ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第20話

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「さっさと、金を持って来いよ?」



そう吐き捨てるそうちゃんは、もう平成でのそうちゃんじゃない。

頭では納得していても、心がまだついていかないのが事実の弱い私は、ぐっと視線を下げて握りしめた拳を見た。

悔しい。

ただ、只管にその想いだけが、私に己の掌を爪が食い込むほどに握らせる。



「……為坊は」

「あ、奥でおやつを……」

「分かった」



そうちゃんの大きな背中に、先程とは違うゆるりとした殺気が満ちる。

そのさっきの向けられた先は、―――――――庄兵衛。



「為坊と金を持ってこい」

「ひっ」



その背に護られている私でさえも、ぞくりと背筋が凍ってしまいそうになる。

それ程に、冷徹な、本気の、殺気。

鋭利な刃のような感情を向けられて、息も絶え絶えになった庄兵衛は、自身が店に駆け込み、為坊と風呂敷包みを持って出てきた。



「………これでよろしいんで」

「ああ、世話になった」



すっと殺気を仕舞いこみ、風呂敷を受け取るそうちゃん。

為坊は何が起こったのか分からずに、ただ突っ立っているように見えたのだけれど、お菓子をもらえなかったのが不満だったようで、その着物の裾に縋って、庄兵衛を見上げた。



「お菓子はー?」



その刹那。



「うるさいこの餓鬼!」

「っ!?」



バシン! と音がして、為坊が店の入り口に転がった。



「………う、」



涙を溜めて頬を抑える為坊。

それを見たら、もう、――――限界だった。



「貴方は!!!!!!」



止めようとするそうちゃんの手を振りほどき、庄兵衛に詰め寄る。



「貴方は、如何して――――如何して、そんなことができるの!?」



さっきまで笑ってたじゃない。

子どもが好きって、言ってたじゃない。

私にも、微笑んでくれて、凄くいい人だったじゃない。

如何して、人はここまで、――――変わるのか。



違う。

こうやって、人を変えるのは―――――――何?

何が、此処まで、変えさせてしまうの?

ふーっと威嚇でも始めようかと思った途端、そうちゃんに腕を引かれた。

その強さで、はっと我に返る。

くるりと振り向けば、眉を下げたいつも通りの貴方が、私を強い眼差しで見ていた。




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