クラス「無職」になってしまい公爵家を追放された俺だが、実は殴っただけでスキルを獲得できることがわかり、大陸一の英雄に上り詰める。

アメカワ・リーチ

文字の大きさ
8 / 51

8.抜擢

しおりを挟む
 †

「それどころか、騎士道精神に反していたのは、ローガン・ベントリー。あなたではありませんか」

 王女のその言葉で、状況は一変したのだった。

「なんですと!?」

 突然矛先が自分に向けられて、ローガンは思わず声をあげた。
 王女のその言葉にはリートも驚く。

「ぼ、僕がどんな不正を働いたっていうんだよ!?」

 動揺しすぎて敬語を使うことさえ忘れたローガン。

 そんな彼の言葉を無視し、王女イリスは毅然とした言葉を放つ。

「連れて参れ!」

 王女がそう言うと人混みの後ろから、騎士が現れる。
 その脇には――ローガンの取り巻きたち二人が連れられていた。

「その者たちは、先の試合でベントリーに強化の魔法を施していたのだ」

「なッ……」

 ローガンは絶句する。
 リートもそれを聞いて驚いた。まさかそんなズルをしているとは思わなかったからだ。

「お前の父は騎士団の人事院の偉いさんだと言ったな。となれば、このことは粛々と報告することになる」

「そ、そんな! お待ちください!」

 半泣きで足元に崩れ落ち、頭を下げるローガン。先ほどまでの態度はどこかに置き忘れてしまったようだった。

 もしこのことが知れれば、“偉いさん”の父親もただでは済まないだろう。
 息子の暴挙のせいでキャリアを失われたとなれば、その後ローガンがどのような扱いを受けるかは、想像に難くない。
 いや、もしかしたら、それを避けるために――一族から追放するなんてこともあるかもしれない。

 騎士にもなれず、貴族でもなくなってしまえば、彼が望む人生を手に入れる術はもう存在しないだろう。
 それがわかっているから、なんとか王女にすがりつくローガン。

「ど、どうかお見逃しを!」

 だが、王女は毅然と言い放つ。

「神聖な騎士採用試験を汚した罪は決して軽くはないぞ。連れて行け!」

 と王女が部下に指示を出す。

 ――だが、

「ちょっと待ってください」

 それに待ったをかけたのは――リートだった。

「どうしたのだ?」

 王女の問いにリートは答える。

「今回は、見逃してあげてくれませんか?」

 その言葉が意外だったのか、ローガンはハッとして顔を上げる。

「なぜこの者を助けようとする?」

 リートは自分でもお人好しだと思った。
 散々自分を小馬鹿にしてきた相手を助けるなんて。

 でも、ローガンに待っていること――貴族が家を追放される――というのを想像したら、かわいそうになったのだ。
 実家を追放される苦しさは、リートが誰よりも理解していたから。

「別に被害者がいるわけでもありません。一度目の過ちです。今回はお見逃しを」

 リートのその言葉に、王女はふむと唸る。
 そして少し逡巡してから、

「……よかろう」

 その言葉に、ローガンは「あ、ありがたき幸せぇ!!!」と地面に額を擦り付けた。
 貴族のプライドは、そこにはなかった。

「……強いだけではなく、徳も備えているとは、ますます騎士にふさわしい」

 王女はリートを見て感心したようにうなづく。
 そしてさらに言い放つ。

「そなたにはぜひ、近衛騎士として私の下で働いてもらいたい」

 その言葉に、周囲の人間から声が漏れた。

「こ、近衛騎士だって!?」

「まさか! いきなり近衛騎士なんて前代未聞だぞ」

「っていうか、平民が近衛騎士なんて、ありえるのか!?」

 リートも驚く。
 近衛騎士は、騎士の中でも花形。
 ただでさえエリートである騎士の中で競争を勝ち抜いた真のエリートだけがその栄誉を受けることができる。
 
「この者を近衛騎士として採用する。試験官、良いな」

 王女の命令に、試験官がたじろぐ。

「お、王女様! しかし近衛隊の隊員は第七位階(セブンス)以上の者が就くと決まっております! これは法に書いてあることでございます!」

 試験官のいう通りだった。

 騎士には位階と呼ばれる序列がある。
 一番低い第九位階(ナインス)から始まり、騎士団長が第一位階(ファースト)である。

 採用試験に合格した者は、第九位階からスタートする。
 つまり、どれだけ優秀でも、いきなり近衛騎士になることはない。

 ――だが、王女はそれを一蹴する。

「ならば、この者を第七位階(セブンス)とする。それで問題あるまい」

「なッ……!!」

 周りの騎士たちがさらに絶句する。
 それは無理もないことだった。

 大抵の平凡な騎士は、第七位階で定年を迎える。
 何十年と勤めてようやく到達できるのが、第七位階なのだ。

 にも関わらず、目の前の少年は、いきなり第七位階の騎士になろうとしている。
 他の平凡な騎士の何十年をスキップしてしまおうとしているのだ。

「確かに近衛騎士は第七位階以上というのは法律に書いてあることだ。だが、新人に第七位階を与えてはいけないという法律はなかろう?」

「そ、それはそうですが――」

「この者は是が非でも欲しい。人事院に伝えてくれ。よいな」

「……か、かしこまりました……!」

 王女の即決で、騎士に、しかも第七位階の近衛騎士になることが決まったリート。
 あまりの急展開に驚く暇さえなかった。

「今日から、よろしく頼むぞ」

 イリスはリートに手を差し出す。

 リートは恐る恐るその手をとった。

「――よ、よろしくお願いします!」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。 しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。 前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。 貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。 言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。 これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...