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ときめき
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わたしには、今まで「彼氏」といえる男性がいなかった。
たとえ好きになっても片思いのままで終わったり、自分から告白をしてフラれてばっかりだった。
仲がよくても「いいお友達」まではいっても、恋愛まで発展しない。
どんな障がい者でも、がんばれば素敵な人と出逢って恋愛・結婚までいくことはわかっているし、できればわたしもそういう願望はある。
でも、わたしはほかの人よりも障がいが重いから恋愛になってもいろいろな問題があるから、きっと恋愛対象としては見れないかもしれないと思っていた。
友達の優希ちゃんと武本さんに見送られてカフェを出たわたしと杉山さんはゆっくりと通りを歩いていた。
わたしの車椅子を押す杉山さんは自分の言っていたように本当に慣れている様子だったので、わたしは少し緊張しながらも安心していた。
「見たいものがあったらちゃんと言ってくれよね?」
「はい」
杉山さんの上手な「有名人オーラ消し」のおかげなのか、それともわたしが一緒にいるからなのか、周りを通り過ぎる人は誰もわたしたちのことを振り向かない。
きっとみんな普通に友達かカップルとしてわたしたちを見ているのかもしれない。
でも、こんな風に杉山さんと2人だけで歩けるとは、はっきり言って夢にも思わなかったことだろう。
(もしも杉山さんが本当にわたしの彼氏だったら きっとこんな風になるんだろうなぁ)
わたしはそんなことを考えながらも、心のどこかでは叶えたらいいなぁと願っていた。
いろんな話をしながらしばらく歩くと杉山さんは車椅子を止めた。
そこは小さくてシンプルな感じのショップだった。
「ここ俺の友達がやってる店なんだ」
「へぇ そうなんだ」
「ねぇ 入っろうか?」
「ぇ? う~ん」
わたしが迷っていると杉山さんは後ろから腰を低くしてわたしの顔のすぐ横に顔をもってきた。
わたしはあまりにも近くに杉山さんの顔があることにドキッとして、顔を動かないようにしていた。
「どう?」
「は はい いいですよ」
「OK じゃあ入ろ」
さっきのことでまだドキドキが残ったまま返事をすると、杉山さんはゆっくり体勢を戻して再び車椅子を押して店の中へと入いろうとしたが入り口には少し高い段差があり、車椅子の前輪が引っかかってしまった。
「あ 段差」
「へ? 段差? なんだよ ちゃんとバリアフリーにしとけっつ~の」
「でも 大丈夫?」
「ん? 大丈夫だって ちゃんと横つかまってて? よっと!」
杉山さんは車椅子の後ろを片足で踏み込んで、うまく前輪を持ち上げて段差を超えることができた。
するとそんな物音に気づいてか、店の奥から同世代ぐらいの店員の男性があらわれドアを開けてくれた。
「おっ なんだ たつじゃないか いらっしゃい」
「ども」
杉山さんとその男性が楽しそうに挨拶しているのを、わたしは黙って見ていた。
「久しぶりじゃないか 相変わらず忙しそうだな?」
「そんなことより この店の入り口んとこ スロープかなんかつけたほうがいいぞ?」
「は? スロープ?」
「そっ そうしないと ねぇ?」
杉山さんが軽く下を見るように指示をすると、男性はようやくわたしに気づいて笑顔で言ってきた。
「あ ようこそ いらっしゃい」
わたしは一瞬身体が固まったが、すぐにいつものように挨拶をした。
「こ こんにちは」
「うん こんにちは あ~ そうか こういうことか?」
「そういうこと あ そうだ この人は俺の友達で・・・」
杉山さんが名前を言おうとした瞬間に、男性が話を割りこむように言ってきた。
「ストップ! 紹介はあとにして とりあえずは中へどうぞ?」
男性はそう言って軽くウインクをしてから、わたしと杉山さんをゆっくり奥へと進めた。
「おっと そうだな じゃ 入ろうか?」
「はい」
店の中は外からは想像つかないくらい広い感じで、いろんなアクセサリーや小物が売っていた。
