花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき

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 キャロライン・リンスコット侯爵令嬢はアンジェリカから届いた手紙を読み終わると、安堵の溜め息を吐いた。

「……良かったわ。アンジェリカが幸せそうで」

 侍女のアンジェリカは、幼い頃からキャロラインの身代わりとしての生活を強いられてきた。
 侯爵令嬢として振る舞えるような行儀作法を仕込まれ、キャロラインそっくりの立ち居振る舞いを身体に叩き込まれた。
 容貌を隠すために大きなメガネを掛け、毎日染めるせいで髪の毛は痛んでパサパサ。娘らしい楽しみひとつ許されず、目立たぬようひっそりと生きていかねばならなかった。

 それでもアンジェリカは愚痴一つ言わなかった。
 申し訳ないと口にするキャロラインに「侯爵様に多大な援助を頂いたお陰で、傾いていた実家は持ち直しました。それにお嬢様の御身をお守りするためですから、名誉な役目だと思っておりますわと笑ってくれたのだ。
 
 彼女に想い人がいると知ったキャロラインは、父へ相談した。アンジェリカには幸せになって欲しい。彼女への償いとして、せめて望む相手と結婚させてあげたい、と。
 
 しかし新妻となったアンジェリカに久しぶりに再会し、キャロラインは驚愕した。
 ひどく痩せていて、昏い目をするアンジェリカ。彼女からレナードの所業を聞き出したキャロラインは、怒髪が天を衝き破りそうだった。到底許せるものではない。
 キャロラインは渋るアンジェリカを説得し、ベックリー男爵を呼び出して離縁を促した。

 恩人であるアンジェリカを、あんな不誠実な男に任せるわけにはいかない。

 その『愛する人』とやらが誰なのかは分からなかった。アンジェリカも知らないと首を振るし、調べさせても女の影は無い様子だ。
 片思いを拗らせてるだけかもしれない。

 しかし結婚という選択をした以上、レナードはアンジェリカと向き合うべきだった。だが彼は身勝手な片思いを優先し、妻の苦しみに気付こうとしなかったのだ。

 アンジェリカの新しい夫となったウォルト・コーンズ子爵は実直な男だ。アンジェリカの過去を知った上で、彼女を受け入れ寄り添うと約束してくれた。
 手紙には領地での暮らしにようやく慣れてきたこと、また夫と仲良くやっていることがちょっとした惚気と共に書かれていた。夫婦仲はずいぶん良好のようだ。

 レナードは相変わらずティリス駐屯地に勤めている。
 結婚相手のジョアンナは真っ当な女性だと聞く。レナードが彼女に心を尽くせば、男女の愛情はなくとも愛のある家族にはなれるだろう。

 それが出来なければ、あの男は辺境の地で孤独なまま過ごすしかない。
 身勝手で不誠実な男には相応しい末路だ。
 
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