無能な俺が、年下騎士さまの溺愛ゲージを溜める話。

ツキハ|BL小説

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1章 ニート、日当たりのよい部屋に住む。

※ニートはまさかの三度目の可能性に驚愕する。

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 旦那様は、あの後再び戦場に呼び戻されたらしい。1か月ほど俺はのんびりと、たまにレミリアに言われて手紙を書く日々を過ごした。

 俺の手紙に何の価値があるのだろうかと思ったが、執事も乗り気らしく、横から逐一注文を付けて来る。全部無視したら、執事は謎のブリッジで呻いていたので、体が柔らかいなと思った。


「うーん。でも書くことないんだよなぁ」
「ルシアさま。クッキーのことを書きませんか? 昨日焼いたものがうまく出来ましたでしょう」
「あぁ、いいね。レミリアたちのおかげでうまくいったって書こう。ありがと~」

 クルクルお髭の家令も、週に一度クッキーを焼くことは許可しますと、謎の譲歩を見せていた。下手に制限して勝手なことをされるくらいなら、少しの自由を与えてコントロールしよう、という算段だそうだ。

 週に一度、最初のもあわせて合計5回クッキーを焼いた俺は、そこそこマシなものが作れるようになっていた。相変わらず粉はまき散らすが、出来上がる形は丸に近づいている。最初はアメーバみたいだったからすごい進歩だ。一番アメーバっぽかったクッキーを受け取った、俺の部屋を護衛する彼の、何とも言えない表情が忘れられない。


 クッキーを丸く出来るようになったこと、レミリアが意外と力持ちだったこと、メイド長は見た目より若いと知って気まずい思いをしたことなどを、適当に書き連ねていく。字も汚いし、人を唸らせる美文も書けない俺の手紙は、贔屓目に見ても、もらって嬉しいとは思えなかったが、こういうのは気持ちが大事なんだそうだ。気持ち……? いつも日当たりのいい部屋をありがとうございます。

 そういう気持ちを込めて、夕陽に照らされた髪を思い出しつつ、ちゃんと食べて寝てくださいねーという、お母さんみたいな当たり障りのないことを追記する。


 そうして、手紙を送って1週間たったころ。旦那様が戻るとの知らせがあった。出迎えた彼は、ひどく張り詰めた顔をしていて、前と違ってその髪にまで赤黒いものがこびりついていた。小さく悲鳴をあげる声がどこかから聞こえて、何の反応も示さぬままに、旦那様が部屋へ足を向ける。きっと、いつもこうだったのだと、何となくそう思った。








 夜はまた、準備をしろとの指令を受けて尻を洗う。旦那様は疲れているようだったし、そもそも三回目は流石に無かろうと思うが、ワインは美味しいのでぺろりと飲み干す。きっと前回自分でやった時に気持ちよくなれなかったのは、量が足りなかったのだ。今回は完璧である。

 飲み干したワイングラスをサイドテーブルに置いて、さて効き目が出るまで横になるかと思った俺の耳に、扉が開く音が届く。

 メイドさんか、家令か、旦那様が来ない知らせかと扉を見て、想定外の白銀に目を丸くする。


「旦那さま?」
「……ワインは飲んだんだな」
「あ、はい。俺は酒には詳しくありませんが、これは美味しいですね」
「……私の友人が作っているものだ。毎年たくさんもらうから、気に入ったなら好きに飲めばいい」

 なんだと? 思わず本当ですかとはしゃいでしまって、流石に子供っぽかったかと咳払いをひとつ。ふっと鼻で笑われたから手遅れだろうが、ニートは見栄より美味しい酒が大切だ。約束ですよと念を押して、あとでレミリアにお願いしようと心に決める。


 ふと気づけば、目と鼻の先まで旦那さまが近づいていて、少し見上げるくらいの身長差が浮き彫りになる。俺の目線の位置に旦那さまの肩があって、筋力差もすごいから、同じ男のはずなのにまるで別の生き物だ。

 バスローブの前は寛げられていて、下半身は隠れているが、胸元は丸見えである。腹筋もバキバキ、胸筋も盛り上がっていて、揉み心地が良さそうですらある。なるほどこれが、いわゆる雄っぱい。俺が想像する柔らかなものとは違うけど、立派なものをお持ちである。


 じっと舐めるように体を見ていたのに気づかれたのか、上から咎めるような声がふって来て、思わず平謝りしてしまう。


「何故謝る」
「いえ、その、変態だと思われたかと思いまして」
「へんたい……?」
「俺はほら、筋力も大して無いでしょう。旦那様は鍛えていらっしゃるから、こんなにも違うのかと思ってじっと見ていました。すみません」

 へらりと笑って、先手を打って謝れば、謎のうめき声が聞こえて首を傾げる。咳ばらいをした彼が、ならば触れてみるかと片眉をあげるので、思っても見ない提案に、俺は。


「いいんですか!」
「あ、あぁ」

 俺の勢いに、旦那さまはちょっと引いていそうだが、言質はとったぞ。男の夢、ムキムキマッチョが目の前にあったら、そりゃ気になるというものだ。俺はニートだが、一丁前に仕上がった体への憧れはある。

 とりあえず見えていた腹筋を指先でつついてみたが、想像以上に、石。かちかちだ。そんな馬鹿なと思って撫でさすってみたが、どこもかしこもカチカチだ。ちらりと自分の腹をみて、反対の手で撫でてみたが、まるで違う。完全敗北、勝負にすらなっていない。

 しかし、前何処かで聞いた話では、特に胸筋は力を入れなければ柔らかいとも聞いている。試しに突いてみたら、指先が沈む感触がして、おぉ、と謎の感動を覚えた。

「……、ルシア」
「あ、はい。なんでしょ」

 最後まで言わぬうちに、顎を掴まれて、続きの言葉は全てのみ込まれる。驚き開いた間抜けな唇の間から、分厚く熱い舌が潜り込んできて、流石の俺も固まる他ない。こ、これはディープな奴、と謎の感動を覚えていたら、上あごのあたりを擽られて鼻に抜ける声が出た。

「ぁ、ふ、だんな、さま、あの」
「そろそろ効いてくる頃合いだろう?」

 何がだと思えば、背中から腰に掛けて指先が這うから、いやでも下を意識する。ぐっと押し付けられた下半身同士が、どちらもびっくりするくらい既に熱を持っていて、非常に恥ずかしい。服を着たまま、正気のまま、互いの性器をくっつけるとか、どんなプレイだ。

「あ、あの、これはちょっと、恥ずかしいと言いますか」
「ふ、私に尻を向けて指を入れていた時よりもか?」
「ちょ、っと! あれは、あの、事故です!」
「ほう?」

 何が事故なんだ? と楽し気な様子に、なんとか弁解せねばと必死に頭をひねるが、ろくなアイデアが浮かばない。仕方がないので、決してワザとではないのだということだけ伝えることにする。

「えーと、そう。あれはその、初夜の時に意外と気持ちがよかったので、自分でやってみようとしただけで、他意はありません」
「……なるほど」

 ふは、と笑う声がして、ただでさえ密着していたそこが擦り合わされるから、気持ちよくなってきて困る。身をよじって脱出しようとした俺の視界は。直後。


 ぐるんと回って、気付けばそこは、既にベッドの上だった。
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