そして奥にはちょっとお茶をしながら休憩できるようなカウンター席とテーブル席があり、男性は わたしたちをテーブル席まで案内をしてくれた。
席に近づくと男性は椅子をひとつ横にずらしてくれたので、杉山さんは空いたスペースまでわたしを連れてきてくれて、杉山さんはわたしの隣の席に腰を下ろした。
「ところで2人とも 何か飲むかい?」
「いや 俺たち さっきそこのカフェで飲んできたから」
「そっか それじゃ俺も座ろうっかな」
男性は笑顔でそう言って、わたしたちと対面する席に座った。
「さて 改めて紹介するよ こいつ俺の友達でヒロって言うんだ」
「はじめまして」
「は はじめまして あやのです」
わたしは少し緊張しながら自己紹介をすると、ヒロさんはなにやらニヤニヤして杉山さんを見て言ってきた。
「たつ ひょっとして この子お前の彼女か?」
「ええ!?・・・・っ ゴホッ ゴホッ」
ヒロさんの思いがけない言葉に、わたしは驚いて声を出したら息が変なところに入って思わずむせてしまった。
すると杉山さんは慌てることもなく、わたしの背中をさすってくれた。
そんな何気ない杉山さんの優しさに、わたしはまたドキっとしていた。
「おいおい 大丈夫か? ビックリしたよな」
「う うん 大丈夫」
「そっか よかった」
杉山さんが背中をさすってくれたおかげで、わたしは何とか落ち着きが戻ってきた。
「あの? 大丈夫だった? ごめんねぇ」
心配そうな顔で謝るヒロさんに、わたしはゆっくり微笑んで見せた。
それを見たヒロさんは、ホッとした様子でわたしを見ていた。
「もう 変なこと 言わないで くださいよ」
「あはは でも あ あやのさんだっけ? さっきから見てると 案外たつのほうが まんざらでもなさそうだよ?」
「ま まさか? わたしと 杉山さんは 今日はじめて 会ったばっかりで・・・・ぁ」
笑いながら言ってくるヒロさんの言葉にまた驚きながら杉山さんのほうを見ると、わたしの背中に手を置いたまま眠っていた。
「・・・いつの間に?」
「最近忙しいって言ってたからなぁ 疲れてるんじゃないかな」
わたしの隣で眠っている杉山さんは、いつもとは違ってまるで少年みたいだった。
「あ~ぁ もう しょうがないなぁ これじゃ あやのさんが動けないよね?」
ヒロさんはゆっくり立ち上がり、杉山さんの腕を静かにわたしの背中から離した。
「そうだ あやのさん たつのことは俺が見てるから 欲しいものとか見てっていいよ?」
「ぇ? でも いいんですか?」
「うん」
満面な笑顔で言うヒロさんに、わたしは安心してしまった。
「それじゃあ ちょっと 見てきますね」
「えっと? 1人で行けるかな?」
「はい 大丈夫です」
「うん でも 何かあったら気軽に呼んでいいからね?」
「はい」
疲れて眠っている杉山さんを少しだけヒロさんに預けて、わたしは自分で車椅子をゆっくり動かしながら店内を見て回ることにした。
わたしの車椅子は左手だけで動かせるようになっている。
売っているアクセサリーや小物は、シンプルな感じやかわいい感じものなどが、いろいろあった。
しばらく見回っていると、あるものに目が留まった。
「あ これ かわいいな」
それは、少し長めのシルバーのチェーンのネックレスでトップのところには小さい透明な石が星の形になっていた。
「いいなぁ これ ほしいかも」
わたしが小言を言いながらそのネックレスに見とれていると、急に後ろから低い声がした。
「へぇ あやちゃんって こういうのがいいんだ?」
「!?」
わたしは驚いて身体が大きく跳ね上がり、後ろを見ると杉山さんが少しビックリした様子でわたしを見ていた。
「あ ごめん 驚かすつもりじゃなかったんだ」
「い いえ あ そんなことより 杉山さんは もういいの?」
「ん? はは いやぁ悪かったね? 急に寝ちゃって」
杉山さんは苦笑いをしてから、わたしに軽く頭を下げた。
「いえいえ 杉山さん 疲れてた みたいだし しょうがないよ」
わたしが笑顔でそう言うと杉山さんは何も言わずに、そっとわたしの頭の上に右手を置いて優しく撫でてくれた。
その時にわたしは、杉山さんに対してまたまたドキッとした。
