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であい
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彼との出会いはわたしが友達の休暇を利用して泊りがけで東京に遊びに来たときのこと。
一軒のおしゃれなカフェで友達とお茶をしながら休憩していると、隣のテーブル席に1人の男性が座ってきた。
わたしはいけないと思いながらもその人をちらって見てしまった。
深く被ったキャップにパーマの取れかかったようなちょっと長い髪の毛のその人にわたしはどこかで見たようなって思いで気になっていた。
しばらくすると友達は用ができたと席をはずし、わたしは1人待つことになったと同時に隣の席にはもう1人の男性がその人の対面の席に座ってきた。
「やぁ お待たせ 待った?」
「おっせぇぞ ったく」
「はは ゴメンゴメン」
わたしには2人の会話は聞こえてなかったけど、でもそのときに後から来た人を見て思わず息を呑んだ。
ふわふわの金髪にサングラス、でもサングラスからでもわかるくらいのアイドルに負けないような笑顔が見える。
(え?? うそっ!? でも間違いない!! 話しかけよっかなぁ でも声出なかったらどうしよう)
わたしはそう思いながらも自分で車椅子をゆっくり動かし隣の席に向かい、キャップの人の席の後ろに車椅子止めて、わたしは恐る恐る声を掛けてみる。
「あ あの す すみ ません」
するとキャップの男の人は座ったまま振り返りわたしを見る。
顔を合わせた瞬間、わたしがさっきまで抱いていた疑問が一気に解決した。
そこには、いつもテレビや雑誌では絶対に見ることのない素顔の彼だった。
でも、次の言葉を言おうとするとあまりの緊張で自分が予想通りで言葉が出なかった。
「おい? なんだ? どうした?」
そんな様子を見ていた金髪の男の人がゆっくり立ち上がり、わたしのとこまで近づいてきて声をかけてくれた。
「ごめんね もうちょっと落ち着いて喋ってくれないかな?」
2人の男の人は心配そうにわたしを見ている。
自分でも落ち着いて話さなきゃと思うが、思えば思うほど余計に緊張して身体が硬直している。
そこへ用事を済ませて友達が戻ってきてわたしの後ろから肩をたたいてきた。
わたしはそれに驚いて思わず体が大きく跳ね上がったが、友達はそんなわたしの反応には慣れていて平然な顔で見ている。
「もう ここでなにしてるの? 席にいないからびっくりしたよ・・・あ ごめんなさいね」
友達はそう言って2人に軽く頭を下げた。
「いえいえ 僕たちは別にいいですよ ただそっちの彼女が僕たちに何か話そうとしてたんだよね?」
心配そうな顔で言ってくる金髪の人の言葉を聞いて友達はわたしの横まで来て目線を合わせるようにした。
「そうだったんだ じゃあもう1回言ってみて?」
友達に励まされてわたしは深呼吸をしてから、いつも以上にゆっくりした口調で話してみる。
「あの もしかして プリズナーズの 杉山さんと 武本さん ですよね?」
「ええっ!?」
それを聞いた友達はわたしの言葉に通訳するのを忘れて驚いて2人のほうを見る。
そんなわたしの言葉に2人はちょっと驚いた様子だったけどすぐに笑顔になっていた。
「やっぱりそうだったか 多分そうだと思ったよ」
「うん そうだよ 君は僕たちのこと 知ってるんだね?」
「はい わたし 大ファンです! いつも CD 聴いてます!」
「そうなんですよ こないだは地元のライブにふたりで見させてもらいました」
「ん? 地元って 2人はこっちじゃないんだ?」
「はい ちょっと旅行で・・・あ あたしは横井 優希ゆうきです それで この人は松木 あやのさんです」
優希ちゃんはそう言ってわたしを見るからあわてて「はい」って答えた。
すると武本さんは、わたしの姿を見つめていた。
「えっと あやのちゃんだっけ? 君どっかで う~ん・・・」
「はい?」
しばらく考えこんで何か思い出したようで勢いよく言ってきた。
「あ~!? ひょっとして君って ここ最近のライブに来てない?」
「あ 地元のだったり 近くだったら 大体は 来てます」
わたしは恥ずかしそうにそう言うと、武本さんは何度もうなずいた。
「うんうん やっぱりねぇ いやぁ 実はさ メンバーで話してたんだよね 『最近車椅子で毎回来てる女の子がいる』ってね?」
武本さんの言葉に優希ちゃんは少し興奮染みでわたしに言ってくる。
「ちょっと すっご~い! プリゾナーズが あやちゃんのこと見てたんだよ」
「う うん なんか うれしいかも」
わたしは信じられない気持ちでいっぱいだった。
ライブ会場で大勢の人の中で、しかもわたしは車椅子だから、いくらチケットではいい席を取れても移動されて、車椅子用のスペースとして後ろのほうだったり通路側だったりするのがいつものことだった。
それでも自分のことを見てくれて、それに加えてメンバーの話題にもなっていたなんて正直照れくさいところもあったけど、でもそういうことはファンにとってみれば何よりもうれしかった。
「それにしても車椅子で見に来てくれるなんて すごいよね?」
武本さんは杉山さんのほうを見ると、杉山さんは黙ったままわたしを見つめていた。
「・・・たっちゃん?」
名前を呼びながら肩をたたく武本さんに杉山さんはようやく気がついた。
「あ わりぃ 俺 どっかいってた?」
「いってた」
「あ あの 大丈夫 ですか?」
「ぇ? あぁ 大丈夫 ありがとう」
わたしの心配に杉山さんは優しい表情になっていた。
あのとき杉山さんがどんな気分でわたしを見ていたのか、未だにわかりません。
でも、そのときのわたしはそんな杉山さんにドキッとしながらも、ものすごいうれしかった。
「ね? あやちゃん 杉山さんと握手したら?」
「え?」
以前から杉山さんのことを好きなことを知っている優希ちゃんの言葉に、わたしは『見抜かれた』思いで恥ずかしかった。
「杉山さん いいですよね?」
「うん いいよ」
杉山さんの了解を得てわたしはドキドキしながらゆっくり左手を差し出した。
「ん? 左なんだ?」
「あ はい こっちはあんまり 使えないので」
「そっか じゃあ」
わたしの言葉に納得した杉山さんは笑顔で左手を伸ばしてわたしの手と握手をした。
杉山さんの手はやっぱり男の人だから大きくて少し力が強く感じた。
するとそれを見ていた武本さんから思わぬことを言い出してきた。
「そうだ! せっかく会えたんだし 2人とも僕たちとこのままお茶しない?」
「「え~?!」」
「武本!? おまえは ったく」
杉山さんはあわてて武本さんの口を押さえながらわたしたちを見ていた。
突然の武本さんからの誘い(ナンパ?)にわたしたちは驚きと戸惑いを隠せなかった。
「ど どうする?」
「あたしは別に構わないよ あやちゃんの好きなようにね」
優希ちゃんは笑顔でそう言ってわたしを見ている。
(確かに武本さんからの誘いはうれしいよ だって大好きなプリゾナーズのメンバーからだからこれはめったにないチャンスだし それに目の前には1番好きな杉山さんもいるしぃ どうしよう?)
わたしがそんなことを考えていると杉山さんに押さえ込まれていた武本さんが杉山さんの手を解いてニコニコしながら、わたしの答えを待つように見ている。
わたしはそんな視線にまだ少し戸惑いながらも「いいですよ」と答えてしまった。
「おっ やったぁ!」
武本さんは大喜びでガッツポーズをしている横で杉山さんは心配そうな顔でわたしたちを見ていた。
「悪いな 二人とも なんか無理に付きあわせちゃったみたいで?」
「そんな 別にいいんですよ どうせヒマでしたし ねぇ?」
「そうですよ 気にしないで ください」
「はは 「気にしないでください」か ありがとう それじゃ 仲良くしような?」
「「はい!」」
こうしてわたしと優希ちゃんは杉山さん・武本さんとお茶をすることになった。
はじめは緊張で喋れなかったわたしだったけど、みんな年齢が近いせいかだんだん気軽に話せるようになっていた。
杉山さんたちも途中わたしの言葉が聞き取れなかったときは、何度も聞き返したりわかった人が通訳してくれたりしてくれたりしながら会話が弾んで、いつのまにか会話の中に丁寧語はなくなっていた。
そんなときに杉山さんがわたしに向かって杉山さんが話しかけてきた。
「そうだ よかったら俺とそこら辺 ふらつかない?」
「え? でも」
わたしの戸惑いを気づいたのか杉山さんは笑いながら
「はは 大丈夫だよ 俺こう見えて車椅子の扱い慣れてるからさ」
「うん オレもそうだし ほかのメンバーも車椅子には慣れてるんだよ」
「そうなんだ」
「で どうかな?」
「あやちゃん 行ってくれば? 杉山さんもそう言ってるしね?」
「それじゃあ お願いします」
