天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

文字の大きさ
251 / 304

ゲームの真意

しおりを挟む
 カッ!と私の手の中のクイーンが盤上を歩く。

「クイーンはこの盤上のゲームにおいて、もっとも価値ある強い駒だよねっ」

 ミンツ先輩はそう言った。自分のキングの駒を人差し指でツンツンして言葉を続ける。

「そしてキングの安全性は絶対に守る。キャスリングし、中央からずらす……これは基本的なことだねっ!」

「何が言いたいの?」

 私はめんどくさい例えをしなくていいから、ミンツ先輩に早く本題に入りなさいよと促す。

「ハハッ。せっかく久しぶりにゲームしてるんだし?ちょっと付き合ってくれたまえ」

「……がら空きよ」

 カツンと私が駒を置くと、ああっ!と叫ぶミンツ先輩。顎に手をやって考えている。

 しばらくすると勝負はついた。

「あーあー……やっぱりリアンには敵わないな。あの先生すらリアンとゲームの読みの勝負じゃ負けてたよねっ!」

「ゲームは十分楽しみ、終わったけど?」

 冷たく言い放たれても、ニコニコしているミンツ先輩。

「気が早いねぇ。もっとボクとの時間を楽しもうじゃないかっ!」

「あいにくお昼寝タイムが差し迫ってるのよ」

「それが君のスタイルってわけだねっ!」

 私の怠惰が怠惰を装っているだけと見抜いている……。いつも明るい雰囲気のミンツ先輩が珍しく一呼吸おき、声のトーンが落ちた。言いにくいことを話すようだ。

「リアン、このゲームの盤の上ではなんの制限もないから勝てるだけど兵士の命をかけたとき、君はここぞというときに決断できるかな?残酷な策を用いることはできるかい?今、子を産めば命の尊さを知ることになるよね」

「……つまり私は非情になれないってこと?」

 ニコッとミンツ先輩は私を見て笑った。

「理解が早くて助かるねっ!なれないって言っているわけではないよっ!きっとその決断をする時に君はすごく傷つくと思うんだよっ!ボクが汚れ役をしてあげるよって意味だよっ!君の才能を埋もれさせるのはもったいないからねっ!盤上の戦いのように制限なく戦略を立てていくことをさせてあげたいんだよっ!」

 自分勝手な言い分に聞こえるが、ミンツ先輩が私の代わりに矢面に立ってあげようという提案だった。それは負けたり失敗したりしたときは彼の……彼の命を賭けるという意味。

「そんなことしてもらわなくてもいいわ!私、できるわよ!」

「違うだろう?役目が違うよっ!リアンは何があってもこの国に存在しなきゃダメなんだよっ。心優しき慈悲の心がある、民思いの王妃様。君は民に対して、国の王妃の姿はそうあるべきだとわかっているよね?でも平和主義の策ばかりでこの先乗り切れないこともあるよっ!」

「策をしっかりたてればいけるわよ。相手の先を読んで情報を使っていけば……」

「いいや。今までだって、うまくいかない想定の時も君ならしていただろ?失敗したときの場合、裏切られた場合、戦況が変化した場合……たくさんの想定をし、考えられるものすべて君は頭の中で計算し、その後、どう動くか決めているよねっ。最悪、自分の命を賭けたこともあるんじゃないかい?」

 ………言葉を返せない。そう。ミンツ先輩のこういうところが苦手なのよ。勝手に人の頭を覗くようなところが。

「手を汚すのはボク。上手くボクを使えばいいよっ。リアン、ボクでもウィルでもいい。策や考えを授けてくれたまえ。手足となって動いてあげるよっ。なんにせよ、しばらく君は動けないだろっ?リアンは大事な王位継承を持つ子を産み育てることだよ。陛下は君を安心させたいっていうのもあるから直々に頼みに来たんじゃないかなっ?」

 人材集めをしていたのは、だた多忙だったっていうだけではないということなのね。ウィルがやけにあっさりとラッセルが言った言葉を了承したと思っていたのよね。

「そんな情けない顔をしないでくれたまえっ!いいかい?君の力が必要な時は必ず来るよっ!ボクが城に来た理由、これでわかったよねっ!」

 じゃあね!と言って、言いたいことだけ言って、さっさと去っていく。その後ろを影のようにセオドアが着いていく。

 私に大人しくしているようにとミンツ先輩は釘を差しにきたのだ。大事な王位継承者を産み育て、一国の王妃は優しく平和主義であることが最善で望ましい。

 ……それはわかってる。ミンツ先輩の優しさでもある。彼は汚い部分、残酷な部分をすべて私の変わりに背負ってくれると言っているのだ。

 だけど、なんだろうか?この胸の中にある穴は?なんだかスースーするのだった。

 私は自分でも理由がわからないけど、涙が少しだけ出た。それはウィルに見せたくない涙だったから、今日は体調が悪いと言って、来ないように言伝を頼んだ。

 アナベルはなにもふれず、いつもどおり接してくれたのが、ありがたかった。

 きっと私は自分が落ち込んだような気持ちになったのはなぜか?と問われても答えられなかったと思うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...