14 / 20
14.商売繁盛
しおりを挟む†
テビアの実を収穫したフェイは、イリスに乗って一番近くの街へと向かった。
街はドラゴニア王国の城壁の内側にあり陸路からの侵入は不可能だった。
だが、空を飛べるイリスが入れば無関係だった。
「……しかし防備が弱いな……本当は空にも結界を張ったほうがいいんだけど……」
フェイは一瞬そう思ったが、ドラゴニア王国のことはもう他人事なのであまり深くは考えなかった。
街に降り立ち、市場で嗜好品を買い取ってくれそうな店を探す。
道ゆく人に聞くと、どうやら外国との貿易を専門にしている男が砂糖の取引をしていると言うことだった。
フェイは場所を聞いて、その男の屋敷へと向かった。
街の奥にあるその商人の屋敷は、あたりは一番大きい建物だった。
かなり成功している商人のようだった。
フェイは、屋敷の門番に声をかける。
「すみません、旦那様と取引がしたいんですが」
フェイがそう言うと、門番は怪訝な表情を浮かべた。
「いきなりなんだ? 旦那様と面識はないな?」
「ええ、そうなんですが、ぜひ売りたい商品があるんです。何卒お取次を」
「なんだ、売りたい商品とは」
フェイはカゴから実を取り出して見せる。
「砂糖の代わりになる実です」
「砂糖だと? この実が? お前、砂糖がなんだか知ってるのか? こんな実が高級品の砂糖の代わりになるわけないだろ……」
と言いつつ、門番はフェイが手渡した実を口に入れた、次の瞬間、
「あ、甘い!?!? なんだこれ!? 砂糖よりも甘いぞ!?」
「いかがでしょう。砂糖より甘いですが、砂糖より安く卸させていただきますが」
「……なるほど。わかった、旦那様に取り次ごう」
フェイは門番に連れられて、屋敷の中へと入っていく。
「旦那様。極めて珍しいものを持って、取引がしたいと申しているものがおります」
部屋の外から門番がそう伝えると、すぐに中から声がする。
「……入れ」
屋敷の主人である商人の部屋へ入る。
奥の椅子に恰幅の良い中年の男が座っていた。
長いヒゲを蓄え、赤色の絹の服を着ている。下手な貴族より金持ちそうだ。
「この商人クラドと取引がしたいと?」
商人はクラドと言う名前らしい。
「お時間をいただき、感謝いたします。僕はフェイ・ソシュールです。こちらはイリス」
「それで、俺に何を売ろうと言うのだ?」
クラドは鋭い視線でフェイを急かした。
「こちらになります……」
フェイはカゴを商人の前へと差し出す。
「……何の実だ?」
「テビアと言うものです」
フェイが言うと、クラドは驚く。
「……テビアだと!? 精霊世界の植物だと聞くが」
「はい。その通りでございます」
流石にクラドは怪訝な表情を浮かべた。
テビアは、本来精霊語を会得した人間にしか見えない。だから、いかに世界を旅する商人と言えど目にしたことがなかったのだ。
フェイは一実を取り自分で食べて、毒がないことを証明し、それから商人勧めた。
「どうぞ、食べてみてください」
商人は実を取り口にする。
そして、それを口にした瞬間――
「これは――ッ! 確かに砂糖より甘い。これほど甘いものは生まれて初めて口にした」
どうやら実の価値を理解してくれたようだった。
「素晴らしい。これは高く売れるぞ……」
クラドは、素晴らしいものを見つけたと笑みを浮かべた。
「これは一体どこで作っているんだ?」
「城壁の外で作っております」
フェイが言うと、クラドは驚きの表情を浮かべた。
「あの不毛の地で? まさか幻の植物があんな場所で育つとは」
「いかがでしょう。精製して塊にしてお売りすることもできます。お値段は砂糖より安くできますよ」
フェイが提案するとクラドは即決でうなづく。
「もちろん買おう。あるだけ仕入れさせて欲しい」
†
商売繁盛。
そんな言葉がピッタリだった。
テビアの栽培に成功し、王国の大商人クラドとの売買が始まったことで、フェイたちの辺境の地にお金が流れてきた。
「また牛の肉が食えるなんて、ほんとありがてぇ」
「ここで取れる肉って言ったら、ネズミがせいぜいだからな」
「それに新しい服なんて、何年振りだ?」
栽培したテビアと引き換えに、食料や日常品が手に入るようになったのだ。
どれも未開の地ではなかなか手に入らないものだった。
「しかし、まさかこんなところに商機があるとは思いもしなかったな」
村にやって来た大商人クラドは、フェイが作った城壁付きの「農園」を見ながらヒゲを撫でる。
村で栽培した実は、クラドの手によって飛ぶように売れた。街ではすっかりテビアの実がブームになっている。
「これからもぜひ、一つよろしく頼むよ」
クラドはそう言ってフェイに握手を求めた。
「もちろんです。末長くお付き合いできれば」
†
――だが村に見つめていたのは商人だけではなかった。
「男」は村の様子を観察し、主人に報告する。
「領主様。どうやら、あの噂は本当のようです」
――男が報告する相手は、辺境の周辺を支配する辺境伯だった。
「ほう、それでは未開の地で獣人たちが“砂糖のなる草”を作っていると言うのは本当だったのか」
「はい、領主様」
「全く信じられんな。あの辺境の地で高級品が栽培できるとは……」
「おっしゃる通り、信じられないことです。しかし、街で流通している砂糖は、未開の地で作られたもので間違いありません」
「そうなら、我々にとっては千載一遇のチャンスだな」
辺境伯はニヤリと笑った。
それに応じて部下の男も笑う。
「あそこは誰の土地でもありません。であれば――早い者勝ちです」
「その通りだ」
「それでは、すぐに部隊を用意します」
「急げ。一攫千金のチャンスだぞ」
†
1
あなたにおすすめの小説
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる