無能な俺が、年下騎士さまの溺愛ゲージを溜める話。

ツキハ|BL小説

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1章 ニート、日当たりのよい部屋に住む。

ニートは日当たりのよいソファで昼寝がしたい。

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 結婚のサインをしてしばらく。結婚相手の屋敷には、馬車での長旅となった。

 家格としては、俺、ルシア・ハルフォードの家もそこそこだ。上の方ではあるし、だからこそ国家間の安寧のための婚姻の話がまわってきた。だがしかし。

 馬車の窓から見えた、目の前にそびえる、白く美しい石の壁と、彫られた装飾の緻密さが、馬鹿な俺にも違いを突き付けて来る。

 何の様式だとか、年代物だとか、そういうのはわからないが、門のツタ模様の飾りすら磨き上げられている仕事の細やかさを見るに、この屋敷の人間たちは皆、素晴らしい仕事をするに違いなかった。


「ルシア・ハルフォードさま、ご到着でございます」

 門番の手で開かれた扉から、中へと進む。お金持ちの家ではよくあることだが、門から玄関までもまた遠い。攻め入られた時、この方が有利、だとかもあるんだろうか。


「ルシア様。阿呆のように口を開いたままでいるものではありませんよ」
「あ、ごめん」

 きゅ、と口を閉じて見せれば、満足げに頷くこの執事。まさか着いてきてくれるとは思わなかった、この年下の彼だが、やはりプロフェッショナルとしては仕事を途中で投げ出さないという誇りがあるのだろう。

「いいですか。余計な口は開かず、言われたことに頷いていらっしゃればよろしい。初夜の準備だけはしっかりとなさってくださいね」
「え? うん」

 がたん、と揺れる馬車の音で、後半が良く聞こえなかった。言われたことに頷けばいい、というのはわかりやすくて大変よい。多分聞こえなかった部分はいつものプロ嫌味だろう。是非その流れで行こうと思う。




 馬車からよろけつつ降り立って、執事に鼻で笑われて手を掴まれた後、てくてくとエントランスへ向かう。きらびやか、とはまた違う。この屋敷の主人の意向なのだろう、落ち着いた色合い、茶色と、ほんのわずかの金色で縁取られた装飾たちが、目に優しい空間を作っていた。

 きっちりと列をつくり、一定の角度で頭を下げるメイドさんたちが、俺を出迎えてくれる。ありがとう、落ち着いた素敵なエントランスですねと適当に言いながら、端っこの部屋に案内されれば、十分すぎるほど広々とした、本棚付きの日当たりのよい空間が待っていた。


「おぉ。明るい」
「ルシア様には似合いの部屋でしょう。主人が出迎えもせずにこんな端の方へ通すとは、よくわかっていらっしゃる」
「うん」

 端の部屋ってあたりだよなぁ、と、アパート暮らしだった俺は思う。中央付近だと、マンションやアパートに出入りする人が部屋の前を頻繁に行き来するので、場合によっては音が気になるのだ。あと、角部屋はいつもワンランク家賃が高い。窓もちょっと多くてお得だ。

 俺はニートだけど、日当たりはいい方が好き。



 少しして荷物が運び込まれると、この屋敷の家令、主人を除けば一番のお偉いさんがやってきて、ごほん、と咳払い一つして、一枚の紙を広げだす。もしかして離婚……? と思ったが流石にそんなことはなく、今後暮らすうえでの取り決めが記されているのだとか。


 おひげがくるんとした家令曰く、基本的にこの部屋から出ずに過ごせ、というのが大きなポイントだ。

 うん。ニートへの気遣いが行き届いている。この時点で俺は、まだ会ってもいない旦那への好感を高めていた。


 とはいえ、流石にその真意は俺もわかっている。いらない男を押し付けられたから、大人しくしておけということだろう。家令の言葉に頷いて見せれば、何故か俺の執事が硬めの声を発した。


「国のために嫁がれたルシア様を、閉じ込めると? それが屋敷の主人の意向なのですか」
「もちろんでございます。いやはや、無理に嫁がれずともよろしいのですよ。我々としても、こうも無理に押しかけられて大変困惑しておりまして」

 執事ばーさす家令。なるほど、お互い結婚なんてしたくないのに嫌だよね~って話か。わかる。やりたくなくてもやらなきゃいけないことってあるよね。

 ここは俺が大人になって仲裁しておこう、と思って、二人の横に立って口を開く。

「わかりました。食事も部屋でとらせていただけるのでしょうか?」
「え? あ、あぁ、はい。お運びいたします」
「そう。ありがとう。手間を掛けますね」

 いやホントに。食事の準備って、運ぶのも結構面倒くさい。一か所で食べてくれた方が作る方は楽らしいから、俺は素直に笑顔で礼を言う。食事って見知らぬ人とすると緊張するから、この礼も本心だ。


「っ、ルシア様。そのように何でも簡単に受け入れては」
「え、でも、言われたことには頷いておけばいいって」
「時と場合によります」

 えぇ……。難しいな。俺の一番嫌いな言葉は、臨機応変なのだ。すっぱいものを食べたような、きゅっとした不満げな顔をしていたら、クルクル髭の家令がそそくさと部屋を出ていった。



 その後も執事がプロ嫌味をピーチくぱーちく言っていたが、俺は年季の入った本棚の質感がいいなぁ、とか、窓から差し込む日差しが暖かくて昼寝にもってこいだとか、家具の配置ちょっと変えたいとか思ってソファを引っ張っていた。

「ルシア様! 何をなさっているのですか!」
「いや、このソファもうちょっとこっちにある方が日当たりがいいから」

 一応は貴族の立場にあるお方がそんなことをするものではない、といういつもの台詞を聞き流していたら、扉がノックされるので許可を出す。数名の執事らしき者と、メイドが現れて、軽く礼をして名乗るから、顔見せにきたのだと察する。

「わざわざありがとう。ルシア・ハルフォードです。よろしくお願いしますね」


 メイドさんが可愛いなあ、と思って、彼らの前にたってでれでれしていたら、何故か目の前のメイドさんたちが挙動不審になっていく。

「どうかした?」
「い、いえ! あの、ルシアさま。お食事に関してなのですが、ご指定の物などありましたら……」
「わぁ、ありがとう。俺は苦手なものもないから、作りやすいもので構わないよ。恥ずかしながら料理にも詳しくなくて、お任せできるとありがたいな」

 可愛い女の子に料理を作って持ってきてもらえる、なんて贅沢。じーん、と幸せを噛み締めていたら、ぽかんとしていた彼女らが、小さく笑って頷いてくれた。かわいい。

 お願いね、と言って、さてソファを動かすかと懸命に引っ張っていたら、困惑した執事たちがわらわらと集まって来て、プチ模様替えはあっという間に終わる。お~。力持ち。また礼を述べれば、他に何か動かしますかと聞いてくれるので、飛び上がって喜んでベッドの位置も変えてもらう。


「いいなぁ。日当たり抜群だ……ありがとう!」
「……あの、ルシア様」
「ちょっと、余計なことは言うなって」
「うん?」

 なにやら彼らがこそこそとやり取りしているから、どうしたのか聞いてみたが、なんでもありませ~んと言いながらそそくさと去っていく。なんだアレ。


 その後は本を取り出して、執事のチクチクプロ嫌味を聞きながら爆睡し、やがて。



「ルシア様。レガル様がお帰りになられます」


 扉の向こうから現れたメイドによって、胃の痛い瞬間が訪れたのだった。

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