(それに さっき杉山さん わたしのことを「あやちゃん」って呼んでくれたよね? なんかメチャクチャうれしいよぉ)
でも、そんなことを打ち消すように杉山さんは何かを思い出したようで少し焦りながら言ってきた。
「おっと! そうだった せっかくだけど そろそろあっちに戻らないと ヤバいことになったんだ」
「ぇ? なにか あったの?」
「それがさぁ さっき寝てるときにケータイが鳴って 「急にメンバーで集まることになった」ってマネージャーから」
「ええっ!?」
「そんなことだから 急いで戻るぞ!・・・って ヒロ すまないが また来るから」
杉山さんは大声で奥にいるヒロさんに軽く挨拶をしてから、わたしの車椅子を後ろ向きにしてバックでゆっくり段差を降りて店を出た。
「じゃあ ちょっと早足になるけど いいね?」
「うん」
「んじゃ 行くか」
そして杉山さんは再びわたしの車椅子を押しながら少し早足で歩き出した。
杉山さんに車椅子を押してもらっているその間、わたしは杉山さんに話しかけたら悪いと思い黙っていた。
しばらく歩くと遠くの方で手を振りながらこっちを見ている二人の姿が見えてきた。
「あれ 優希ちゃんだ」
「ん? 本当だ おっ それに武本もいるじゃん」
そしてわたしと杉山さんは、ようやくカフェに着いて再び優希ちゃんと武本さんに合流した。
「いやぁ 遅くなって悪かったな?」
「いえいえ いいんですよ・・・そんなことよりも あやちゃん 杉山さんと一緒にいられてよかったね?」
「う うん」
わたしが照れながら答えると、優希ちゃんと武本さんは笑顔でうなずいていた、
「ね? たっちゃん どこまで歩いてたの?」
「・・・って話してる場合じゃねぇんだよ」
武本さんの攻撃的な質問に杉山さんはうまくかわすように言ってきた。
すると、さっきまで笑顔だった武本さんも一瞬だが真剣な表情になった。
「マネージャーからのだったら知ってるよ オレのとこにも連絡はいったからさ それで 先に行こうかと思ったけど待ってたんだ」
「そのことなら あたしも武本さんから聞いてます だから気にしないでください」
「そっか わりぃな んじゃ 行くか?」
「了解!」
武本さんはゆっくり席から立ち上がり、杉山さんと並んでわたしと優希ちゃんの方を向いた。
「じゃあ そういう訳で 急で悪いけど 俺たちはこれで」
「今日はホントにありがとうございました あたしたちも杉山さんと武本さんに会えてすっごく楽しかった・・・ね?」
「ぇ? あ うん わたしも すっごく 楽しかった」
わたしはその時、これで杉山さんとお別れなんだということに、急に寂しい思いでいっぱいになり黙ったままボ~っとしていた。
でも優希ちゃんに言われてやっと我に返り、泣きたい思いをこらえながらも、いつもと同じように明るく言った。
「あはは そっか ならよかった 俺も楽しかったよ」
笑いながら言ってくれる杉山さんに、わたしはうれしさと切なさで複雑な気分でいた。
「あ あやのちゃんも優希ちゃんも またライブとかに来てね?」
「はい 必ず行きます!」
「あの これからも お仕事 ガンバって ください」
「あぁ ありがとうな」
「うん これからもいい曲歌うからね」
「「は~い!」」
「さて そろそろ行くか?」
「うん そんじゃあね バイバイ!」
杉山さんと武本さんは笑顔でわたしたちに軽く手を振りながら、ゆっくり歩き出してカフェを出ていった。
「行っちゃったね?」
「うん」
「よかったね? 杉山さんと武本さんに会えて」
「うん よかった」
わたしは杉山さんと武本さんに会えて、それでいろんな話ができて、そしてほんのちょっとだけだったけど杉山さんとデート(?)ができたことに何よりもうれしかった。
しばらくしてから、わたしは優希ちゃんに気になることを聞いてみた。
「ところで 優希ちゃんは 武本さんとは 仲良くなれたの?」
「うん なれたよ いっぱい話をしたしねぇ でも ファン以上にはなれないかな」
「はは そうなんだ」
まだそこまで聞いてないのに、しかも明るくサバサバと言う優希ちゃんに、わたしは少し笑いながら聞いていた。
すると、すかさず今度は優希ちゃんがニコッとしながら聞いてきた。
