天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

クラーク家は大騒ぎ

　帰ってきてベッドに倒れ込み、三日三晩寝込んでいた私を………。

「リアーーーーンっ！おまえ、何しでかした！？」

　商談から帰ってきたお父様がバタバタと部屋まで走ってきて、私を怒鳴りつけた。アナベルは慌てるが、詳細を話せるわけもなく……。

「お、お嬢様は……えーと、ウィルバート様を心配するあまり、塞ぎ込んでしまって、無事とわかると安心し……」

「そんな殊勝な娘のわけがないだろうっ！」

　アナベルの説明をぶった切って、そう言い切るお父様。……よく娘をご存知です。

「離縁か！？ま、まさか追い出されて！？」

「もー、そのうちわかるわよ。ゴロゴロさせてよー。私は疲れてるのよ。ほら療養させてあげてくださいって王家からも言われてるでしょー？」

「いつまでだ！？おまえ……まさか……やりすぎたな？」

　ギクッとする私。頬に伝う汗。お父様がにじり寄る。

「情報を我が家の商人から得てることは知っている。なにかしたな！？」

「あ、あら？お父様、情報収集と分析は私の小さい頃からの趣味って知っているでしょう？普通の趣味を楽しんでいるだけよ」

「お嬢様……普通の方はそんな趣味ありません」

　額に手を当てるアナベル。

「追い出された娘など恥ずかしくてこの家には置けないからな！」
　
　バンッと扉を強く閉めて去っていくお父様。やれやれ……だわ。

「お嬢様はこれでよろしいのですか？男ならば武勲の一つどころか英雄扱いされていたことでしょうに……ウィルバート様からは離縁を申し渡され、ご実家には居られなくなり、お嬢様はいったいなにをしたかったんです？なにを得たんです？」

　アナベルが声を震わせる。

「良いのよ。私の反省はそこね！すっかり保身を忘れていたわ。まあ、どこぞの田舎でゆっくり怠惰に過ごすわ。そんな怠惰な生活も悪くないでしょ」

　別に贅沢したいわけでもないし、毎日、本を読んで余生を過ごすのも悪くないかも。悲観的に考えてはダメ。

「それは困るな」

　その声にえっ！？と私とアナベルは扉の方を向いた。ウィルバート……が懐かしいウィルの姿をして立っていた。庶民の服装をしている。

「な、なんでここに！？」

「久しぶりに帰ってきたリアンのことを心配して、学友のウィルが訪ねてきたんだ。別に不自然は無いだろ？」

「……口調がウィルバートよ？やっぱり怒ってるのね」

　ウィルが近づいてきた。顔は……やっぱり怖い。目の下に隈まで作って、ひどく疲れた顔をしてる。お別れの挨拶に来たのねと覚悟を決める。

　……え！？ええええええーーっ！？

　アナベルがキャア！と言って、慌てて、部屋から出ていく音がした。私……ベッドに押し倒されてる……なぜ？

「あの……えーと……お別れに来たんじゃなかったの？」

「いや？迎えに来た。オレが怒ってるのは不甲斐ないオレ自身にだ。三日いないだけだったのに……寝れなかった。頼むからもう二度と自分の身を賭けないでくれ。離縁とか言ってごめん。リアンを自由にしたほうがいいと思ったけど………やっぱり………オレにはリアンがいないと無理なん………だ」

　え！？む、迎えに来たの！？

　言葉が途切れ途切れになり、ポスっと私の胸に頭を置いてギュッと抱きしめられたかと思ったら……スースー寝だすウィルバート。

　な、なんなのよ！？この……甘えた子どもみたいな姿は！？これは予想していなかった。

　しかたないわねと私は笑った。ギュッと抱きしめた。私自身を賭けるしかなかったと言えど、私がしたことでウィルバートの心を傷つけてしまった。ごめんね……と小さく謝る。

　今はゆっくり眠らせてあげるわ。迎えに来てくれて………ありがとう。

　私、本当は待っていたの。こうやって来てくれることを期待してた。