妃としてイザベラを認めてくれるというからな』
『イザベラ……?』
それは誰なの?私が名を呟くと、オースティン殿下は露骨に嫌な顔をした。
『馴れ馴れしく呼ぶな。イザベラ様と呼べ。入ってこい』
失礼しますわと妖艶な笑みを浮かべ、肌の露出の多い赤いドレスを身にまとった美女は派手だったが、美しかった。流行りの髪型、流行りのドレス、赤いドレスと合うように作られた装飾品達。
彼女の身なりに、オースティン殿下がかなりお金を注ぎ込んでいることを知ったのは後のことだった。
私には何一つ贈ってはくれなかった。花の1輪すらも。
私は旦那様になる人に初めてあった日に初めて愛人を紹介されたという稀有な体験をしてしまった。
ふざけんじゃないわよ!と怒りが沸き起こってきたのは次の日からで、初日は呆然としていた。旦那様になるオースティン殿下に疎まれていることがショックでだった。そして心細かった、王家では知り合いもいないため、慰めてくれる人もいない。
結婚生活がうまくいくようにと母から言われたことの数々はなんの役にもたたなかった。
そこで、一度、ううっ……と私が唸ると、額の汗を拭ってくれる人がいた。うっすらと目を開けると心配そうに覗き込む目とあった。でも眠すぎて私は誰なのか確認するまもなく眠りに落ちた。
これは過去の夢。終わったことなのね。
そう認識するけれど、こんなに苦しい。
『オースティン殿下、フランが今日、自分で歩きましたの!ご覧になりませんか!?』
私が嬉しくて伝えに行くと、ちょうどそこにイザベラがいた。しまった……と思った。
『オースティン……わたくしがまだ子どもがいないことを知りながら……シア様はなんてひどいのかしら……わたくしも愛するあなたの子が欲しいといつも願ってますのに……』
イザベラがポロポロと泣き出した。やや演技かかった感じで、涙を拭う仕草をした。
オースティン殿下が、スタスタと歩いてきたと思ったら、パンッと音がして、私の頬が叩かれた。頬の痛みに思わず手で押さえる。
『イザベラと共にいるときには、姿を見せるなとあれほどいっているのに、なぜ守れない?』
『も、申し訳ございません。つい……嬉しくて……』
フランの成長を共に喜び合えるわけがないのに、なぜ、私は来てしまったのかしら。あまりにもうれしくて、誰かと共有したかった。それだけだったのかもしれない。だけど、失敗しちゃったわ。
『シア様はいつもわたくしに嫌味を言ったり、見せびらかしたり……わたくしは仲良くしたいと思ってますのに……ひどいですわ』
オースティン殿下の胸の中へスッと隠れるように入る。泣き真似であることは一目瞭然だった。こちらを見て、少しイザベラは笑っている。それなのにオースティン殿下は私のことを人ではないような目で見た。
『イザベラ、可哀想に。大丈夫だ。守るからな!さっさと部屋へ行け!それとも無理矢理……また連れて行かれたいか?』
罪人のように連れて行かれたことがあり、それを言っているのだと気づいた。私は何もいわず、スッとお辞儀してから退席した。
このままフランを連れて、逃げたい。どこか王家の手が届かないところまでいけないだろうか?隣国へ行こうか?馬を奪ってフランを抱きながら、どれだけ走れるだろうか?追っ手の兵に追いつかれるまでどのくらいかしら。
でも逃げたところで、フランが王族だとわかれば、そのへんの盗賊たちが誘拐するかもしれない。私ひとりではどうにもならない。王家の血を持つ子を産んでしまったのだから。運が良いのか悪いのかわからない。
どうせならイザベラにできればよかったのに……そうすれば、少しは風当たりが弱くなっていたかもしれない。トボトボと部屋へ帰る。王宮の端の部屋を与えられているため、遠い道のりだった。
部屋に帰ると乳母に遊んでもらっていたフランはつかまり立ちをしていた。私をみつけ、ニコッと笑って、ヨロヨロとまだおぼつかない足で歩いてくる。その無垢な笑顔に私は目に涙が潤む。
ううん。でも。フランと会えたことは幸せよ。私にはこんな可愛いフランがいるもの。もう少し耐えれるわ。大丈夫よ。私は大丈夫。けっこう強いんだから!
