天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

文字の大きさ
140 / 304

戴冠式は行われる

しおりを挟む
 戴冠式の日が来て、オレとリアンは特別席に案内される。ユクドール王国と懇意にしている国がその席に座れるらしく、知った顔が多い。

「華やかだし、規模も大きいなぁ」

 ズラリと並んだ人々や王城の広場の面積、音楽隊に騎士たち………栄華を誇るユクドール王国はやはりすごいと感じる。

「……リアン?」

 なんだかリアンが大人しい気がして声を掛ける。今日の彼女はとても綺麗に着飾っていて、美しく結われた髪、そして青色のドレスはオレの目の色と合わせてくれたのかなと嬉しくなる。

「な、なにかしら?」

「元気無くないか?体調悪いのか?」

「元気よ!じゃ……なくて、陛下の気遣い感謝しますわ……」

 え!?何だ!?この返し!?おかしくないか!?丁寧な言葉に優雅な仕草……そしてやけに静かでオレが尋ねるまで返事をしない。

「怒ってないよな?」

「私が陛下に対して怒るなんてとんでもないですわ」

 やはりリアンの調子が変だよな?なんかオレ、怒るようなことしたかな?変だと思っているうちに戴冠式が始まってしまう。

 白い鳥が何百羽とよく晴れた空に舞い上がり、ラッパの音が響く。

 長いマントを後ろからついてくる子どもが持ち、きっきりとした詰め襟の服を着たコンラッドが中央から歩いてくる。自信に溢れるように見え、微笑みを浮かべている。

 兄になったような気持ちで、つい見守ってしまう。立派になったなぁ……あの庭園で二人で無邪気に走り回っていた頃が嘘のように遠い。

 赤い絨毯の道を歩き、止まった時、コンラッドは儀式の中央にいた。そして司祭から頭上に冠を載せられる。高鳴る音楽、鳴り響く空砲、人々は手が痛いくらいに拍手する。

「美しい光景ね。ウィルの時もこんな感じだったの?」

「オレ?そうだなぁ。大体は似てる流れだな。ユクドール王国よりも簡素だけどね」

「そうなのね。見てみたかったわ」

「そうだな。招待すればよかったんだけど、黙っていたから……リアンには王としてあの時はまだ見られたくなかったんだ」

 王になって、捨てなきゃいけないのに捨てきれなくて、未練がましく顔をこっそり出していた師匠の私塾。そこにリアンがいて、その時だけウィルバートではなくただのウィルでいられた。まさか宰相が花嫁探しを始めてしまい、リアンの父がそれにのっかり、リアンが後宮に来るなんて思いもよらなかったんだが……今更だけど、断られなくてよかったと安堵する。

「ウィル、私、あなたが……他にも後宮に王妃を入れたいなら、それでもかまわないわ。大丈夫だから」

「えっ?……はっ!?」

 思わず驚いてリアンを見た。リアンはこちらを見ない。無表情で、戴冠式の方を眺めている。その顔から表情は読み取れなかった。
 
「なんでいきなり、そんなことを?オレは望んでいないけど?」

「今は望んでいなくても未来はわからないわ。私、覚悟を決めておきたいの。大丈夫だってことをウィルに言っておこうと思ったの」

 こちらをやはり見ない。ユクドール王国に来てから、少しリアンは変だ。違和感がある。いつものいきいきとしたリアンはどこへいった?

 戴冠式は進んでいく。それ以上リアンは何も言わなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...