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交渉
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恵菜は彼らの虚をついた後、二人の思考が巡り始める前にたたみかけるように話し始めた。ここで考える猶予を与えたら負けだ。早くこちらのペースに巻き込んで、どちらにも憤りを忘れてもらわなければ。
「だからその……!私は詐欺とかではなく!結婚したいと思ってます、ヨミと!本気で!ねっ!だから契約失敗しちゃったけど、どうしたらちゃんと契約結べるのかなと思って!ま、まず今の状況分かんないことだらけだし!別の神様?妖怪?と結んでしまってるなら、まずその相手が誰か探すところからやらないとなって思っているんだけど、どうかな……?あ、えっと、もう私に花嫁の資格がないとか、そういう叱責は、当然受け入れますが……知らなかったとはいえ、騙してたことに変わりはないし。知らなかったとはいえ、ね!」
「そんなわけがないであろう……!資格がないなどと、何を世迷言を!余にはそなたしかおらぬ、エナでなければならぬのだ、なぜそのようなことを……。そんなことを言って、余から逃れようとしておるのか?逃さぬぞ、この冥界から二度と出しはせぬ……!」
突然会話に割り込んで注意を引き、間髪入れずに建設的な話題をねじ込むことによって、なんとかヨミの関心を薫瑛から逸らすことに成功する。だが最後に余計な一言を添えてしまったようで、明からさまに動揺を見せるヨミに恵菜も思わず後ずさった。
自分にも非はある、と謙虚な姿勢を見せようとしたが逆効果だったらしい。ヨミの目に疑心が宿り、恵菜の肩を強く掴むと正面を向かせ、「逃しはしない」「もう余のものだ」と呪詛のような言葉を吐き始める。昏く澱んだ瞳に渦巻く、所有欲や征服欲のようなどす黒い感情を一瞬垣間見た気がして、恵菜は息すらできなかった。
全くもってこんなつもりじゃなかった恵菜は、思いがけぬヨミの反応に体が凍りついて何も言えない。この状況にどう始末をつけようと逡巡していた時だった。「ハッ」と嘲笑するような皮肉げな笑い声が聞こえたかと思うと、その声の主であった薫瑛がぼそりと呟く。呆れて疲れ切ったような、自暴自棄になったような声だった。
「……そりゃあそうでしょうけど、そんなことできたら苦労しないでしょう。エナ様さえ自覚がないうちに結ばれた契約の相手なんて、僕たちに特定するのは不可能ですよ。まあ、何か手掛かりがあるなら別ですけどね」
薄く自嘲し、そう言った彼はもうとうに諦めきったような顔をしていた。申し訳程度に「エナ様」と敬称をつけてはくれたものの、完全に形だけという雰囲気だ。もう表面上を取り繕うことすらどうでも良くなったらしい。
完全に素になった彼に複雑な思いを抱きつつも、まあ言われていることは正論だなと恵菜は考え込む。
手掛かり。まず知らないところで勝手に縁を結ばれていたと言われても、この年までそれらしき人やモノに巡り合ったことがない。それもそうだ、恵菜は恋愛面にかけてありえないくらい運が悪かったのだから。いくら出会いを求めてもいい人が現れても、偶然なのかと疑うほどにいつもうまくいかないことばかりだった。
――なぜだろうか?
「……あッ!」
突然思い出したように大声をあげた恵菜に、ヨミは驚いたように目をみはり、薫瑛は怪訝そうな顔をした。
ここへきてようやく恵菜は思い出した、記憶の端に追いやっていた少し前の不愉快な記憶。あの胡散臭い柄シャツ霊媒師に言われた言葉が頭をよぎる。
――『怖がらせたくはないんやけど、まぁ僕が見た限りは祟りの類やね。それが恵菜さんのご縁を邪魔しとる』
「手掛かり、あるかもしれない」
「……!それは誠か」
ヨミの食いつきようは凄まじかった。真紅の瞳にぎらついた光が宿り、妖しくも物騒な笑みを浮かべる。薫瑛も黙り込んだままだったが、じっとこちらの様子を窺っているようだった。
「うん、あの……少し前、向こうの世界にいた時にね、お見合い……いや、人間の知り合い!そう、あの、胡散臭い霊媒師だったんだけど、そいつに言われたの。私が祟られてて、それがご縁を邪魔してるって……。確かにそいつの言う通り、私生まれてからずっと男運がなかったんだよね。会おうとすると相手が事故に遭ったり、病気になったりとか。それが原因で一回も男の人と付き合えたことなくて……。」
言われたことを順に話していくうちに、頭の中も整理されていって、話すほどに原因は絶対その祟りとやらではないかという確信が深まっていく。逆に、ここまでの不運が続いていながらなぜ一瞬たりとも祟りや呪いの類のせいだと考えなかったのだろうか。今更ながら意味が分からない。薫瑛はこれみよがしに大きな溜め息をついた後、こちらを責めるように声を荒げた。
