クラス「無職」になってしまい公爵家を追放された俺だが、実は殴っただけでスキルを獲得できることがわかり、大陸一の英雄に上り詰める。

アメカワ・リーチ

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7.不正

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「“神聖剣”初めて見た、まじスゲェ!」

「マジかよ!? でもなんで聖騎士が試験受けてんだよ?」

「ローガンって、名門貴族の跡取りだろ? めちゃくちゃ強いのに、一瞬で倒しちまった」

 リートがローガンに圧勝したのを見て周囲は一気に色めき立った。

 そんな周りの反応と打って変わって、リートは安堵のため息をついた。

 神聖剣の強さは事前に確認していたが、しかし実戦で使ったのは今日が初めて。
 実際、どこまで通用するか自信がなかったのだが、試合にはなんとか勝利することができて安心したのだ。

 ――と、次の瞬間、頭の中に再び女神の声が聞こえる。

【――“ファイヤーランス”を取得しました】

【――“ファイヤーランス・レイン”を取得しました】

【――“ドラゴン・ブレス”を取得しました】

【――“ファイヤー・ウォール”を取得しました】

 先ほど試合を終わらせた一撃のおかげで、ローガンのスキルをコピーしたのだ。
 やはり、殴った相手のスキルを手に入れられるというのは本当らしい。

 遠隔魔法は一つも持ってなかったから助かったな。リートは内心ガッツポーズをする。
 聖騎士の近距離能力に加えて、魔法も使えるようになれば戦術の幅が広がる。

 ――と、頭の中で声が鳴り止んだところで、ふと容体が気になってローガンの方を見た。
 手加減はしたつもりだったが、それでも思いっきり殴ったことに変わりはない。

 だが、見ると、命に別状はなさそうだので安心する。
 しばらく動くことができないでいたが、少ししてなんとか自力で立ち上がった。

 と、ローガンは立ち上がるなりリートの方を睨みつけた。

 そして次の瞬間、彼は試合を見ていた騎士に詰め寄った。 

「おい、審判!! あいつはズルをしたんだ! この勝負はなしだ!」

 突然の言動にリートは口を開けて驚く。

「どういうことですか」

 訴えを聞いた試験官の騎士はローガンに説明を求める。

「あいつはクラスを偽っていたんです! 俺たちを油断させるために、自分は無職だとか言って。自分の力を隠したんです。騎士道に反する行為です!」

 そのトンデモ理論にリートは驚く。

「無職だと偽っていた?」

 騎士はあくまで中立な立場で聞き返す。
 それに対してローガンはまくし立てる。

「自分のクラスはないと。それなのにあいつは聖騎士のスキルを使っていた。本当は聖騎士のくせに、それを隠して戦いに参加したんです――いや、待て。そうか、わかったぞ! そもそも、聖騎士なら試験なんて受ける必要ない。ってことはズルをしたんだな? 実はどこかで聖騎士の人が隠れて助けていたんだ!」

 あまりに飛躍した理論に、リートの開いた口が塞がらなかった。
 実際、試験官も困惑した様子だった。
 だがローガンはさらに詰め寄る。

「どちらかです。奴が“無職”だという嘘をついていたか、もしくは無職だけど誰かの力を借りていたか! どっちにしてもズルなんだ! アイツを失格にしろ! そうしないと父上に言い付けるぞ! 僕の父親は騎士団の人事院の長なんだ! お前の首なんて簡単に飛ばせるんだからな!!」

 ローガンは騎士に摑みかかる勢いで迫る。

 その言葉を聞いて、騎士も青ざめる。
 ローガンの父親が騎士団の人事院の偉いさんだというのは事実なのだろう。
 ここで下手を打てば、自分の首が飛んでしまう。

 こうなってくると話が変わってくる。
 リートの額に嫌な汗が浮かぶ。

「確かに聖騎士でないなら、なぜ聖騎士のスキルを使えるのか……調べる必要はあるな」

 と試験官がリートの方を見て言った。

 ――だが、その時。 

「――その必要はありません!」

 試験場に響く凛とした声。

 その声の主は――
 金色のロングヘアをたなびかせ、碧眼の眼差しがまっすぐにリートたちの方を見据える。
 美少女――だが、単に容姿が整っているというだけではない。
 彼女の身分は語るまでもなく、空気で伝わってくる。

「――イリス殿下!!」

 イリス殿下――。
 そう呼ばれる人間は、この国に一人しかいない。

 ――イリス・ローレンス。
 この国の第一王女だ。

「その者は現にクラスを持っていない。しかし、神聖剣や神聖強化のスキルは彼自身のものです」

「左様ですか、殿下」

 試験官の騎士が尋ねる。

「ええ。私の鑑定スキルで見れば、一目瞭然です」

 王女の証言に、ローガンは言葉を詰まらせた。

「な……」

 まさか、鑑定のレアスキルを持つ者がこの場に居合わせているとは思わなかったのだろう。

「それどころか、騎士道精神に反していたのは、ローガン・ベントリー。あなたではありませんか」

 王女のその言葉で、状況は一変したのだった。
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