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(番外編)イザベラの誤算
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やだやだやだ!!
あんな王子と一緒にど田舎で寒いブリジット地方になんて行きたくないわっ!お断りよっ!!
わたくしは王子を惹きつけるくらい美しいんだから、どんな男だっておとしてみせるわ。まだまだチャンスはあるはず。
ジャラリッと王宮から持ち出した宝石を袋から取り出す。ドレスはある程度売りに出した。お金だってある。
「でもなによりも……あのシアよね!地味女のくせに。ことごとくわたくし……もう丁寧な言葉も必要ないわね。……あたしの邪魔をするんだからっ!」
オースティン殿下には没落貴族の娘と言ってあったが、本当は平民で靴屋の娘だった。靴屋が儲からないし退屈な仕事だったから、夜に居酒屋で働いていた。そこを城の騎士にナンパされて彼女になった。
城の門のところで騎士の彼氏と遊びに行こうと待ち合わせをしていたら、運良く殿下に目をつけてもらえた。あの瞬間あたしの人生最高じゃない!?ってなったわ。
それなのに、あの冴えない女のシアが現れて子どもを産み、正妃ヅラしているから面白くなかった。でもね。あたしに惚れてる殿下はシアを子どもごと追い出した。あたしは正妃になった。当たり前のことよね。
あの女が必死に殿下の心を射止めようとしたり傷ついている顔をしたりしたときは愉快だったわ。だって、なんの苦労もない貴族の娘がなんの苦労もなく正妃になって殿下の横にいるなんて、それこそ気分が悪いわ。
そうよ。ここまでは良かったの。
「それなのに!あのバカ王子のせいで!!」
浅い考え方の殿下はシアの子どもを奪おうとし、よりにもよって、軍を動かして侯爵領へ踏み込み、攫っていこうとした。その罪で、あたしも一時的に幽閉された。
そして王子が辺境の地へ行くことになり、ついていくかと聞かれた。
なんでついて行かなきゃいけないの!?そんなのお断りよ!殿下は一人で寂しくいきなさいよ!とあたしはその日のうちに逃げ出した。追手は来なかった。たいした女じゃないと思っているのだろう。フン。どうせ居酒屋で働いていた平民の娘よっ!あたしのことをどうでもいいと思っている王家にも腹が立つわ!
「そうだわ。……シアの男をまた盗ってやればいいのよ」
ふふふと笑いが唇から溢れる。冴えない女はあの公爵様をおとしたらしいけど、シアにおとせてあたしにおとせない男はいないわ。
シアの再婚相手の公爵様は女嫌いだと思っていたけれど、いろいろあって、どうやらそうではないことがわかった。運はあたしに味方してるわ!女が好きならあたしが負けることなどない!
さっそくあたしは行動に移した。公爵家のメイドに応募する。王宮では王妃としての教育も受けさせてもらったもの、メイドなんて楽勝よ。
……が、メイドでは受からなかった。
「な、なぜ!?メイドはだめなのよ!?」
鉄面皮と言えるほど、無表情のメイド長が淡々と告げる。
「クラウゼ公爵家のメイド審査は厳しいんですよ。しかも給金が良いというだけあり、人気の就職先なんです。つまり狭き門なのです。ご存じなかったですか?下女なら枠があります。よければいかが?」
「くっ……下女ですってええええ!?」
「嫌ならお帰りください」
パタンと履歴書のファイルを無慈悲に閉じる。この私を知らないの!?叫びたいが、それをしてしまっては潜入に失敗するわね。ここは我慢よ!我慢っ!ようは公爵様に近寄って、色仕掛けでもしてしまえばいいんだから!
じゃあ、下女でお願いしますと言おうとした瞬間だった。バーンッ!とドアが開く。
「ちょっとおおお!大変なのおおおお!きいてよおおお!」
大柄のメイド!?メイド服を着た男!?!?男なの!?女なの!?
「ジャネット、今、面接中です。後からにしてください」
「メイド長、冷たいわねぇ!そう言わないできいてよおおおお!」
「仕事が優先です」
「こーんな大きい蛇が、木にまきついてんのよぉ!メイド長なら一発で倒せるでしょおおお!?」
「……そうですね。ジャネットもできるでしょう?ご自分でされたらいかが?」
へ、へび!?倒せるの!?
「むりよおおおお!乙女に蛇を殺せって!?蛇かわいそうでしょう!?」
「なにが乙女ですか」
どうみても大柄なメイドのほうが強そうなのに、この神経質そうで細身のメイド長が蛇を倒せるとか……うそでしょう!?あたしの疑問に気付いたらしく、メイド長は言った。
「人を見かけやうわべだけで判断しないほうがいいですよ。あ、そうですね。これを採用試験にしましょう。木のところにいる大蛇を生きたまま、そこの果実酒用の大瓶に入れてください。入れることができたら下女合格です」
は!?蛇を生け捕り!?
「それいいわね!」
ジャネットとかいうメイドまで賛成する。
「ちょっと待ってよ!そんなこと不可能でしょ!?」
「あらあ?そんなことないわよお」
「できませんか?」
二人に言われて、あたしはできませんと小さく答えた。むしろできる人間いるの!?
「よかったら生け捕りを見ていきますか?蛇酒にしても良いですよ」
淡々と無表情のメイド長が言う。
「けっこうよっ!!どんな神経してるのよ!」
あたしは立ち上がる。こうなったらどんな手を使ってでも公爵様に近寄ってやるわ!既成事実さえ作ってしまえばいいのよ!また傷ついたシアの顔を見てやるわ!
「そうそう。今度この屋敷に近づいたら、あなたを瓶詰めにしちゃうかもしれないから気をつけてください」
え?とあたしは背後から言われた言葉に振り替える。そこには目を細めている二人のメイドがいた。手には鋭い短剣の切っ先をもてあそぶジャネットと冷たいまなざしで何かの薬品を手にしているメイド長がいた。
その光景にゾッとした。あたしは悲鳴をあげかけたが、必死でこらえた。どうやって屋敷からでたのかわからないくらいだった。
ばれていた!ばれていたわ!!あたしの素性は最初からばれていたのね!!二人のメイドの茶番劇は『さっさと去れ』ということだったのだ。
足が絡まりそうになるのをこらえて、走り続けた。そしてそのまま、あたしは国外に逃げたのだった。派手な生活に慣れたあたしはその後の貧乏に耐えれず、お金がつきてしまい、やはり元の貧乏な生活になってしまったのだった。
欲も過ぎれば、人生棒に振る。
殿下とともに北の地へいったらどんな未来だったのだろうか?寒い地で彼が何をしているのか、今では知る由もない。
あんな王子と一緒にど田舎で寒いブリジット地方になんて行きたくないわっ!お断りよっ!!
わたくしは王子を惹きつけるくらい美しいんだから、どんな男だっておとしてみせるわ。まだまだチャンスはあるはず。
ジャラリッと王宮から持ち出した宝石を袋から取り出す。ドレスはある程度売りに出した。お金だってある。
「でもなによりも……あのシアよね!地味女のくせに。ことごとくわたくし……もう丁寧な言葉も必要ないわね。……あたしの邪魔をするんだからっ!」
オースティン殿下には没落貴族の娘と言ってあったが、本当は平民で靴屋の娘だった。靴屋が儲からないし退屈な仕事だったから、夜に居酒屋で働いていた。そこを城の騎士にナンパされて彼女になった。
城の門のところで騎士の彼氏と遊びに行こうと待ち合わせをしていたら、運良く殿下に目をつけてもらえた。あの瞬間あたしの人生最高じゃない!?ってなったわ。
それなのに、あの冴えない女のシアが現れて子どもを産み、正妃ヅラしているから面白くなかった。でもね。あたしに惚れてる殿下はシアを子どもごと追い出した。あたしは正妃になった。当たり前のことよね。
あの女が必死に殿下の心を射止めようとしたり傷ついている顔をしたりしたときは愉快だったわ。だって、なんの苦労もない貴族の娘がなんの苦労もなく正妃になって殿下の横にいるなんて、それこそ気分が悪いわ。
そうよ。ここまでは良かったの。
「それなのに!あのバカ王子のせいで!!」
浅い考え方の殿下はシアの子どもを奪おうとし、よりにもよって、軍を動かして侯爵領へ踏み込み、攫っていこうとした。その罪で、あたしも一時的に幽閉された。
そして王子が辺境の地へ行くことになり、ついていくかと聞かれた。
なんでついて行かなきゃいけないの!?そんなのお断りよ!殿下は一人で寂しくいきなさいよ!とあたしはその日のうちに逃げ出した。追手は来なかった。たいした女じゃないと思っているのだろう。フン。どうせ居酒屋で働いていた平民の娘よっ!あたしのことをどうでもいいと思っている王家にも腹が立つわ!
