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テンプレからの卒業…?
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私の名前は大隈 瑤佳。
この春から高校生。
私と弟の進学に合わせて、単身赴任していた父親の元へ家族で引っ越すことにした我が大隈家。
だから父親おすすめの、引っ越し先の新居から一番最寄りの学校を受験。落ちる訳には行かないからと必死で猛勉強して受かった学校は、県内屈指の名門校だった。
ちなみに我が大隈家は父母私弟の四人家族で、三つ下の弟も先日中学に入学している。
そして今日は入学式!
正門から校舎までのアプローチは煉瓦敷きで、両側の桜並木は今を盛りと咲き誇っている。
正門の端っこに立ち桜並木と校舎を見上げると、そこはまるで乙女ゲームのテンプレなオープニングのようで。
(わー、こんなゲームありそう)
テンプレな乙女ゲームだと、ヒロインは入学式の正門で攻略対象に偶然出会う流れ。
前世は悪役令嬢だった私。
今世はヒロイン、なんて贅沢は言いません!
悪役もお腹いっぱい。
モブでいい!モブがいいの!モブ万歳!
そして、平凡だけど平穏な恋をするの。
お互いがお互いを大事に思うような相手と。
キラキラしたイケメンなんてお呼びじゃないのだ。そんな人を好きになったら、不幸になるに決まっている。
いつ「お前なんて好きじゃない」と言われるか不安になるような恋愛はしたくない。
乙女ゲームみたいな山あり谷ありの恋なんてノーサンキュー。
そうと決まれば、こんな乙女ゲームでイベント起きそうな場所には近づかないに限る!
そのために、イベントが起きそうな時間ーテンプレだとヒロインら遅刻間際に駆け込み登校ーを避けて早めに登校したし。
(今世は目立たないようにしよう…)
私がスクールバッグを抱きしめながらそっと正門を潜ろうとしたその時、背中に思わぬ衝撃を受けた。
「うわっ!」
慌てて踏み止まろうと蹈鞴をふんだけれど、抵抗虚しくすっ転んでしまった私。
「…いったー」
地面に突いた両手と両膝を見ると、なんと手のひらが擦りむけている。スクールバッグも少し先に転がっていた。
(うわ、なんなの)
手のひらを見つめながら呆然と座り込んでいると、目の前に手が差し出された。
「大丈夫か?」
掛けられた声に振り仰ぐと、一人の男子生徒が立ち上がる為の手を差し伸べていてくれていた。
顔は光の加減かよく見えない。
「あ、ありがとう…ございます…」
状況は分からないがいつまでも座っていられない。手を借りて立ち上がろうとした時に、触れ合った指先から強い静電気が走り火花が散った。
「っ!」
「きゃ!」
弾かれたように互いの手が引っ込められる。
もー、さっきからなんなんだろ。
先程までのやる気はどこかへ行ってしまった。私は半ベソをかきながら、ヨロヨロと自力で立ち上がった。
見れば手を貸そうとしていた男子生徒は、今だに固まっている。余程強い静電気だったらしい。
「ハァハァ、すみませーん!」
そんな所に別な男子生徒が駆け込んできた。
「すみません、仲間とふざけてたらバッグが飛んじゃって…」
…どうやら、先程の衝撃は今来た男子生徒のスクールバッグだったらしい。友人とふざけてスクールバッグをぶつけ合っていたら、何故か持ち手がすっぽ抜け、物凄い勢いで飛んでしまったそうだ。
どうりで凄い衝撃だったわけだ。そんなのが直撃したんだから。
背中、アザできてそう。手もヒリヒリする。泣きたい。
「うっ!本当にゴメン!」
私の半泣き顔を見て、バッグ野郎(仮)は深く謝罪してきた。
「あー手も擦りむけてっし、とりあえず保健室行こう」
バッグ野郎はそこら辺に転がっていた私のバッグも持ち、先立って歩き出した。仕方ないのでトボトボと付いて行く。
まさか、入学式の前に保健室のお世話になるとは…。
こんなハードな出会いの乙女ゲームなんて、無いやい…。
その時の私に、猛スピードで空を飛んだ鞄の謎も、直撃した割には軽い打撲程度な背中の痛みも、火花が散るほどの不思議な静電気も、校門でフリーズ中の男子生徒のことも、考える余裕はなかった。
この春から高校生。
私と弟の進学に合わせて、単身赴任していた父親の元へ家族で引っ越すことにした我が大隈家。
だから父親おすすめの、引っ越し先の新居から一番最寄りの学校を受験。落ちる訳には行かないからと必死で猛勉強して受かった学校は、県内屈指の名門校だった。
ちなみに我が大隈家は父母私弟の四人家族で、三つ下の弟も先日中学に入学している。
そして今日は入学式!
正門から校舎までのアプローチは煉瓦敷きで、両側の桜並木は今を盛りと咲き誇っている。
正門の端っこに立ち桜並木と校舎を見上げると、そこはまるで乙女ゲームのテンプレなオープニングのようで。
(わー、こんなゲームありそう)
テンプレな乙女ゲームだと、ヒロインは入学式の正門で攻略対象に偶然出会う流れ。
前世は悪役令嬢だった私。
今世はヒロイン、なんて贅沢は言いません!
悪役もお腹いっぱい。
モブでいい!モブがいいの!モブ万歳!
そして、平凡だけど平穏な恋をするの。
お互いがお互いを大事に思うような相手と。
キラキラしたイケメンなんてお呼びじゃないのだ。そんな人を好きになったら、不幸になるに決まっている。
いつ「お前なんて好きじゃない」と言われるか不安になるような恋愛はしたくない。
乙女ゲームみたいな山あり谷ありの恋なんてノーサンキュー。
そうと決まれば、こんな乙女ゲームでイベント起きそうな場所には近づかないに限る!
そのために、イベントが起きそうな時間ーテンプレだとヒロインら遅刻間際に駆け込み登校ーを避けて早めに登校したし。
(今世は目立たないようにしよう…)
私がスクールバッグを抱きしめながらそっと正門を潜ろうとしたその時、背中に思わぬ衝撃を受けた。
「うわっ!」
慌てて踏み止まろうと蹈鞴をふんだけれど、抵抗虚しくすっ転んでしまった私。
「…いったー」
地面に突いた両手と両膝を見ると、なんと手のひらが擦りむけている。スクールバッグも少し先に転がっていた。
(うわ、なんなの)
手のひらを見つめながら呆然と座り込んでいると、目の前に手が差し出された。
「大丈夫か?」
掛けられた声に振り仰ぐと、一人の男子生徒が立ち上がる為の手を差し伸べていてくれていた。
顔は光の加減かよく見えない。
「あ、ありがとう…ございます…」
状況は分からないがいつまでも座っていられない。手を借りて立ち上がろうとした時に、触れ合った指先から強い静電気が走り火花が散った。
「っ!」
「きゃ!」
弾かれたように互いの手が引っ込められる。
もー、さっきからなんなんだろ。
先程までのやる気はどこかへ行ってしまった。私は半ベソをかきながら、ヨロヨロと自力で立ち上がった。
見れば手を貸そうとしていた男子生徒は、今だに固まっている。余程強い静電気だったらしい。
「ハァハァ、すみませーん!」
そんな所に別な男子生徒が駆け込んできた。
「すみません、仲間とふざけてたらバッグが飛んじゃって…」
…どうやら、先程の衝撃は今来た男子生徒のスクールバッグだったらしい。友人とふざけてスクールバッグをぶつけ合っていたら、何故か持ち手がすっぽ抜け、物凄い勢いで飛んでしまったそうだ。
どうりで凄い衝撃だったわけだ。そんなのが直撃したんだから。
背中、アザできてそう。手もヒリヒリする。泣きたい。
「うっ!本当にゴメン!」
私の半泣き顔を見て、バッグ野郎(仮)は深く謝罪してきた。
「あー手も擦りむけてっし、とりあえず保健室行こう」
バッグ野郎はそこら辺に転がっていた私のバッグも持ち、先立って歩き出した。仕方ないのでトボトボと付いて行く。
まさか、入学式の前に保健室のお世話になるとは…。
こんなハードな出会いの乙女ゲームなんて、無いやい…。
その時の私に、猛スピードで空を飛んだ鞄の謎も、直撃した割には軽い打撲程度な背中の痛みも、火花が散るほどの不思議な静電気も、校門でフリーズ中の男子生徒のことも、考える余裕はなかった。
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