優希ちゃんの励ましにわたしが恥ずかしそうにそう答えると杉山さんは笑顔でゆっくり立ち上がりわたしの後ろに回り車椅子のハンドルを握っってきた。
「それじゃ 行こうか? んじゃ ちょっと行ってくるわ」
「杉山さん あやちゃんをお願いしますね?」
「うん わかってるって」
「あ ちょっと待って?」
杉山さんはわたしの車椅子を押して行こうとすると武本さんは急に呼び止めてきた。
「なんだよ?」
「たっちゃんじゃないよ」
「え? わたしに?」
武本さんは笑顔でうなずき席から立ち上がりわたしのところまできてそっと話してきた。
「いいかい? たっちゃんにまかせて大丈夫だからね それにどんなことがあってもちゃんとあやのちゃんのこと守ってくれるからね」
小声で言ったあとサングラスからでもわかるくらいの笑顔で見ていた。
わたしはそんな武本さんの言葉の意味に疑問を持ちながらも「はい」って笑顔でこたえた。
「武本 お前なにを言ったんだ?」
「いやいやぁ なんでもないよぉ」
「くすっ くすくす」
車椅子の後ろから杉山さんが武本さんに睨みつけながら聞いてくる様子に間にちょうどふたりに挟まれて、わたしは思わず笑ってしまった。
そんなわたしに気づいて、杉山さんと武本さんはそろって顔を見合わせお互いを誤魔化すようにニカッとはにかんだ。
「優希ちゃん それじゃ ちょっと 行ってくるね?」
「うん 行ってらっしゃい 楽しんできてね」
「じゃ 行きますか?」
「はい」
「よしっ 押すぞ」
そして杉山さんはゆっくりわたしを乗せた車椅子を押し始め歩き出しカフェを出た。
武本さんと優希ちゃんはそんな姿を笑顔で見送っていた。
「いいんですか? 本当は一緒に行きたかったんじゃないの?」
「いいのいいの だって さっきから見てるとたっちゃんはもうあやのちゃんのこと気になってるみたいだし」
「ぇ? そうなの?」
「うん だからいいの」
わたしはもちろんカフェでふたりがそんな会話をしていることにまったく知る由もなかった。
でも今思えば、そのとき既に武本さんはわたしと杉山さんがこうなることがわかっていたのかもしないね。
一軒のおしゃれなカフェで友達とお茶をしながら休憩していると、隣のテーブル席に1人の男性が座ってきた。
わたしはいけないと思いながらもその人をちらって見てしまった。
深く被ったキャップにパーマの取れかかったようなちょっと長い髪の毛のその人にわたしはどこかで見たようなって思いで気になっていた。
しばらくすると友達は用ができたと席をはずし、わたしは1人待つことになったと同時に隣の席にはもう1人の男性がその人の対面の席に座ってきた。
「やぁ お待たせ 待った?」
「おっせぇぞ ったく」
「はは ゴメンゴメン」
わたしには2人の会話は聞こえてなかったけど、でもそのときに後から来た人を見て思わず息を呑んだ。
ふわふわの金髪にサングラス、でもサングラスからでもわかるくらいのアイドルに負けないような笑顔が見える。
(え?? うそっ!? でも間違いない!! 話しかけよっかなぁ でも声出なかったらどうしよう)
わたしはそう思いながらも自分で車椅子をゆっくり動かし隣の席に向かい、キャップの人の席の後ろに車椅子止めて、わたしは恐る恐る声を掛けてみる。
「あ あの す すみ ません」
するとキャップの男の人は座ったまま振り返りわたしを見る。
顔を合わせた瞬間、わたしがさっきまで抱いていた疑問が一気に解決した。
そこには、いつもテレビや雑誌では絶対に見ることのない素顔の彼だった。
でも、次の言葉を言おうとするとあまりの緊張で自分が予想通りで言葉が出なかった。
「おい? なんだ? どうした?」
そんな様子を見ていた金髪の男の人がゆっくり立ち上がり、わたしのとこまで近づいてきて声をかけてくれた。
「ごめんね もうちょっと落ち着いて喋ってくれないかな?」
2人の男の人は心配そうにわたしを見ている。
自分でも落ち着いて話さなきゃと思うが、思えば思うほど余計に緊張して身体が硬直している。
そこへ用事を済ませて友達が戻ってきてわたしの後ろから肩をたたいてきた。
わたしはそれに驚いて思わず体が大きく跳ね上がったが、友達はそんなわたしの反応には慣れていて平然な顔で見ている。
「もう ここでなにしてるの? 席にいないからびっくりしたよ・・・あ ごめんなさいね」
友達はそう言って2人に軽く頭を下げた。
「いえいえ 僕たちは別にいいですよ ただそっちの彼女が僕たちに何か話そうとしてたんだよね?」
