天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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青空の下で

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 後宮の庭は花盛りだった。温かな日差しに眠くなる。ふわりとアナベルが私にひざ掛けをかけた。

「お嬢様、体をお大事にしてください」  

「ありがとう」
  
 私がお礼を言うと、ニコッとアナベルは笑った。小さなテーブルにお茶セットが並んでいく。甘いイチゴジャム、桃のジャム、ブルーベリージャム、マーマレード。その横に四角いクラッカー。小さな卵と野菜のサンドイッチ、お茶用のミルク、レモン……。

 今日のお茶は外でしたいと話すと、手早く用意してくれた。

「美味しそう!この時間って夕食間近なのについ食べちゃうのよね」   

「午後のお茶は誘惑が多いですよね。陛下がいらしてからですよ。つまみ食いとか王妃様はしませんよ!?」
 
 アナベルがガードする。食べてもウィルなら良いよって言ってくれるとは思うけど、確かに、彼は王様でもあるものね。敬意を払おう。……お菓子のつまみ食いの我慢で、敬意とか言うのもおかしいけど。

 しばらくしてウィルがやってきた。午後の光にサラサラとした金の髪が王冠をかぶっているように光を浴びている。優しい青い目が私を見た。

「やあ。遅れた。ごめん!」

「待っていたわ」
 
 そこは大丈夫よ!でしょう!?と、アナベルが横からうるさい。こんな美味しいものを目の前に待たされるなんて、我慢も大変なのよ?

「オレのことを!?」

「えっ?えええっと……そうね!」

 ……前向きな彼だった。ワンコのように素直に嬉しい顔をした。王である時は険しく強い雰囲気なのに、こうやってくつろぐときはウィルのようになる。自覚があるのかないのかわからないけど。

「師匠から、今から他国と共にしようとしていることは良いことではないかという返事をもらった。ある程度の見通しも立てた」

「まあ!良かったわ。師匠がそう言うなら、いけそうね」

 その当の師匠は何処へ行ったのかわからず、少し嫌な予感がするんだけど、今は考えずにいよう。

「リアンも賛成してただろう?」

「大きな事を起こす時は、たくさんの人の意見を聞いたほうが良いもの」

 まぁ、そうだね。とニコッと笑うウィル。機嫌が良い。

「ウィル、話したいことがあるの」

「そういえば、お茶の時間に話したいことがあると聞いていたよ」

 私はそうなのと頷いた。

「実は赤ちゃんが……」

 ガタッと席を立つウィル。早っ!

「まだ全部言ってないわよ!」

「あ、ごめん。早すぎた」

 椅子に座るがソワソワしている。ワンコの耳と尻尾の幻覚が見えるわ。

「赤ちゃんがいるの。ここに」

 お腹を指差す。

「リアーン!!」

 今度こそ立ち上がって、私のところへきて、ギュッと抱きしめた。……だ、抱きしめ……長い!?

「ちょ、ちょっと!?ウィル!?」

「ごめん。しばらくこうしていていいかな?」

 ………ぐすっと涙声。

 まさか泣いてるの!?抱きしめられていてウィルの顔が見えない。しかし傍で護衛をしているセオドアの顔が、今までみたことない顔になっていた。ウィルが泣いた!?と驚きすぎて、息を呑んでいる。

「ありがとう。大好きだよ」

 私も好きよ。大好きなのとそっと言った。今まで素直に言えなかったけど、なぜか今日は恥ずかしがらずに言えた。

「オレはずっと失ってばかりだって思っていた。心から抱きしめ、抱きしめられることなんてないと諦めていた。未来にこんな幸せなこと待っていたなんて思わなかったんだ」

「ウィル……バート。今日も明日もずっと一緒に生きていくわ。大丈夫」

 この先、不安な未来が見えても、なにがあっても、私は持ってる愛をウィルやあなたの子に分け与えることを誓うわ。

 平和で穏やかな青く澄み渡る空の下で………。
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