42 / 51
42.圧勝
しおりを挟む「それではこれより、小隊長任用試験、リート組とランド組の試合を始めます」
審判の騎士が宣言する。
闘技場でリートたち四人は四角形に向かい合う。
リート・シャーロット陣営。
ランド・ジョン陣営。
一度でも敵の攻撃を受ければそれで失格。
ただの一度のミスも許されない。
その緊張感。
だが、ランドは相変わらず下賎な笑みを浮かべてシャーロットのことを見下していた。
「さて、ジョン。サクッと、終わらせるぞ」
「了解だ」
形式上、師匠・弟子という関係の二人だが、ジョンはランドより年上で、長く第一線で活躍してきた人物だ。
それゆえ、そこに主従の関係はない。
二人を結びつけているのは、金だけである。
「シャーロット。行くぞ」
「はい!」
一方、リートとシャーロットの間には、既に信頼関係が芽生えていた。
三週間ずっと一緒に稽古を重ねた。
誰かに信じてもらえなかった互いの境遇を重ね合わせ、その辛さを共有している。
リートは心の底から――負ける気がしないと思っていた。
四者はそれぞれファイティングポーズを取る。
そして、
「それでは――――試合、開始ッ!」
審判の言葉と同時に、リートは剣を抜いて、ランドへと斬り込む――
だが、次の瞬間、ランドがスキルを発動した。
「“グラビティ・バインド”!」
リートとランドの周囲に、目には見えぬ圧力がかかる。
それによりリートはほとんど動けなくなった。
「はは! いくら聖騎士でも、俺の“グラビティ・バインド”の下では全く動けないようだな」
“グラビティ・バインド”は魔導剣士のレアスキルだ。
魔導剣士になれば誰でも会得するという類のものではなく、使い手は限られている。
「――だが、お前自身にもこのスキルの圧力がかかっているよな?」
リートは指摘する。
見ると、圧力によって地面が押しつぶされていたが、その範囲は、ランドの周囲にまで及んでいる。
すなわち、ランド・リートの両者ともに動けない。
「その通り。“グラビティ・バインド”は、普段は敵の攻撃を叩き落とすのに使う防御技だからね。でも、このタッグ戦では有効だろ? だって俺とお前がにらみ合いっこしている間に、俺の相方があの小人を一捻りすればいいんだからぁ!!」
リートはなるほどと頷いた。
タッグ戦ならではの“チームプレイ”というわけか。
「だが、ランド。それは、ちょっと、都合が良すぎるんじゃないか?」
「何言ってんだ、お前」
「お前の作戦には致命的な欠点がある、って言ってるんだ」
リートはそう言うと、首の動きでランドに向こうを見ろよと促す。
「なに……?」
ランドがシャーロットの方を見る――と、そこには。
信じられない光景が広がっていた。
――地面を蹴り上げ、あっという間にジョンの懐に飛び込むシャーロット。
ジョンの振り上げた剣がシャーロットに振り下ろされるが、簡単にかいくぐり、
「――“バーニング・ナックル!”」
そのままジョンの巨体にシャーロットの拳が突き刺さる。
ジョンの巨体が宙に舞う。
「――ば、バカな!?」
ランドはそれを見て、思わずそう叫んだ。
騎士試験に受かっていたであろう“傭兵”を、シャーロットは一発で打ち倒してしまったのだ。
「あ、ありえない!」
ランドのそれまでの余裕はどこへ行ったのか、目を見開きただただ呆然とする。
「それが、ありえなくないんだよな」
リートは笑みを浮かべて、まるで自分のことのように誇らしげに言った。
†
――二週間前。
闘技場でシャーロットとともに修行をしていたリートの元に、一人の人間がやってきた。
「イリス王女様!」
他でもない第一王女イリスの登場に、シャーロットは飛び跳ねてから、腰を九十度に曲げて頭を下げる。
「小隊長試験を受けるそうだな。その子は弟子か?」
イリスが笑みを浮かべながらリートに聞く。
「ええ。シャーロットです」
「そうか。よろしく」
イリスはにこやかに手を差し出す。
そこには、小人に対する偏見など微塵もない。
「あ、そ、そのよろしくおお願いします!!」
シャーロットはその手を慌てて握り返す。
だが、次の瞬間。イリスが目を細める。
「ん、これは……」
イリスはシャーロットをまじまじと見返す。
「どうかされましたか?」
「あ、いや。この子のステータスがな……」
リートはそう言われて、王女には“鑑定”のスキルがあるのを思い出す。
「体力、腕力、魔力……どのステータスもかなり高い。ほとんど騎士レベルだ」
シャーロットとリートはそう言われて、さらに驚く。
リートもシャーロットの能力が高いことは感じてはいたが、まさか騎士ほどとは思っていなかった。
「そんなに高いとは」
しかしよく考えて見ると、それなりに納得はいく。
ステータスの上昇率は、概ね努力に比例する。
その点、シャーロットは誰よりも努力家だ。それは一緒に訓練している中でも強く感じている。
彼女は今まで「使えないやつ」だと見なされてきたが、ステータスの使い方がわからず、宝の持ち腐れだったのだ。
そして実際にリートに教わり出してから彼女は急激に成長している。
それに、これまで弱いやつ扱いされてきたのは、小人という偏見もあったのだろう。
彼女自身を含めて、皆がその能力を過小評価してきたのだ。
「これほどの人材が、まさか見習いの身分に埋もれているとはな」
イリスは、シャーロットの肩を叩く。
「ひとつ、師匠のためだけなく、自分のためにも小隊長試験は頑張ってくれ。お前なら必ず騎士になれる」
†
――ランドに向かって、リートは言い放つ。
「もともと、シャーロットの基礎力はクソ高かったんだ」
リートは王女とのやりとりを思い出しながら言い放つ。
そして――ランドにその絶望的な現実を突きつける。
「お前が教えるのが下手くそだったんだよ」
「ば、バカな!!!!」
当然ランドはその現実を受け入れることができない。
だが、そこにリートはさらなる追い討ちをかける。
「あ、それとこの“グラビティ・バインド”だが……」
次の瞬間、リートの右手に持った剣が光る。
「――“神聖剣!”」
次の瞬間、ランドの作った重力の網は、いとも簡単に四散する。
「こんな低級(・・)なスキルで、俺を縛れると思うな雑魚(・・)」
勝敗はジョンがシャーロットに負けた時点で、既に決していた。
だが、さらにリートはそもそもランドの作戦が、全くの無意味であると喝破したのだ。
最初からリートはランドを瞬殺できた。
だが、あえて、シャーロットに見せ場を作るために、茶番に付き合っていたのだ。
「ば、バカな……ありえない」
だが、それが現実だった。
リートは、一気に間合いを詰めて、そのまま左手の拳を振り抜く。
「“バーニング・ナックル”!」
シャーロットからもらったスキルで、ランドの結界を撃ち抜く。そのままランドは後方に吹き飛ばされた。
――例によって、女神の声が聞こえてくる。
【――スキル“グラビティ・バインド”を手に入れました】
【――スキル“魔斬剣”を手に入れました】
ランドが持っていたスキルを、リートはすでにほとんど持っていたようで、新しく手に入れたのはそれだけだった。
「――勝者、リート・シャーロット組!!」
審判の勝利宣言が闘技場にこだました。
0
あなたにおすすめの小説
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~
☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。
しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。
前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。
貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。
言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。
これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる