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恋することの難しさ
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砂漠の王は時折、砂漠に引っ込む。私に手紙をよこしてきた。
『しばらく砂漠の砂嵐の季節になる。連絡が途絶える前に挨拶しておこう。砂嵐があるからと言って、我が国にマイナスな気持ちを持たないでくれ。なかなか砂嵐も慣れると恐ろしいというより見ものだ。いつか見てみるといい。 ハキム』
この時期が来たのね。私は返事が届かないとわかっているので、砂嵐がおさまったら書こうと思った。
ハキムはしかたないとして……問題は……そう一番の問題は彼よ。
誰も入ってこないように良い、夕食会の後の時間、お茶を飲みつつ、コンラッド、ウィル、私が顔を揃えて内密な話をする。これはコンラッドの希望なのだけど……。
「どう思います?」
ウィルがコンラッドに相談されて、苦い顔をした。お茶がいつもの100倍くらい苦いというくらいの顔をしている。
「どう……って、本気か?」
「本気です。こんな気持ちは生まれて初めてなんです。どうしたらいいでしょうか?」
「リアンの時と違うのか?手に入らないものゆえに欲しいとか能力が欲しいとか?そういう部類ではなく?」
「違います。シェザルの女王陛下の姿を思い浮かばせると胸が苦しくなるんです」
それを恋というのよという言葉を私は飲み込む。応援してあげたいけれど、叶わない恋であることがわかっていて、応援することはできない。ウィルも私同様に無理だという顔をしている。
その私たち二人の様子にも気付かず、コンラッドは語り続ける。
「僕も同じように王位から逃げ出したい時期がありました。あの女王陛下も国を守るために自分を犠牲にしています。どこか自分を見ているようだと思うんです。僕もそういう時期があったのでわかります」
ウィルが額に手を置いた。明らかに(おいおい……正気にもどってくれよ!)と言いたげで、悩まし気だった。コンラッドの兄的な存在としては頭が痛いのだろうと思う。
私も口を出してみることにする。まずはかるーくいってみよう。
「コンラッド、魅了の力にはかかってないのよね?傾国の美女といってね、あまりに肩入れしすぎると……」
危険よと言おうとしたところにコンラッドが手を挙げて止めた。軽くいってみようと思ったけど、すでに初手からダメそうな予感がしてきた。こういう恋愛系の駆け引きや相談事は私は不得意だと自覚している。これが戦とかならば……。
「あの方に傾国の美女という名は確かに相応しいですね。しかし僕は傾国の美女の魅了の力にかかっていません。だから本物の恋だと思うのです」
ふぅと悩ましげなため息を漏らす。
傾国しないで!どうか大国ユクドール王国は傾国しないで!!そう叫びそうになるのを我慢する。
「コンラッド、自分でよくわかってるとは思うし、オレが言えた立場ではないが、女王陛下に手を出せば、シェザル王国の臣下や民はよく思わないだろう。ユクドールとシェザルの国の規模を考えたら、女王陛下をユクドール王が愛人にしたということになる。さらに、そのことが各国に知られたら、ユクドール王は女性にうつつをぬかしていて、恐れるに足りぬと思われるぞ。大国ユクドールが揺らげば、周辺諸国……いや、世界のパワーバランスすら変わる」
「わかってます。ウィルバートだって、リアン様しか娶らないと皆を困らせていたのに、ずるいですよ。我を通しているのに、僕だけ通せない」
「じゃあ、聞くが、女王陛下のために退位してもいいと思っているのか?」
ウィルの厳しい言葉にどうでしょうねぇとぼんやりとして答える。これはダメだとウィルは顔をしかめている。
「コンラッド様が私とウィルに相談したいと思ったのは、他の王国と違って後宮に私一人しか娶らずにいるから、普通の人達のように説教をされないだろうし、共感してくれると思ったからですね?私たちも確かに周囲の思いには添っていませんけども」
コンラッドが苦笑する。
「こんな事を誰にも言えないですからね」
私は微笑む。
「他の人に言えないということはコンラッド様は自分でわかってます。シェザルの女王陛下の心に踏み込んではならないと。周囲を巻きこむことも利がないこともわかっているのですね。それでいて、相談したいと言っている」