心配そうな顔で言ってくる金髪の人の言葉を聞いて友達はわたしの横まで来て目線を合わせるようにした。
「そうだったんだ じゃあもう1回言ってみて?」
友達に励まされてわたしは深呼吸をしてから、いつも以上にゆっくりした口調で話してみる。
「あの もしかして プリズナーズの 杉山さんと 武本さん ですよね?」
「ええっ!?」
それを聞いた友達はわたしの言葉に通訳するのを忘れて驚いて2人のほうを見る。
そんなわたしの言葉に2人はちょっと驚いた様子だったけどすぐに笑顔になっていた。
「やっぱりそうだったか 多分そうだと思ったよ」
「うん そうだよ 君は僕たちのこと 知ってるんだね?」
「はい わたし 大ファンです! いつも CD 聴いてます!」
「そうなんですよ こないだは地元のライブにふたりで見させてもらいました」
「ん? 地元って 2人はこっちじゃないんだ?」
「はい ちょっと旅行で・・・あ あたしは横井 優希ゆうきです それで この人は松木 あやのさんです」
優希ちゃんはそう言ってわたしを見るからあわてて「はい」って答えた。
すると武本さんは、わたしの姿を見つめていた。
「えっと あやのちゃんだっけ? 君どっかで う~ん・・・」
「はい?」
しばらく考えこんで何か思い出したようで勢いよく言ってきた。
「あ~!? ひょっとして君って ここ最近のライブに来てない?」
「あ 地元のだったり 近くだったら 大体は 来てます」
わたしは恥ずかしそうにそう言うと、武本さんは何度もうなずいた。
「うんうん やっぱりねぇ いやぁ 実はさ メンバーで話してたんだよね 『最近車椅子で毎回来てる女の子がいる』ってね?」
武本さんの言葉に優希ちゃんは少し興奮染みでわたしに言ってくる。
「ちょっと すっご~い! プリゾナーズが あやちゃんのこと見てたんだよ」
「う うん なんか うれしいかも」
わたしは信じられない気持ちでいっぱいだった。
ライブ会場で大勢の人の中で、しかもわたしは車椅子だから、いくらチケットではいい席を取れても移動されて、車椅子用のスペースとして後ろのほうだったり通路側だったりするのがいつものことだった。
それでも自分のことを見てくれて、それに加えてメンバーの話題にもなっていたなんて正直照れくさいところもあったけど、でもそういうことはファンにとってみれば何よりもうれしかった。
「それにしても車椅子で見に来てくれるなんて すごいよね?」
武本さんは杉山さんのほうを見ると、杉山さんは黙ったままわたしを見つめていた。
「・・・たっちゃん?」
名前を呼びながら肩をたたく武本さんに杉山さんはようやく気がついた。
「あ わりぃ 俺 どっかいってた?」
「いってた」
「あ あの 大丈夫 ですか?」
「ぇ? あぁ 大丈夫 ありがとう」
わたしの心配に杉山さんは優しい表情になっていた。
あのとき杉山さんがどんな気分でわたしを見ていたのか、未だにわかりません。
でも、そのときのわたしはそんな杉山さんにドキッとしながらも、ものすごいうれしかった。
「ね? あやちゃん 杉山さんと握手したら?」
「え?」
以前から杉山さんのことを好きなことを知っている優希ちゃんの言葉に、わたしは『見抜かれた』思いで恥ずかしかった。
「杉山さん いいですよね?」
「うん いいよ」
杉山さんの了解を得てわたしはドキドキしながらゆっくり左手を差し出した。
「ん? 左なんだ?」
「あ はい こっちはあんまり 使えないので」
「そっか じゃあ」
わたしの言葉に納得した杉山さんは笑顔で左手を伸ばしてわたしの手と握手をした。
杉山さんの手はやっぱり男の人だから大きくて少し力が強く感じた。
するとそれを見ていた武本さんから思わぬことを言い出してきた。
「そうだ! せっかく会えたんだし 2人とも僕たちとこのままお茶しない?」
「「え~?!」」
「武本!? おまえは ったく」
杉山さんはあわてて武本さんの口を押さえながらわたしたちを見ていた。
突然の武本さんからの誘い(ナンパ?)にわたしたちは驚きと戸惑いを隠せなかった。
「ど どうする?」
「あたしは別に構わないよ あやちゃんの好きなようにね」
優希ちゃんは笑顔でそう言ってわたしを見ている。
(確かに武本さんからの誘いはうれしいよ だって大好きなプリゾナーズのメンバーからだからこれはめったにないチャンスだし それに目の前には1番好きな杉山さんもいるしぃ どうしよう?)
