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9. シャーロット(2)
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数日、シャーロットは見えない姿のまま過ごした。
コリンナを除けば、誰もシャーロットの心配をしていなかった。叔父は彼女を捜してはいるが、その目的は相続を終わらせることだ。エレインに至っては、シャーロットがいないのをいいことに(実際はその場にいるのだが)、部屋を物色する始末。
(こんな寂しい思いをするのなら、いっそ本当に消して欲しかった)
そんな風に、女神様を恨むことすら考えてしまう。
誰にも知られずにここで朽ちるくらいならば、いっそ両親のお墓の前で死のう。
だけどその前に、コリンナに何とか伝えたいと思った。彼女はいなくなった主を必死で探し回り、ブレントに訴えて解雇になりかかっている。
彼女にもう探さなくていいと伝えたかった。
「お嬢様……」と呟くコリンナの肩を、シャーロットはそっと叩いた。怪訝な顔をして振り向いた彼女に見えるよう、木の枝で地面へ文字を書く。
『私はここにいる』
コリンナは透明なシャーロットを伴って、カーヴェル侯爵家を訪れた。希死念慮に囚われたシャーロットを、この忠実な侍女は必死で説得したのだ。そして唯一頼れそうな相手として思い当たった、クリフォードを頼ったのである。
クリフォードは留学中にクレヴァリー夫妻が亡くなったことを知ると、すぐに手紙を送ってきた。丁寧に葬式へ参列できなかったことを詫び、シャーロットの身を案じる内容はとても心温まるものだった。帰国した際は弔問に訪れ「シャーロット、痩せたのではないか?」と気遣いも見せた。
あの方なら、きっとお嬢様の力になってくれるとコリンナはシャーロットを説き伏せたのだ。
「王太子殿下に事情を説明したが、やはりシャーロットへの虐待だけでブレントを捕らえることは難しいようだ」
クリフォードは当初、コリンナの話を信じなかった。あまりにも荒唐無稽だったからだ。この女は頭がどうにかなったのではないか、という疑いすら持ったらしい。
だがシャーロットが彼の目の前で文字を書いてみせ、さらに見えはしないものの彼女の手に触れられることを知り、ようやく信じた。
そしてブレント一家の非道に激怒し、必ず奴らを捕らえると約束してくれたのである。
「遺産の横領の線で押さえるしかない。だが、証拠が必要だ。クレヴァリー家の帳簿を入手せねば」
「私が解雇された身でなければ、旦那様の執務室に忍び込むこともできたのですが……」
『クリフォード様、コリンナ。私に考えがあります』
シャーロットはクレヴァリー家を訪れたクリフォードにこっそりと同伴し、ブレントのいない隙に執務室から書類を持ち出したのだ。ブレントが想定以上に早く戻って来たのには肝を冷やしたが、なんとか執務室から抜け出すことが出来た。
そしてエレインとの茶飲み話で時間を稼いでいたクリフォードと馬車で落ち合い、帳簿と土地の売買証明書を渡したのだった。
コリンナを除けば、誰もシャーロットの心配をしていなかった。叔父は彼女を捜してはいるが、その目的は相続を終わらせることだ。エレインに至っては、シャーロットがいないのをいいことに(実際はその場にいるのだが)、部屋を物色する始末。
(こんな寂しい思いをするのなら、いっそ本当に消して欲しかった)
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誰にも知られずにここで朽ちるくらいならば、いっそ両親のお墓の前で死のう。
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「お嬢様……」と呟くコリンナの肩を、シャーロットはそっと叩いた。怪訝な顔をして振り向いた彼女に見えるよう、木の枝で地面へ文字を書く。
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「王太子殿下に事情を説明したが、やはりシャーロットへの虐待だけでブレントを捕らえることは難しいようだ」
クリフォードは当初、コリンナの話を信じなかった。あまりにも荒唐無稽だったからだ。この女は頭がどうにかなったのではないか、という疑いすら持ったらしい。
だがシャーロットが彼の目の前で文字を書いてみせ、さらに見えはしないものの彼女の手に触れられることを知り、ようやく信じた。
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そしてエレインとの茶飲み話で時間を稼いでいたクリフォードと馬車で落ち合い、帳簿と土地の売買証明書を渡したのだった。
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