天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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怠惰な彼女は怠惰に過ごすことを求められる

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 図書室で本を借りるために来ているのだけれど……。

「うわ!やめてくださいよ!その本はお取りしますからっ!」

 図書室の司書、クロードが慌てて立ち上がって、手を伸ばした先の本を取る。

「……そんな高いところの本じゃないわよ?」
  
「つま先立ちしていたでしょう!?転んだらどうするんです!?」   

 いつもまったりと座っていたクロードが顔色を変えてそう言う。

「『図式の経済学』『歴史を動かす外交戦略』『世界の歴史で学ぶ政治』……なんというものを読むんです!?胎教に悪いでしょう。もっと優しいものの方が良いでしょう!?」

 本の嗜好まで口を出してくる。私は苦笑する。

「気にしすぎよ。いったい今日はどうしたっていうの?」

 クロードはメガネをキュッと持ち上げて直す。いつになく真剣な眼差し。

「ここで、何かあっては陛下に怒られ……いや……厳しく罰せられますから!」

 そう叫ぶ。私はここでもなの!?と言いかけて止めた。

 そう……私の体を気遣ってのことなのかもしれないけど。

 庭園を散歩していると、護衛のトラスが口を挟む。

「そろそろお部屋に戻られる時間です。ゆっくり体をお休めになってください」

「えっ!?もう!?まだ外にいたいわ」

 真面目な顔をしてトラスはコックリと頷いた。それは有無を言わせない雰囲気だった。日傘を持っていたアナベルもそうしてくださいと、トラスと同意見だった。

「後宮の庭の散歩に危険なことなんてないでしょう?皆、過保護になりすぎよ!」

「お体を第一に思ってのことです。お部屋で怠惰に過ごされること、好きでしょう。ぜひそうしてほしいのです」
 
 トラスにそう言われ、返事にうっ……と詰まる。

「トラスから怠惰に過ごすことを勧められる日がくるなんて……」

「今こそ怠惰に過ごしてください」

 繰り返し言われる。大人しく部屋へと帰る。

「このお茶はハーブティーなので、気持ちが落ち着きますよ」

 アナベルが良い香りのお茶を淹れてくれる。

「陛下がわざわざお取り寄せしてくださったとか」

「えっ!?お茶を!?」

 政務だけでも忙しいのに!?ウィルがお茶を!?

 ハイとアナベルはニコニコと、私よりも嬉しそうに笑っている。

「どうぞ。お茶です」

「えーと、お茶菓子は?」

「駄目です。栄養をとるためにお食事を主体にとられてください。午後のお茶にはお菓子をつけますから。お茶をどうぞ」

「ええええ!?」

 お茶だけ!?マジマジと受け取ったカップの中身を眺める。アナベルはさらに言う。

「こちらにお気に入りのクッションも配置済みですから、柔らかいソファーのところへどうぞ。これで怠惰に過ごせますでしょうか?」
 
 私は戸惑った。

 そうよ……私は怠惰に過ごしたいとは思ったわ。だけどだけど、そうじゃないのよ!

 人から強要される怠惰なんて真の怠惰に過ごすことにならないのよーーーーっ!!

 そしてウィルの命令に忠実な人たちからの私への気遣いが重すぎる。私はこんな展開になるなんて、読めてなかった。この天才と呼ばれたリアン様でも読めないなんて!世の中まだまだ謎だらけだわ。

 怠惰に過ごすことを求められ、怠惰に過ごすことにストレスを感じるなんてね……。
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