「そうだわ。……シアの男をまた盗ってやればいいのよ」
ふふふと笑いが唇から溢れる。冴えない女はあの公爵様をおとしたらしいけど、シアにおとせてあたしにおとせない男はいないわ。
シアの再婚相手の公爵様は女嫌いだと思っていたけれど、いろいろあって、どうやらそうではないことがわかった。運はあたしに味方してるわ!女が好きならあたしが負けることなどない!
さっそくあたしは行動に移した。公爵家のメイドに応募する。王宮では王妃としての教育も受けさせてもらったもの、メイドなんて楽勝よ。
……が、メイドでは受からなかった。
「な、なぜ!?メイドはだめなのよ!?」
鉄面皮と言えるほど、無表情のメイド長が淡々と告げる。
「クラウゼ公爵家のメイド審査は厳しいんですよ。しかも給金が良いというだけあり、人気の就職先なんです。つまり狭き門なのです。ご存じなかったですか?下女なら枠があります。よければいかが?」
「くっ……下女ですってええええ!?」
「嫌ならお帰りください」
パタンと履歴書のファイルを無慈悲に閉じる。この私を知らないの!?叫びたいが、それをしてしまっては潜入に失敗するわね。ここは我慢よ!我慢っ!ようは公爵様に近寄って、色仕掛けでもしてしまえばいいんだから!
じゃあ、下女でお願いしますと言おうとした瞬間だった。バーンッ!とドアが開く。
「ちょっとおおお!大変なのおおおお!きいてよおおお!」
大柄のメイド!?メイド服を着た男!?!?男なの!?女なの!?
「ジャネット、今、面接中です。後からにしてください」
「メイド長、冷たいわねぇ!そう言わないできいてよおおおお!」
「仕事が優先です」
「こーんな大きい蛇が、木にまきついてんのよぉ!メイド長なら一発で倒せるでしょおおお!?」
「……そうですね。ジャネットもできるでしょう?ご自分でされたらいかが?」
へ、へび!?倒せるの!?
「むりよおおおお!乙女に蛇を殺せって!?蛇かわいそうでしょう!?」
「なにが乙女ですか」
どうみても大柄なメイドのほうが強そうなのに、この神経質そうで細身のメイド長が蛇を倒せるとか……うそでしょう!?あたしの疑問に気付いたらしく、メイド長は言った。
「人を見かけやうわべだけで判断しないほうがいいですよ。あ、そうですね。これを採用試験にしましょう。木のところにいる大蛇を生きたまま、そこの果実酒用の大瓶に入れてください。入れることができたら下女合格です」
は!?蛇を生け捕り!?
「それいいわね!」
ジャネットとかいうメイドまで賛成する。
「ちょっと待ってよ!そんなこと不可能でしょ!?」
「あらあ?そんなことないわよお」
「できませんか?」
二人に言われて、あたしはできませんと小さく答えた。むしろできる人間いるの!?
「よかったら生け捕りを見ていきますか?蛇酒にしても良いですよ」
淡々と無表情のメイド長が言う。
「けっこうよっ!!どんな神経してるのよ!」
あたしは立ち上がる。こうなったらどんな手を使ってでも公爵様に近寄ってやるわ!既成事実さえ作ってしまえばいいのよ!また傷ついたシアの顔を見てやるわ!
「そうそう。今度この屋敷に近づいたら、あなたを瓶詰めにしちゃうかもしれないから気をつけてください」
え?とあたしは背後から言われた言葉に振り替える。そこには目を細めている二人のメイドがいた。手には鋭い短剣の切っ先をもてあそぶジャネットと冷たいまなざしで何かの薬品を手にしているメイド長がいた。
その光景にゾッとした。あたしは悲鳴をあげかけたが、必死でこらえた。どうやって屋敷からでたのかわからないくらいだった。
ばれていた!ばれていたわ!!あたしの素性は最初からばれていたのね!!二人のメイドの茶番劇は『さっさと去れ』ということだったのだ。
足が絡まりそうになるのをこらえて、走り続けた。そしてそのまま、あたしは国外に逃げたのだった。派手な生活に慣れたあたしはその後の貧乏に耐えれず、お金がつきてしまい、やはり元の貧乏な生活になってしまったのだった。
欲も過ぎれば、人生棒に振る。
殿下とともに北の地へいったらどんな未来だったのだろうか?寒い地で彼が何をしているのか、今では知る由もない。
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