「そういうあやちゃんはどうなの? 杉山さんのこと ファン以上の感情になったの?」
わたしは優希ちゃんの言葉にドキッとしながらも、素直に「うん」と答えた。
ファン以上の感情・・・つまりわたしは杉山さんのことが本当に好きになったってこと。
「でも ダメだよね これ以上 好きになっきゃ」
いくらなんでも相手は誰もが知ってる有名人、わたしみたいなのを相手にするはずはないってことぐらいわかっている。
「ふふ あやちゃんの気持ち 案外早く叶うかもよ?」
優希ちゃんの意外な言葉に、わたしは驚きながらも少し自信が湧いてきたような気がした。
「さぁて あたしたちもそろそろ ホテルに戻りますかね?」
「うん そうだね」
優希ちゃんはゆっくり席から立ち上がり、わたしの後ろに回ってきた。
「それでは 話の続きはホテルでね?」
「うん」
そして優希ちゃんは慣れた手つきでわたしの車椅子をゆっくり押しながら歩き出しカフェを出た。
その時のわたしは杉山さんとはライブとかで会えるけど、直接に会って話をするってことはもうないだろうと思っていた。
でもまさかこんな意外な形で杉山さんと会うなんて思いもしなかった・・・。
たとえ好きになっても片思いのままで終わったり、自分から告白をしてフラれてばっかりだった。
仲がよくても「いいお友達」まではいっても、恋愛まで発展しない。
どんな障がい者でも、がんばれば素敵な人と出逢って恋愛・結婚までいくことはわかっているし、できればわたしもそういう願望はある。
でも、わたしはほかの人よりも障がいが重いから恋愛になってもいろいろな問題があるから、きっと恋愛対象としては見れないかもしれないと思っていた。
友達の優希ちゃんと武本さんに見送られてカフェを出たわたしと杉山さんはゆっくりと通りを歩いていた。
わたしの車椅子を押す杉山さんは自分の言っていたように本当に慣れている様子だったので、わたしは少し緊張しながらも安心していた。
「見たいものがあったらちゃんと言ってくれよね?」
「はい」
杉山さんの上手な「有名人オーラ消し」のおかげなのか、それともわたしが一緒にいるからなのか、周りを通り過ぎる人は誰もわたしたちのことを振り向かない。
きっとみんな普通に友達かカップルとしてわたしたちを見ているのかもしれない。
でも、こんな風に杉山さんと2人だけで歩けるとは、はっきり言って夢にも思わなかったことだろう。
(もしも杉山さんが本当にわたしの彼氏だったら きっとこんな風になるんだろうなぁ)
わたしはそんなことを考えながらも、心のどこかでは叶えたらいいなぁと願っていた。
いろんな話をしながらしばらく歩くと杉山さんは車椅子を止めた。
そこは小さくてシンプルな感じのショップだった。
「ここ俺の友達がやってる店なんだ」
「へぇ そうなんだ」
「ねぇ 入っろうか?」
「ぇ? う~ん」
わたしが迷っていると杉山さんは後ろから腰を低くしてわたしの顔のすぐ横に顔をもってきた。
わたしはあまりにも近くに杉山さんの顔があることにドキッとして、顔を動かないようにしていた。
「どう?」
「は はい いいですよ」
「OK じゃあ入ろ」
さっきのことでまだドキドキが残ったまま返事をすると、杉山さんはゆっくり体勢を戻して再び車椅子を押して店の中へと入いろうとしたが入り口には少し高い段差があり、車椅子の前輪が引っかかってしまった。
「あ 段差」
「へ? 段差? なんだよ ちゃんとバリアフリーにしとけっつ~の」
「でも 大丈夫?」
「ん? 大丈夫だって ちゃんと横つかまってて? よっと!」
杉山さんは車椅子の後ろを片足で踏み込んで、うまく前輪を持ち上げて段差を超えることができた。
するとそんな物音に気づいてか、店の奥から同世代ぐらいの店員の男性があらわれドアを開けてくれた。
「おっ なんだ たつじゃないか いらっしゃい」
「ども」
杉山さんとその男性が楽しそうに挨拶しているのを、わたしは黙って見ていた。
「久しぶりじゃないか 相変わらず忙しそうだな?」
「そんなことより この店の入り口んとこ スロープかなんかつけたほうがいいぞ?」
「は? スロープ?」
「そっ そうしないと ねぇ?」