そう自分に言い聞かせた。毎日。毎日。
オースティン殿下は結婚承諾書にサインをさせ、陛下の許可なく『出ていけ』と言ったのだった。ちょうどその頃、陛下は外遊しており、一ヶ月留守にしていたから、前々から考えていたのだろう。
だけど、私は気に入られていなかったから、陛下が望むとしたら、フランだと思う。オースティン殿下に次いで一番王座に近い血縁は今のところフランだけなのだ。
そう思うと、夜も眠れなかった。きっと陛下はフランを寄越せと言ってくる。王位継承権を持つフランは王家に閉じ込められるだろう。
「シア様、ちゃんと寝れてますか?なにか心配ことがあるんじゃないですかぁ?」
「なにもないわよ」
私は笑顔を作ってみせる。
「でも目の下のクマが……それに顔色も……真っ青です」
そんなことないわ!と私は元気に勢いよく立ち上がり、フランを学校へ見送ろうとした。
その瞬間だった。ぐらりと目の前が揺らぐ。
シア様ー!奥様ー!と言う声が遠く遠くから聞こえた。意識が暗転して、嫌な声がした。
『おまえが?』
私は緊張のあまり足が震えていた。目の前にはオースティン殿下。次期王と言われていた。なにを間違えたのか、私が妃として名指しされた。
王家に呼ばれ、断ることができないから来たのに、とても冷たい声で、怖い顔をしている。社交界に出席したとき、知らないうちに王子様から気に入られてたのかしら?私のどこがよかったのかしら?すごくお優しい方だといいなとさっきまで思っていた気持ちは、今、ここですべて否定された。
ジロジロと上から下まで見られる。
『ふん。容姿はまあまあだな。だが、色気ゼロの子供っぽいやつだな』
私はよろしくお願いしますとずっと頭を下げたままだったため、顔をそっとあげると、突然、頭にパシッと手袋を投げつけられた。それはオースティン殿下が嵌めていたものだった。一瞬、何が起こったのかわからなかった。
『頭を下げてろ!上げていいとは言っていないだろう!』
はい……と私はお辞儀したままいた。失礼な人ねっ!と頰をこの時、ひっぱたいてやれば良かったと今なら思う。例え罪に問われても、王家から出て行くチャンスだったのだ。それを私は逃した。
『おまえとは仕方なく結婚してやる。父上がどうしてもイザベラの身分では不服だと言う。貴族の娘から迎え入れれば側妃としてイザベラを認めてくれるというからな』
『イザベラ……?』
それは誰なの?私が名を呟くと、オースティン殿下は露骨に嫌な顔をした。
『馴れ馴れしく呼ぶな。イザベラ様と呼べ。入ってこい』
失礼しますわと妖艶な笑みを浮かべ、肌の露出の多い赤いドレスを身にまとった美女は派手だったが、美しかった。流行りの髪型、流行りのドレス、赤いドレスと合うように作られた装飾品達。
彼女の身なりに、オースティン殿下がかなりお金を注ぎ込んでいることを知ったのは後のことだった。
私には何一つ贈ってはくれなかった。花の1輪すらも。
私は旦那様になる人に初めてあった日に初めて愛人を紹介されたという稀有な体験をしてしまった。
ふざけんじゃないわよ!と怒りが沸き起こってきたのは次の日からで、初日は呆然としていた。旦那様になるオースティン殿下に疎まれていることがショックでだった。そして心細かった、王家では知り合いもいないため、慰めてくれる人もいない。
結婚生活がうまくいくようにと母から言われたことの数々はなんの役にもたたなかった。
そこで、一度、ううっ……と私が唸ると、額の汗を拭ってくれる人がいた。うっすらと目を開けると心配そうに覗き込む目とあった。でも眠すぎて私は誰なのか確認するまもなく眠りに落ちた。
これは過去の夢。終わったことなのね。
そう認識するけれど、こんなに苦しい。
『オースティン殿下、フランが今日、自分で歩きましたの!ご覧になりませんか!?』
私が嬉しくて伝えに行くと、ちょうどそこにイザベラがいた。しまった……と思った。
『オースティン……わたくしがまだ子どもがいないことを知りながら……シア様はなんてひどいのかしら……わたくしも愛するあなたの子が欲しいといつも願ってますのに……』
イザベラがポロポロと泣き出した。やや演技かかった感じで、涙を拭う仕草をした。
オースティン殿下が、スタスタと歩いてきたと思ったら、パンッと音がして、私の頬が叩かれた。頬の痛みに思わず手で押さえる。
『イザベラと共にいるときには、姿を見せるなとあれほどいっているのに、なぜ守れない?』
『も、申し訳ございません。つい……嬉しくて……』
フランの成長を共に喜び合えるわけがないのに、なぜ、私は来てしまったのかしら。あまりにもうれしくて、誰かと共有したかった。それだけだったのかもしれない。だけど、失敗しちゃったわ。
『シア様はいつもわたくしに嫌味を言ったり、見せびらかしたり……わたくしは仲良くしたいと思ってますのに……ひどいですわ』
オースティン殿下の胸の中へスッと隠れるように入る。泣き真似であることは一目瞭然だった。こちらを見て、少しイザベラは笑っている。それなのにオースティン殿下は私のことを人ではないような目で見た。
『イザベラ、可哀想に。大丈夫だ。守るからな!さっさと部屋へ行け!それとも無理矢理……また連れて行かれたいか?』
罪人のように連れて行かれたことがあり、それを言っているのだと気づいた。私は何もいわず、スッとお辞儀してから退席した。
このままフランを連れて、逃げたい。どこか王家の手が届かないところまでいけないだろうか?隣国へ行こうか?馬を奪ってフランを抱きながら、どれだけ走れるだろうか?追っ手の兵に追いつかれるまでどのくらいかしら。
でも逃げたところで、フランが王族だとわかれば、そのへんの盗賊たちが誘拐するかもしれない。私ひとりではどうにもならない。王家の血を持つ子を産んでしまったのだから。運が良いのか悪いのかわからない。
どうせならイザベラにできればよかったのに……そうすれば、少しは風当たりが弱くなっていたかもしれない。トボトボと部屋へ帰る。王宮の端の部屋を与えられているため、遠い道のりだった。
部屋に帰ると乳母に遊んでもらっていたフランはつかまり立ちをしていた。私をみつけ、ニコッと笑って、ヨロヨロとまだおぼつかない足で歩いてくる。その無垢な笑顔に私は目に涙が潤む。
ううん。でも。フランと会えたことは幸せよ。私にはこんな可愛いフランがいるもの。もう少し耐えれるわ。大丈夫よ。私は大丈夫。けっこう強いんだから!
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