7 / 51
7.不正
しおりを挟む「“神聖剣”初めて見た、まじスゲェ!」
「マジかよ!? でもなんで聖騎士が試験受けてんだよ?」
「ローガンって、名門貴族の跡取りだろ? めちゃくちゃ強いのに、一瞬で倒しちまった」
リートがローガンに圧勝したのを見て周囲は一気に色めき立った。
そんな周りの反応と打って変わって、リートは安堵のため息をついた。
神聖剣の強さは事前に確認していたが、しかし実戦で使ったのは今日が初めて。
実際、どこまで通用するか自信がなかったのだが、試合にはなんとか勝利することができて安心したのだ。
――と、次の瞬間、頭の中に再び女神の声が聞こえる。
【――“ファイヤーランス”を取得しました】
【――“ファイヤーランス・レイン”を取得しました】
【――“ドラゴン・ブレス”を取得しました】
【――“ファイヤー・ウォール”を取得しました】
先ほど試合を終わらせた一撃のおかげで、ローガンのスキルをコピーしたのだ。
やはり、殴った相手のスキルを手に入れられるというのは本当らしい。
遠隔魔法は一つも持ってなかったから助かったな。リートは内心ガッツポーズをする。
聖騎士の近距離能力に加えて、魔法も使えるようになれば戦術の幅が広がる。
――と、頭の中で声が鳴り止んだところで、ふと容体が気になってローガンの方を見た。
手加減はしたつもりだったが、それでも思いっきり殴ったことに変わりはない。
だが、見ると、命に別状はなさそうだので安心する。
しばらく動くことができないでいたが、少ししてなんとか自力で立ち上がった。
と、ローガンは立ち上がるなりリートの方を睨みつけた。
そして次の瞬間、彼は試合を見ていた騎士に詰め寄った。
「おい、審判!! あいつはズルをしたんだ! この勝負はなしだ!」
突然の言動にリートは口を開けて驚く。
「どういうことですか」
訴えを聞いた試験官の騎士はローガンに説明を求める。
「あいつはクラスを偽っていたんです! 俺たちを油断させるために、自分は無職だとか言って。自分の力を隠したんです。騎士道に反する行為です!」
そのトンデモ理論にリートは驚く。
「無職だと偽っていた?」
騎士はあくまで中立な立場で聞き返す。
それに対してローガンはまくし立てる。
「自分のクラスはないと。それなのにあいつは聖騎士のスキルを使っていた。本当は聖騎士のくせに、それを隠して戦いに参加したんです――いや、待て。そうか、わかったぞ! そもそも、聖騎士なら試験なんて受ける必要ない。ってことはズルをしたんだな? 実はどこかで聖騎士の人が隠れて助けていたんだ!」
あまりに飛躍した理論に、リートの開いた口が塞がらなかった。
実際、試験官も困惑した様子だった。
だがローガンはさらに詰め寄る。
「どちらかです。奴が“無職”だという嘘をついていたか、もしくは無職だけど誰かの力を借りていたか! どっちにしてもズルなんだ! アイツを失格にしろ! そうしないと父上に言い付けるぞ! 僕の父親は騎士団の人事院の長なんだ! お前の首なんて簡単に飛ばせるんだからな!!」
ローガンは騎士に摑みかかる勢いで迫る。
その言葉を聞いて、騎士も青ざめる。
ローガンの父親が騎士団の人事院の偉いさんだというのは事実なのだろう。
ここで下手を打てば、自分の首が飛んでしまう。
こうなってくると話が変わってくる。
リートの額に嫌な汗が浮かぶ。
「確かに聖騎士でないなら、なぜ聖騎士のスキルを使えるのか……調べる必要はあるな」
と試験官がリートの方を見て言った。
――だが、その時。
「――その必要はありません!」
試験場に響く凛とした声。
その声の主は――
金色のロングヘアをたなびかせ、碧眼の眼差しがまっすぐにリートたちの方を見据える。
美少女――だが、単に容姿が整っているというだけではない。
彼女の身分は語るまでもなく、空気で伝わってくる。
「――イリス殿下!!」
イリス殿下――。
そう呼ばれる人間は、この国に一人しかいない。
――イリス・ローレンス。
この国の第一王女だ。
「その者は現にクラスを持っていない。しかし、神聖剣や神聖強化のスキルは彼自身のものです」
「左様ですか、殿下」
試験官の騎士が尋ねる。
「ええ。私の鑑定スキルで見れば、一目瞭然です」
王女の証言に、ローガンは言葉を詰まらせた。
「な……」
まさか、鑑定のレアスキルを持つ者がこの場に居合わせているとは思わなかったのだろう。
「それどころか、騎士道精神に反していたのは、ローガン・ベントリー。あなたではありませんか」
王女のその言葉で、状況は一変したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~
☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。
しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。
前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。
貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。
言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。
これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる