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14.商売繁盛

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 †

 テビアの実を収穫したフェイは、イリスに乗って一番近くの街へと向かった。

 街はドラゴニア王国の城壁の内側にあり陸路からの侵入は不可能だった。
 だが、空を飛べるイリスが入れば無関係だった。

「……しかし防備が弱いな……本当は空にも結界を張ったほうがいいんだけど……」

 フェイは一瞬そう思ったが、ドラゴニア王国のことはもう他人事なのであまり深くは考えなかった。

 街に降り立ち、市場で嗜好品を買い取ってくれそうな店を探す。
 道ゆく人に聞くと、どうやら外国との貿易を専門にしている男が砂糖の取引をしていると言うことだった。

 フェイは場所を聞いて、その男の屋敷へと向かった。 

 街の奥にあるその商人の屋敷は、あたりは一番大きい建物だった。
 かなり成功している商人のようだった。

 フェイは、屋敷の門番に声をかける。

「すみません、旦那様と取引がしたいんですが」

 フェイがそう言うと、門番は怪訝な表情を浮かべた。

「いきなりなんだ? 旦那様と面識はないな?」

「ええ、そうなんですが、ぜひ売りたい商品があるんです。何卒お取次を」

「なんだ、売りたい商品とは」

 フェイはカゴから実を取り出して見せる。

「砂糖の代わりになる実です」

「砂糖だと? この実が? お前、砂糖がなんだか知ってるのか? こんな実が高級品の砂糖の代わりになるわけないだろ……」

 と言いつつ、門番はフェイが手渡した実を口に入れた、次の瞬間、

「あ、甘い!?!? なんだこれ!? 砂糖よりも甘いぞ!?」

「いかがでしょう。砂糖より甘いですが、砂糖より安く卸させていただきますが」

「……なるほど。わかった、旦那様に取り次ごう」

 フェイは門番に連れられて、屋敷の中へと入っていく。

「旦那様。極めて珍しいものを持って、取引がしたいと申しているものがおります」

 部屋の外から門番がそう伝えると、すぐに中から声がする。

「……入れ」

 屋敷の主人である商人の部屋へ入る。

 奥の椅子に恰幅の良い中年の男が座っていた。
 長いヒゲを蓄え、赤色の絹の服を着ている。下手な貴族より金持ちそうだ。

「この商人クラドと取引がしたいと?」

 商人はクラドと言う名前らしい。

「お時間をいただき、感謝いたします。僕はフェイ・ソシュールです。こちらはイリス」

「それで、俺に何を売ろうと言うのだ?」

 クラドは鋭い視線でフェイを急かした。

「こちらになります……」

 フェイはカゴを商人の前へと差し出す。

「……何の実だ?」

「テビアと言うものです」

 フェイが言うと、クラドは驚く。

「……テビアだと!? 精霊世界の植物だと聞くが」

「はい。その通りでございます」

 流石にクラドは怪訝な表情を浮かべた。
 テビアは、本来精霊語を会得した人間にしか見えない。だから、いかに世界を旅する商人と言えど目にしたことがなかったのだ。

 フェイは一実を取り自分で食べて、毒がないことを証明し、それから商人勧めた。

「どうぞ、食べてみてください」

 商人は実を取り口にする。

 そして、それを口にした瞬間――

「これは――ッ! 確かに砂糖より甘い。これほど甘いものは生まれて初めて口にした」

 どうやら実の価値を理解してくれたようだった。

「素晴らしい。これは高く売れるぞ……」

 クラドは、素晴らしいものを見つけたと笑みを浮かべた。

「これは一体どこで作っているんだ?」

「城壁の外で作っております」

 フェイが言うと、クラドは驚きの表情を浮かべた。

「あの不毛の地で? まさか幻の植物があんな場所で育つとは」

「いかがでしょう。精製して塊にしてお売りすることもできます。お値段は砂糖より安くできますよ」

 フェイが提案するとクラドは即決でうなづく。

「もちろん買おう。あるだけ仕入れさせて欲しい」

 †

 商売繁盛。
 そんな言葉がピッタリだった。

 テビアの栽培に成功し、王国の大商人クラドとの売買が始まったことで、フェイたちの辺境の地にお金が流れてきた。

「また牛の肉が食えるなんて、ほんとありがてぇ」

「ここで取れる肉って言ったら、ネズミがせいぜいだからな」

「それに新しい服なんて、何年振りだ?」

 栽培したテビアと引き換えに、食料や日常品が手に入るようになったのだ。
 どれも未開の地ではなかなか手に入らないものだった。

「しかし、まさかこんなところに商機があるとは思いもしなかったな」

 村にやって来た大商人クラドは、フェイが作った城壁付きの「農園」を見ながらヒゲを撫でる。

 村で栽培した実は、クラドの手によって飛ぶように売れた。街ではすっかりテビアの実がブームになっている。

「これからもぜひ、一つよろしく頼むよ」

 クラドはそう言ってフェイに握手を求めた。

「もちろんです。末長くお付き合いできれば」


 †

 ――だが村に見つめていたのは商人だけではなかった。

 「男」は村の様子を観察し、主人に報告する。

「領主様。どうやら、あの噂は本当のようです」

 ――男が報告する相手は、辺境の周辺を支配する辺境伯だった。
 
「ほう、それでは未開の地で獣人たちが“砂糖のなる草”を作っていると言うのは本当だったのか」

「はい、領主様」

「全く信じられんな。あの辺境の地で高級品が栽培できるとは……」

「おっしゃる通り、信じられないことです。しかし、街で流通している砂糖は、未開の地で作られたもので間違いありません」


「そうなら、我々にとっては千載一遇のチャンスだな」

 辺境伯はニヤリと笑った。
 それに応じて部下の男も笑う。

「あそこは誰の土地でもありません。であれば――早い者勝ちです」

「その通りだ」

「それでは、すぐに部隊を用意します」

「急げ。一攫千金のチャンスだぞ」



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