「リアン様、お見事な推察ですよ。ここに相談しに来たのは感情にまかせて事を起こしてしまうまえに、止めてほしかったからです」
「来てくれてよかったよ……」
ウィルが頰に冷や汗を流す。
「わかってはいるんです。この想いが叶わぬものだと。秘めていなければならない類だとわかっています」
目を下に落とし、暗い顔になる。王様の心は自分だけのものではない……なんて不自由な立場なんだろう。ウィルも覚悟していたのかしら?私が断ったら違う女性を後宮にいれていたかもしれない。そう思うと、なんだかせつなかった。
「人の心はどうにもならないものです。それがたとえ自分の心であっても操ることは難しい。コンラッド様の話を私達は聞くことはできます。どうか事を起こしたくなったら、また来てください」
ありがとうございますと言って、コンラッドは帰っていった。スッキリしない顔で……。
私とウィルは同じことを思った。目が合う。そして頷き合う。
……やはりおかしい状況だと。
「こないだ2人で話をしていたけど、やっぱりこの状況おかしいわよね?各国でなにかしら事が起きている」
「そうだな。コンラッドの恋ももしかして仕組まれたことかもしれない。噂に違わぬ美しい女王陛下に恋をすることも想定済みなのかもしれないな。そして一番気になるのが、4ヶ国のまとまりを少しずつ削り取られている気がすることだが、偶然ではないな」
「エイルシア王国にも何か仕掛けてくるわね」
「間違いなくくるだろう。揺らがないようにしたいものだが……」
同盟は諸刃の剣。結束すれば強い剣にもなれるが、問題が起きれば自国にも降りかかってくる。
それを利用している見事な策だと言える。こんなじわじわとした作戦をたてているのは、きっと先生しかいない。私たちの心や性格すら読み解いて組み立ててある。そして着実に勝てる要素を増やしていっている。
私は先生に勝てるのだろうか?
そう不安になったが口にしなかった。してはいけない気がしたからだ。
そして私とウィルの予感は当たり、私達の国に仕掛けられた策は、最もウィルが動揺するものであった。
フェイロン帝国から突然使いが来た。
『皇太子の妃候補として王女をフェイロン王国の後宮にいれたい』
そう持ちかけられたのだった。
『しばらく砂漠の砂嵐の季節になる。連絡が途絶える前に挨拶しておこう。砂嵐があるからと言って、我が国にマイナスな気持ちを持たないでくれ。なかなか砂嵐も慣れると恐ろしいというより見ものだ。いつか見てみるといい。 ハキム』
この時期が来たのね。私は返事が届かないとわかっているので、砂嵐がおさまったら書こうと思った。
ハキムはしかたないとして……問題は……そう一番の問題は彼よ。
誰も入ってこないように良い、夕食会の後の時間、お茶を飲みつつ、コンラッド、ウィル、私が顔を揃えて内密な話をする。これはコンラッドの希望なのだけど……。
「どう思います?」
ウィルがコンラッドに相談されて、苦い顔をした。お茶がいつもの100倍くらい苦いというくらいの顔をしている。
「どう……って、本気か?」
「本気です。こんな気持ちは生まれて初めてなんです。どうしたらいいでしょうか?」
「リアンの時と違うのか?手に入らないものゆえに欲しいとか能力が欲しいとか?そういう部類ではなく?」
「違います。シェザルの女王陛下の姿を思い浮かばせると胸が苦しくなるんです」
それを恋というのよという言葉を私は飲み込む。応援してあげたいけれど、叶わない恋であることがわかっていて、応援することはできない。ウィルも私同様に無理だという顔をしている。
その私たち二人の様子にも気付かず、コンラッドは語り続ける。
「僕も同じように王位から逃げ出したい時期がありました。あの女王陛下も国を守るために自分を犠牲にしています。どこか自分を見ているようだと思うんです。僕もそういう時期があったのでわかります」
ウィルが額に手を置いた。明らかに(おいおい……正気にもどってくれよ!)と言いたげで、悩まし気だった。コンラッドの兄的な存在としては頭が痛いのだろうと思う。
私も口を出してみることにする。まずはかるーくいってみよう。
「コンラッド、魅了の力にはかかってないのよね?傾国の美女といってね、あまりに肩入れしすぎると……」
危険よと言おうとしたところにコンラッドが手を挙げて止めた。軽くいってみようと思ったけど、すでに初手からダメそうな予感がしてきた。こういう恋愛系の駆け引きや相談事は私は不得意だと自覚している。これが戦とかならば……。
「あの方に傾国の美女という名は確かに相応しいですね。しかし僕は傾国の美女の魅了の力にかかっていません。だから本物の恋だと思うのです」
ふぅと悩ましげなため息を漏らす。
傾国しないで!どうか大国ユクドール王国は傾国しないで!!そう叫びそうになるのを我慢する。
「コンラッド、自分でよくわかってるとは思うし、オレが言えた立場ではないが、女王陛下に手を出せば、シェザル王国の臣下や民はよく思わないだろう。ユクドールとシェザルの国の規模を考えたら、女王陛下をユクドール王が愛人にしたということになる。さらに、そのことが各国に知られたら、ユクドール王は女性にうつつをぬかしていて、恐れるに足りぬと思われるぞ。大国ユクドールが揺らげば、周辺諸国……いや、世界のパワーバランスすら変わる」
「わかってます。ウィルバートだって、リアン様しか娶らないと皆を困らせていたのに、ずるいですよ。我を通しているのに、僕だけ通せない」
「じゃあ、聞くが、女王陛下のために退位してもいいと思っているのか?」
ウィルの厳しい言葉にどうでしょうねぇとぼんやりとして答える。これはダメだとウィルは顔をしかめている。
「コンラッド様が私とウィルに相談したいと思ったのは、他の王国と違って後宮に私一人しか娶らずにいるから、普通の人達のように説教をされないだろうし、共感してくれると思ったからですね?私たちも確かに周囲の思いには添っていませんけども」
コンラッドが苦笑する。
「こんな事を誰にも言えないですからね」
私は微笑む。
「他の人に言えないということはコンラッド様は自分でわかってます。シェザルの女王陛下の心に踏み込んではならないと。周囲を巻きこむことも利がないこともわかっているのですね。それでいて、相談したいと言っている」
「リアン様、お見事な推察ですよ。ここに相談しに来たのは感情にまかせて事を起こしてしまうまえに、止めてほしかったからです」
「来てくれてよかったよ……」
ウィルが頰に冷や汗を流す。
「わかってはいるんです。この想いが叶わぬものだと。秘めていなければならない類だとわかっています」
目を下に落とし、暗い顔になる。王様の心は自分だけのものではない……なんて不自由な立場なんだろう。ウィルも覚悟していたのかしら?私が断ったら違う女性を後宮にいれていたかもしれない。そう思うと、なんだかせつなかった。
「人の心はどうにもならないものです。それがたとえ自分の心であっても操ることは難しい。コンラッド様の話を私達は聞くことはできます。どうか事を起こしたくなったら、また来てください」
ありがとうございますと言って、コンラッドは帰っていった。スッキリしない顔で……。
私とウィルは同じことを思った。目が合う。そして頷き合う。
……やはりおかしい状況だと。
「こないだ2人で話をしていたけど、やっぱりこの状況おかしいわよね?各国でなにかしら事が起きている」
「そうだな。コンラッドの恋ももしかして仕組まれたことかもしれない。噂に違わぬ美しい女王陛下に恋をすることも想定済みなのかもしれないな。そして一番気になるのが、4ヶ国のまとまりを少しずつ削り取られている気がすることだが、偶然ではないな」
「エイルシア王国にも何か仕掛けてくるわね」
「間違いなくくるだろう。揺らがないようにしたいものだが……」
同盟は諸刃の剣。結束すれば強い剣にもなれるが、問題が起きれば自国にも降りかかってくる。
それを利用している見事な策だと言える。こんなじわじわとした作戦をたてているのは、きっと先生しかいない。私たちの心や性格すら読み解いて組み立ててある。そして着実に勝てる要素を増やしていっている。
私は先生に勝てるのだろうか?
そう不安になったが口にしなかった。してはいけない気がしたからだ。
そして私とウィルの予感は当たり、私達の国に仕掛けられた策は、最もウィルが動揺するものであった。
フェイロン帝国から突然使いが来た。
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そう持ちかけられたのだった。
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