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しんぷる わーず
しおりを挟むまさかこんなわたしに
こんな素敵な出会いが訪れるなんて・・・
夢にも思わなかった・・・
わたしは今、自分の家の前である人の到着をドキドキしながら待っている。
今日のためにいつもはあんまりしないオシャレをしてまでその人を待っている。
しばらく待っていると、家事を終えた母が後ろから声をかけてきた。
「遅いねぇ」
「うん・・・ってお母さんは 待ってなくて いいのにぃ」
わたしはゆっくりそう言って左手で追い出す仕草をする。
「いいじゃないの? お母さんだって久しぶりなんだし」
母はそんなわたしの仕草に動じずに、そう言いながらわたしの顔を見ている。
「もう だから 別のとこで 待ち合わせのほうが よかったのに」
「なに言ってるの? 別のとこで待ってたとしても あんた一人で置いて帰るわけいかないでしょ?」
「・・・」
確かにわたしは1人で待つことは出来るけど、母の言葉も正しいってこともわかっているからそれに対しては言い返せない。
(あ~ぁ 1人でも大丈夫なのに・・・)
そんな会話をしている母娘おやこの前に、1台のレンタカーが止まりガラス越しから軽く右手を挙げて誰かがこちらのほうを見ている。
「あ きた!」
わたしはその姿にうれしさを隠せなくてニコニコしながら小さく左手を振っていた。
すると車のドアが開き、中から長身でサングラスという一見するとちょっと怖そうな(失礼)男性が降りてきてニヤッとしながらわたしのほうへ近づいてきた。
「よう 遅くなってごめん・・・あ どうも すみません 遅くなりました」
そう言って男性は母に向かってかけていたサングラスをはずし軽く一礼をしていた。
「いつもわざわざすみませんね 杉山さんこそせっかくのお休みなのに遠くから 大変でしょ?」
「いえいえ 僕は大丈夫ですから」
さっきからずっと待っていたこの男性こそ、わたしの大好きな彼氏です。
しかも彼はあの有名な5人組のボーカルグループ、プリズナーズのリーダー杉山 辰弥さんです。
そして今日はこれから久しぶりのデートなんです。
母と彼の会話中わたしは彼の横まで移動し見上げながら彼のジャケットの袖を黙ったまま下からつまみ軽く引っ張ると、杉山さんは気づいて見おろすようにわたしを見つめる。
わたしたちの視線が違うのも理由があって、それはわたしが車椅子だからです。
わたしは生まれつきの重い障がいでずっと外では車椅子で行動している。
「はいはい わかってるって そんじゃあ行くか?・・・それじゃあ すみません しばらくお借りします」
そう言って彼は母に軽く頭を下げサングラスをかけなおし、わたしの後ろに回りゆっくり車椅子押しながらわたしを車の助手席の前まで連れてってくれた。
そして助手席のドアを開けて、わたしは杉山さんの首に左手を回し肩につかまった。
「んじゃ いくぞ!」って言いながら杉山さんはわたしをお姫様抱っこのように抱き上げて助手席に座らせてくれた。
「大丈夫か?」
「うん」
「じゃあ これ入れてくるから待ってな?」
彼はドアを閉めるとわたしが乗っていた車椅子を折りたたみ後ろのトランクに詰め込んでいる。
「じゃあね 行ってきます」
「行ってらっしゃい 杉山さんにあんまり迷惑かけないでいなさいよ?」
「はいはい わかってるよぉ」
「あはは」
助手席の窓越しでの母との会話に運転席に戻った杉山さんは隣で笑っていた。
「それじゃ 行ってきます」
そう言って杉山さんは母に軽く頭を下げてからゆっくりアクセルを踏み込んで車を走らせていく。
杉山さんの運転する中で、わたしは久しぶりに会った彼と一緒にいることで緊張していた。
(あ~ どうしよう? いくら彼氏とはいっても やっぱり緊張しちゃうよぉ)
そんなわたしに杉山さんは運転しながら話しかけてきた。
「それにしても久しぶりだな 元気だったか?」
「あ うん 元気だよ たっちゃんは?」
「俺か? 俺はこのとおり元気よ」
「よかった」
杉山さんと話しているうちに、わたしはいつの間にかリラックスしていた。
「ほかの みんなは 元気なの?」
「ほかの? あぁ みんな元気元気よ 今日のこと話したら「よろしく」伝えてくれってさ」
「そうなんだ」
わたしたちのことはほかのメンバー全員知っています いわばメンバー公認のカップルなんです。
「武本なんてさ 今日会うって言ったら「ボクもいく!」って俺にすがりついてよぉ も~大変だったぜ」
「あはは」
そして、そのなかでも特に武本 伸治さんはわたしたちのキューピット(?)なんです。
「さてと これからどうしよっか?」
「う~ん・・・あ そうだ そういえば まだ いろいろ 忙しいんでしょ?」
「あぁ 確かに今曲作りとかで忙しくて 今日もホントは夜には帰るつもりだったが 作業が思ったより早く終わってさ だから 今夜はホテルに泊まることにした」
「じゃあ ゆっくり できるって こと?」
「そういうこと ってでもさ あやはあんまり遅すぎもダメなんじゃねぇの?」
「大丈夫だよ もし そうなったら 家に電話 するから」
「よしっ 今回はちょいとゆっくりしていくか?」
「うん!」
わたしの答えに顔は正面でもニカッと笑いかけながら車を走らせていく。
いつも作業やらツアーとかでいろいろと忙しくて疲れているはずなのに、わたしが車椅子で地方に住んでいるから杉山さんはたとえ少ししか会えなくても、いつも会いに来てくれる。
そんな彼の気遣いにわたしはすごい嬉しい。
2人でいろんな話をしながら車は走り進んでいき、窓辺から一軒のおしゃれなカフェでお茶をしている人たちが見える。
わたしはその光景を見ながらあのときのことを思い出していた。
それは彼と始めて会ったときのこと そして・・・。
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