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第四話 六万の侵略者
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戦いはあっという間に終結した。
ドミノ倒しの要領で、端から順番に破られ、ものの一時間で一万の軍団は瓦解した。
これがベッテルハイムの“斜行進軍”の威力だった。
敵と横陣で正面衝突すると見せかけて、斜めに動き、敵の側面に出て、砲火を集中させる。
少し小難しく書けばこういうことになるが、本質はもっとシンプルだ。
つまり、敵よりも早く動いて、敵の側面を取る。
ポイントは敵よりも早く動く、というただその一点なのだ。
結局、アルザスの勝因は、敵より足が速かった、それだけなのだ。
「これが……シフ人の力……」
左翼への奇襲・陽動を担当したアルバートは、ベッテルハイム軍があっという間に右翼から食いちぎって、自分たちの元へとやってきたのにただただ驚いた。
行軍のスピードが、アルザスの生え抜き部隊のそれとは全く違った。
敵が横陣に組み直す隙を与えず、あっという間に敵をなぎ倒したのだ。
「さすがシフ族です。恐れ入りました」
キバも感心する。
「我が軍は、何より速さを鍛えてきた。こういった遮蔽物が多く、奇襲が成立しやすい場所では、敵より速く動くことができれば、倍の敵でも倒すことができるからな」
ベッテルハイム大将は、特に自慢するでもなく、ただ淡々と言う。自分たちにとっては、これくらいのことは当たり前のことなのだ、と言わんばかりに。
「しかし、今回は上手く行きすぎたな。軍師殿の考えた陽動が功を奏した」
「アルバートのおかげで、敵はどちらに兵士を集中して良いかわからなくなったという意味では、成功でした」
キバは、奇襲を担当したアルバートたちを褒める。
だが、アルバートは、素直に喜べなかった。
確かに役割は重要だったが、しかしアルザスの正規軍が陽動に使われたのは、ベッテルハイム軍に進軍速度が及ばず、ついていけないからだとわかっていたからだ。
もちろん、キバに意地悪な意図があるわけではないとはわかっているが、迅速に動けるベッテルハイム軍の足手まといにならないように、陽動に回されたということもできるのだ。
――ベッテルハイムのシフ軍団は恐ろしい。
彼らのおかげで緒戦に勝利できたので感謝すべきだったが、それと同時に彼らへの対抗意識も芽生えた。
アルザス人たちは、祖国を自分たちのアルザス人の手で守りたいと、そう思ったのだった。
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