わたしがそんなことを考えていると杉山さんに押さえ込まれていた武本さんが杉山さんの手を解いてニコニコしながら、わたしの答えを待つように見ている。
わたしはそんな視線にまだ少し戸惑いながらも「いいですよ」と答えてしまった。
「おっ やったぁ!」
武本さんは大喜びでガッツポーズをしている横で杉山さんは心配そうな顔でわたしたちを見ていた。
「悪いな 二人とも なんか無理に付きあわせちゃったみたいで?」
「そんな 別にいいんですよ どうせヒマでしたし ねぇ?」
「そうですよ 気にしないで ください」
「はは 「気にしないでください」か ありがとう それじゃ 仲良くしような?」
「「はい!」」
こうしてわたしと優希ちゃんは杉山さん・武本さんとお茶をすることになった。
はじめは緊張で喋れなかったわたしだったけど、みんな年齢が近いせいかだんだん気軽に話せるようになっていた。
杉山さんたちも途中わたしの言葉が聞き取れなかったときは、何度も聞き返したりわかった人が通訳してくれたりしてくれたりしながら会話が弾んで、いつのまにか会話の中に丁寧語はなくなっていた。
そんなときに杉山さんがわたしに向かって杉山さんが話しかけてきた。
「そうだ よかったら俺とそこら辺 ふらつかない?」
「え? でも」
わたしの戸惑いを気づいたのか杉山さんは笑いながら
「はは 大丈夫だよ 俺こう見えて車椅子の扱い慣れてるからさ」
「うん オレもそうだし ほかのメンバーも車椅子には慣れてるんだよ」
「そうなんだ」
「で どうかな?」
「あやちゃん 行ってくれば? 杉山さんもそう言ってるしね?」
「それじゃあ お願いします」
優希ちゃんの励ましにわたしが恥ずかしそうにそう答えると杉山さんは笑顔でゆっくり立ち上がりわたしの後ろに回り車椅子のハンドルを握っってきた。
「それじゃ 行こうか? んじゃ ちょっと行ってくるわ」
「杉山さん あやちゃんをお願いしますね?」
「うん わかってるって」
「あ ちょっと待って?」
杉山さんはわたしの車椅子を押して行こうとすると武本さんは急に呼び止めてきた。
「なんだよ?」
「たっちゃんじゃないよ」
「え? わたしに?」
武本さんは笑顔でうなずき席から立ち上がりわたしのところまできてそっと話してきた。
「いいかい? たっちゃんにまかせて大丈夫だからね それにどんなことがあってもちゃんとあやのちゃんのこと守ってくれるからね」
小声で言ったあとサングラスからでもわかるくらいの笑顔で見ていた。
わたしはそんな武本さんの言葉の意味に疑問を持ちながらも「はい」って笑顔でこたえた。
「武本 お前なにを言ったんだ?」
「いやいやぁ なんでもないよぉ」
「くすっ くすくす」
車椅子の後ろから杉山さんが武本さんに睨みつけながら聞いてくる様子に間にちょうどふたりに挟まれて、わたしは思わず笑ってしまった。
そんなわたしに気づいて、杉山さんと武本さんはそろって顔を見合わせお互いを誤魔化すようにニカッとはにかんだ。
「優希ちゃん それじゃ ちょっと 行ってくるね?」
「うん 行ってらっしゃい 楽しんできてね」
「じゃ 行きますか?」
「はい」
「よしっ 押すぞ」
そして杉山さんはゆっくりわたしを乗せた車椅子を押し始め歩き出しカフェを出た。
武本さんと優希ちゃんはそんな姿を笑顔で見送っていた。
「いいんですか? 本当は一緒に行きたかったんじゃないの?」
「いいのいいの だって さっきから見てるとたっちゃんはもうあやのちゃんのこと気になってるみたいだし」
「ぇ? そうなの?」
「うん だからいいの」
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