無能な俺が、年下騎士さまの溺愛ゲージを溜める話。

ツキハ|BL小説

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2章 ニート、交友関係が広がる(1名)。

ニートは意外と赤色に好意的。

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 大声を出して気まずくなったのもあり、あの店からは一先ず移動することになった。個室のある別のカフェに入り、四角いテーブルを挟んで俺と旦那さまが隣同士で座ると、正面にチェリーくんが腰かける。

 右から正面から大人の圧……謎の既視感と懐かしさを感じて、俺は閃いた。

「筋肉圧迫三者面談」
「何言ってんの? 頭湧いてる? 流石雑種くん」
「アズヴァン。その言い方は改めろ。いや改めなくてもいいが話しかけるな」
「はぁ? なんでだよ。お前だってちょっと前まで愚痴ってたじゃん。前に結婚のこと話してから2カ月もたってないぞ」

「あの」

 ヒートアップする二人に、どうしても気になることがあったので、こそっと挙手すれば、ヤンキーも真っ青のメンチ切りとともにチェリーくんが顎をしゃくる。あ゛? って実際言う人居るんだな。

「言いたいことがあるなら言ってみろよ。どうせ、汚い手を使ってレガルに取り入ったんだろ」

 なるほど、確かにクッキーまみれの手ではあるが、クッキーは素晴らしいものだし旦那さまの好物なので汚くはないと思う。許可をもらったので、チェリーくんを見つめつつ口を開いた。


「雑種ってどういう意味ですか? それなりの血筋に生まれたにしてはクソ雑魚無能すぎて血統が疑わしいその辺のゴミ同然の安い男ってことですか?」
「……は?」

 先ほどのメンチ切りが崩れて、ぽかん、とした子供っぽい表情になる。こうしてみてみると、多分彼も旦那さまと同い年くらいだろうか。少なくとも俺よりは若いはずで、若者特有の大人への敵意だと思えば、ちょっと微笑ましいまである。

 彼の敵意はおそらく、俺みたいなヒキニートが旦那さまと結婚なんて絶対許さないという理由からだろう。まだ恋人にはなっていないが、発言からしてそのくらい近しい存在のはず。むしろ俺という政略結婚相手が現れたことで自分の本心に気付く……という王道ラブストーリーの主人公かもしれない。

 俺が追い出されないのであれば、今後彼が一緒に住むようになる日も近いだろう。いや、追い出されないためにも、仲良くしておくのが得策。


「……レガル」
「私を見るな。お前の発言のせいだろう」

 きりっとしつつ述べた推論だったが、無言になったチェリーくんが何故か旦那さまの方を見ている。俺の推測はちょっと違ったらしい。ニート惜しい。クイズ正解ならず。

 ガシガシと金髪の頭をかいた彼が、胸筋を晒しながら椅子にもたれて言葉を選びつつ、柔らかい日差してきらきらとした赤い目をこちらに向ける。こうしてみると、いつも飲んでいるワインが光に透けた時の色にも似ていた。

「あー、雑種ってのはほら、ちょっと見た目を揶揄っただけ」
「見た目、ですか」
「ほら、レガルとか俺と比べたら大分地味じゃん」
「なるほどたしかに」

「……私はアズヴァンのような派手なタイプは好まない」
「おい何しれっと自分だけいい顔しようとしてんだレガル。お前も言ってただろ。絵が届いたとき。印象に残らないとか、男かよとか」
「はっ。覚えが無いな。前の戦いで頭でも打ったか?」
「お前の頭も同じにしてやろうか」

 言った言ってないのすったもんだを繰り返す二人を見ているのも飽きたので、テーブルに運ばれたお菓子にフォークを刺す。チョコレートに近い風味のソースが掛かった、ふんわりしたシフォンケーキのようなもので、とてもおいしい。外出は面倒だが、美味しいものを食べるのは大好きだ。

 もっもっと無言で食べていたら、いつの間にか会話が終わったのか、二人してじっとこちらを見ているので。


「すみません、全部食べてしまったので、お二人の分は新しく注文してください」
「ちげえよ」

 チェリーワインくんクイズは、現在正答率ゼロパーセントの記録を更新中である。


――――――
――――
――


 結局、あのあとチェリーワインくんを連れて3人でもう一件まわって、それで屋敷へ戻ることになった。俺の体力が限界だったのである。

 帰りの馬車で爆睡し、気付いたらそのまま翌日の朝で、旦那さまが起こしてくれる。挨拶と朝食を終えたら、じっとこちらを見て来る旦那さまがいて、何だろうと思ってこちらも首を少し傾けつつじっと見ていたら、あっという間に顔が近づいてゼロ距離になって、そして彼は仕事に出かけて行った。


「ルシアさま、よかったですね!」

 レミリアが弾む声で話しかけて来るが、何故俺がちゅーされているのを見て喜んでいるのかはよくわからない。俺の執事はオホホホホ! みたいな高笑いをして得意げで、楽しそうでよかったなと思った。


 ソファで寝転んですごしていたら、昼過ぎに部屋にやってきたクルクルお髭の家令が、何故か旦那さまのご予定を俺に教えてくれる。しばらくは王城で忙しくしているらしく、今週末は帰れないかもしれないから、先に寝ていてよいとのこと。え? 帰ってくるなら寝たらダメだったの?

「以上でございます。ルシアさま、本日はいかがなさいますか」
「ここでゴロゴロしてるよ。っと、そうだ。これ、お土産」

 クルクルお髭の家令に似た、渦巻き状の模様があるクッキーを彼に手渡す。両手で受け取った彼が、やけに震えているので、俺は優しい顔でこう言った。

「旦那さまには秘密ね」

 クッキー党禁止のこの家で、本当にクッキーが本当に嫌いな人は居ない可能性が高い。だってクッキーである。その証拠に、目の前の彼は涙ぐみ、丁寧に頭を下げて出ていった。



 と、思ったのだが。1時間ほどたった後。慌てた様子のクルクルお髭の家令が戻って来て。



「ルシアさま、お客様がお見えになっております」
「え?」
「ルシア様にお客様? 何かの間違いでは?」

 だよね。プロ嫌味執事の言葉に頷けば、案内された先で疑問は解消される。こちらを見るチェリーとワインの赤色。午後の日差しで暖かそうな色合いになる金の髪。旦那さまと違う、こちらを揶揄うような笑み。


「よお、ざ……、いや、ルシア」

 旦那さまの恋人予定の、チェリーワインくんが、今日も胸筋を晒して応接室で待っていた。
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