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6.聖騎士の力
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「それでは、騎士採用試験を始める!」
試験官の騎士が試験の開始を宣言する。
試験は実戦形式。受験者同士が模擬戦を行い、その様子を見て試験官が点数をつけるという形である。
ただし本気で命を奪い合うわけではなく、“加護の指輪”という結界を作り出すアイテムを身につけて戦い、一撃を喰らせて、相手の結界を破った方が勝ちだ。
「Aブロック。第一回戦。リート――」
いきなりリートの名前が呼ばれる。
そして、その相手として名前を呼ばれたのは――
「ローガン・ベントリー!」
リートの相手として名を呼ばれたのは、先ほど、リートに絡んで来たボンボンだ。
そしてその名字にはリートも見覚えがあった。
「ベントリーって、あのベントリー家か」
ベントリー家は、伯爵の家系。まぎれもない名門だ。
「ローガンさん、やっちまえ!」
「あの無職野郎をボッコボコにいたぶってください!」
取り巻きががやを入れる。
「君も運が悪いね。まさか、いきなりこの僕と当たるなんて」
ローガンは余裕の表情を浮かべ嘲笑する。
だがリートは挑発には一切のらず、腰から剣を抜いて構える。
相手が名門貴族の跡取りだろうと関係ない。
正々堂々戦うだけだ。
「では――試合開始!」
先に動いたのはローガンだった。
「“ファイアー・ランス”!」
ローガンのクラスは魔法使いだった。
彼のスキルにより、音速の炎槍(えんそう)が生み出され、リートに襲いかかる。
――だが、リートは微動だにせず――
魔法が自分に届くその刹那の直前に剣を振り抜いた。
――爆裂。
リートに届く直前で炎の魔法は真っ二つに裂けて左右に割れていった。
「な、なんだと!?」
魔法を剣の一振りで叩き切られた事実に、ローガンは驚愕した。
同時に、リートも自分自身で少し驚いていた。
――やっぱり、すごいな。“神聖強化”の力は。
リートはサラから貰ったスキルの強さに驚いたのだ。
今のリートは、聖騎士クラスの強化スキル“神聖強化”によって、あらゆるステータスが強化されていた。
当然、動体視力も並はずれたものになっている。
リートの目からすると、ローガンの魔法は、子供が放った球蹴りのボールのように見えた。
「……なるほど、剣技はそれなりに練習したみたいだな。だが、これはスキル無しには防げないぞ」
ローガンは若干の焦りを表に出しながら、次の技を出す。
「――“ファイヤーランス・レイン”!」
ファイヤーランスが雨のように降り注ぐ上級スキル。
ローガンの頭上に無数の槍が現れ、それが一斉にリートに向かって降り注ぐ。
確かにローガンの言う通り、これをスキルなしで防ぐことはできない。
だからリートは――無職であるにも関わらず――スキルを使うことにした。
「――“神聖剣”ッ!」
リートが持っていた剣が、神々しい光を帯びる。
「し、神聖剣だと!?」
ローガンの――いや、試合を見ていた全ての人間が驚きの声をあげる。
リートは剣を一振り。それで降り注ぐ炎の槍は全て跳ね返されて、空へと反射していった。
頭上で爆発音。 花火のように炎が爆散する。
その風にローガンの長髪がまくし上げられて、その驚愕の表情が露呈する。
「ば、バカな。神聖剣なんて……ありえない!! 聖騎士だと!?」
ローガンの認識は間違っていた。
確かに、神聖剣は、聖騎士の固有スキル。聖騎士以外の人間がそれを使うことはできない。
――それが常識だ。
だが、聖騎士であるサラからその能力をもらったリートは別だった。
彼は聖騎士ではないが、聖騎士のスキルを使うことができるのだ。
「く、くそッ! こんなの聞いてないぞ!!」
取り乱すローガン。
それも当然だろう。
聖騎士のクラスを持つものは騎士採用試験を免除される。
それゆえ採用試験で聖騎士のスキルが発動されることはない。
それなのに、目の前で“神聖剣”が発動された。
しかもそいつは、クラスがない“無職”だと言うのだから。
「く、クソ! “ドラゴン・ブレス”!」
やけくそとばかりに、最上級の炎魔法を放つローガン。
だが、それもリートの前には意味をなさなかった。
リートは神聖剣を発動したまま、そのままローガンの放った炎の渦へと向かっていく。
上級魔法が生み出した炎をたったの一振りで切り裂き、ローガンの懐に入ったリート。
神聖剣で斬りつけたらそのまま加護の結界を突き抜けて殺してしまうと判断し、代わりに左の拳をみぞおちに叩き込む。
「ぐッ――!!
素手の攻撃とはいえ、神聖強化と肉体強化の二重強化によって威力が高められているので、加護の結界を吹き飛ばすには十分だった。
結界が霧散したが、そのまま勢いは止まらず、ローガンの体は宙を舞い後ろへと吹き飛ばされた。
「勝者、リート!」
審判の声に、会場が沸き立った。
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