「……いや絶対それでしょう。もっと早くに言えよ、なんでこの段になって気付くんだよ!」
全くその通りである。ぐうの音も出ず恵菜はきまり悪そうな顔でうなだれた。
「だからその……!私は詐欺とかではなく!結婚したいと思ってます、ヨミと!本気で!ねっ!だから契約失敗しちゃったけど、どうしたらちゃんと契約結べるのかなと思って!ま、まず今の状況分かんないことだらけだし!別の神様?妖怪?と結んでしまってるなら、まずその相手が誰か探すところからやらないとなって思っているんだけど、どうかな……?あ、えっと、もう私に花嫁の資格がないとか、そういう叱責は、当然受け入れますが……知らなかったとはいえ、騙してたことに変わりはないし。知らなかったとはいえ、ね!」
「そんなわけがないであろう……!資格がないなどと、何を世迷言を!余にはそなたしかおらぬ、エナでなければならぬのだ、なぜそのようなことを……。そんなことを言って、余から逃れようとしておるのか?逃さぬぞ、この冥界から二度と出しはせぬ……!」
突然会話に割り込んで注意を引き、間髪入れずに建設的な話題をねじ込むことによって、なんとかヨミの関心を薫瑛から逸らすことに成功する。だが最後に余計な一言を添えてしまったようで、明からさまに動揺を見せるヨミに恵菜も思わず後ずさった。
自分にも非はある、と謙虚な姿勢を見せようとしたが逆効果だったらしい。ヨミの目に疑心が宿り、恵菜の肩を強く掴むと正面を向かせ、「逃しはしない」「もう余のものだ」と呪詛のような言葉を吐き始める。昏く澱んだ瞳に渦巻く、所有欲や征服欲のようなどす黒い感情を一瞬垣間見た気がして、恵菜は息すらできなかった。
全くもってこんなつもりじゃなかった恵菜は、思いがけぬヨミの反応に体が凍りついて何も言えない。この状況にどう始末をつけようと逡巡していた時だった。「ハッ」と嘲笑するような皮肉げな笑い声が聞こえたかと思うと、その声の主であった薫瑛がぼそりと呟く。呆れて疲れ切ったような、自暴自棄になったような声だった。
「……そりゃあそうでしょうけど、そんなことできたら苦労しないでしょう。エナ様さえ自覚がないうちに結ばれた契約の相手なんて、僕たちに特定するのは不可能ですよ。まあ、何か手掛かりがあるなら別ですけどね」
薄く自嘲し、そう言った彼はもうとうに諦めきったような顔をしていた。申し訳程度に「エナ様」と敬称をつけてはくれたものの、完全に形だけという雰囲気だ。もう表面上を取り繕うことすらどうでも良くなったらしい。
完全に素になった彼に複雑な思いを抱きつつも、まあ言われていることは正論だなと恵菜は考え込む。
手掛かり。まず知らないところで勝手に縁を結ばれていたと言われても、この年までそれらしき人やモノに巡り合ったことがない。それもそうだ、恵菜は恋愛面にかけてありえないくらい運が悪かったのだから。いくら出会いを求めてもいい人が現れても、偶然なのかと疑うほどにいつもうまくいかないことばかりだった。
――なぜだろうか?
「……あッ!」
突然思い出したように大声をあげた恵菜に、ヨミは驚いたように目をみはり、薫瑛は怪訝そうな顔をした。
ここへきてようやく恵菜は思い出した、記憶の端に追いやっていた少し前の不愉快な記憶。あの胡散臭い柄シャツ霊媒師に言われた言葉が頭をよぎる。
――『怖がらせたくはないんやけど、まぁ僕が見た限りは祟りの類やね。それが恵菜さんのご縁を邪魔しとる』
「手掛かり、あるかもしれない」
「……!それは誠か」
ヨミの食いつきようは凄まじかった。真紅の瞳にぎらついた光が宿り、妖しくも物騒な笑みを浮かべる。薫瑛も黙り込んだままだったが、じっとこちらの様子を窺っているようだった。
「うん、あの……少し前、向こうの世界にいた時にね、お見合い……いや、人間の知り合い!そう、あの、胡散臭い霊媒師だったんだけど、そいつに言われたの。私が祟られてて、それがご縁を邪魔してるって……。確かにそいつの言う通り、私生まれてからずっと男運がなかったんだよね。会おうとすると相手が事故に遭ったり、病気になったりとか。それが原因で一回も男の人と付き合えたことなくて……。」
言われたことを順に話していくうちに、頭の中も整理されていって、話すほどに原因は絶対その祟りとやらではないかという確信が深まっていく。逆に、ここまでの不運が続いていながらなぜ一瞬たりとも祟りや呪いの類のせいだと考えなかったのだろうか。今更ながら意味が分からない。薫瑛はこれみよがしに大きな溜め息をついた後、こちらを責めるように声を荒げた。
「……いや絶対それでしょう。もっと早くに言えよ、なんでこの段になって気付くんだよ!」
全くその通りである。ぐうの音も出ず恵菜はきまり悪そうな顔でうなだれた。
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