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お兄様と東へ

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「時に、チェムリーよ」
「なんですか?お兄様」
「あれは我が貸した本の“古都・ローレル“の王妃を演じただろ?」
「え!?」
「いや、実に様になっていたものだ...(兄者は余計だったがな...)」


それは東に進んでから少しの事。
初めて公国から出たから嬉しくて、それだけでも少し変われたと実感をしてしまうのでした。

「よし、この辺で休憩だ。我は川から水を汲んでくる。オマエはそこら辺で道草してろ」

「あ...ちょっと?」
「んん?どうした?」
「一人はちょっと寂しいかなって...」
「一人ではないだろ?」
「え?」
「もう一人如何わしいのが心に居るんだろ?」
何故それを......
「ソイツと会話をして、ネタが無かったら我をお兄様と呼ばせる努力でもさせておくといい...さて、そうでは行ってくる」
ああ...呼び方を気にしてるんだ...
「気をつけて.....」

お兄様は、少し離れた川に向かい、わたしは直ぐそこにある樹木の下の芝生で腰を下ろすのでした。

(やるねぇ~!お兄たまは私に気づいていたか...流石に驚いたよ)

それはわたしだって。
けど、理解者が居てくれるのは幸いだったのかなって思うのです。

そう考えてたらなんだか眠くなってきたな.....

「戻ったぞ」
「お帰り~お兄様!」
「それで?元のチェムリーはどうしたんだ?」
「あり?何故わかる?」
「付き合いが長いからな。呼び方が同じであろうと雰囲気で分かる」
「やるな~流石はチェムリーを愛してるお兄たまだね~」
「“お兄たま“は、やめろ...せめてお兄さんと呼べ!」
「え~気に入ってるのに!」
「我が気に入らんからダメだ。それでチェムリーはどうした?」
「ん?眠ってるよ」
「そうか、ならオマエに言っておく事がある」
「ん?なになに?」

「あ、なんつーかよ」
「うん?」
「アイツは自分に自信がないのか、我や父上のいいなりになるつまらん人間だった」
「.............」
(真面目な話だった...)
「けど、クズのオマエが憑依か別人として現れてからそうでも無いんじゃないかと思ってな」
「クズ..だと.......」
「だから例を言いたい。感謝するクズチェムリー、これからもチェムリーをよろしく頼む」
(なんだ?喜んでいいのか、クズと言われた事に怒るべきか、わけが分からないよ...けど、チェムリーでもこれだけは分かるよ)
「ひょっとしてシスコンだね!」
「ああ、概ね正解だ」
「やっぱり?ならご褒美にキスしてあげようか?」
「!?...いや...つか...ゴホン...とりあえず事は元のチェムリーには黙っておいてくれ(口が軽そうだけどな...)」
「見てみて!あれは何?王国かな?」
「あれはルミナス王国だ(しめた...シスコンとかよりも、王国に夢中らしい)」
「ふーん。とりあえずお腹空いちゃったな」
「ところで」
「うん?」
「チェムリーの二つの人格では、胃袋は共有されてるよな?」
「んな事は当然だよ」
「だよな...(よく思えば睡眠が共有されてないのは便利だな...)」
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