杉山さんが軽く下を見るように指示をすると、男性はようやくわたしに気づいて笑顔で言ってきた。
「あ ようこそ いらっしゃい」
わたしは一瞬身体が固まったが、すぐにいつものように挨拶をした。
「こ こんにちは」
「うん こんにちは あ~ そうか こういうことか?」
「そういうこと あ そうだ この人は俺の友達で・・・」
杉山さんが名前を言おうとした瞬間に、男性が話を割りこむように言ってきた。
「ストップ! 紹介はあとにして とりあえずは中へどうぞ?」
男性はそう言って軽くウインクをしてから、わたしと杉山さんをゆっくり奥へと進めた。
「おっと そうだな じゃ 入ろうか?」
「はい」
店の中は外からは想像つかないくらい広い感じで、いろんなアクセサリーや小物が売っていた。
そして奥にはちょっとお茶をしながら休憩できるようなカウンター席とテーブル席があり、男性は わたしたちをテーブル席まで案内をしてくれた。
席に近づくと男性は椅子をひとつ横にずらしてくれたので、杉山さんは空いたスペースまでわたしを連れてきてくれて、杉山さんはわたしの隣の席に腰を下ろした。
「ところで2人とも 何か飲むかい?」
「いや 俺たち さっきそこのカフェで飲んできたから」
「そっか それじゃ俺も座ろうっかな」
男性は笑顔でそう言って、わたしたちと対面する席に座った。
「さて 改めて紹介するよ こいつ俺の友達でヒロって言うんだ」
「はじめまして」
「は はじめまして あやのです」
わたしは少し緊張しながら自己紹介をすると、ヒロさんはなにやらニヤニヤして杉山さんを見て言ってきた。
「たつ ひょっとして この子お前の彼女か?」
「ええ!?・・・・っ ゴホッ ゴホッ」
ヒロさんの思いがけない言葉に、わたしは驚いて声を出したら息が変なところに入って思わずむせてしまった。
すると杉山さんは慌てることもなく、わたしの背中をさすってくれた。
そんな何気ない杉山さんの優しさに、わたしはまたドキっとしていた。
「おいおい 大丈夫か? ビックリしたよな」
「う うん 大丈夫」
「そっか よかった」
杉山さんが背中をさすってくれたおかげで、わたしは何とか落ち着きが戻ってきた。
「あの? 大丈夫だった? ごめんねぇ」
心配そうな顔で謝るヒロさんに、わたしはゆっくり微笑んで見せた。
それを見たヒロさんは、ホッとした様子でわたしを見ていた。
「もう 変なこと 言わないで くださいよ」
「あはは でも あ あやのさんだっけ? さっきから見てると 案外たつのほうが まんざらでもなさそうだよ?」
「ま まさか? わたしと 杉山さんは 今日はじめて 会ったばっかりで・・・・ぁ」
笑いながら言ってくるヒロさんの言葉にまた驚きながら杉山さんのほうを見ると、わたしの背中に手を置いたまま眠っていた。
「・・・いつの間に?」
「最近忙しいって言ってたからなぁ 疲れてるんじゃないかな」
わたしの隣で眠っている杉山さんは、いつもとは違ってまるで少年みたいだった。
「あ~ぁ もう しょうがないなぁ これじゃ あやのさんが動けないよね?」
ヒロさんはゆっくり立ち上がり、杉山さんの腕を静かにわたしの背中から離した。
「そうだ あやのさん たつのことは俺が見てるから 欲しいものとか見てっていいよ?」
「ぇ? でも いいんですか?」
「うん」
満面な笑顔で言うヒロさんに、わたしは安心してしまった。
「それじゃあ ちょっと 見てきますね」
「えっと? 1人で行けるかな?」
「はい 大丈夫です」
「うん でも 何かあったら気軽に呼んでいいからね?」
「はい」
疲れて眠っている杉山さんを少しだけヒロさんに預けて、わたしは自分で車椅子をゆっくり動かしながら店内を見て回ることにした。
わたしの車椅子は左手だけで動かせるようになっている。
売っているアクセサリーや小物は、シンプルな感じやかわいい感じものなどが、いろいろあった。
しばらく見回っていると、あるものに目が留まった。
「あ これ かわいいな」
それは、少し長めのシルバーのチェーンのネックレスでトップのところには小さい透明な石が星の形になっていた。
「いいなぁ これ ほしいかも」
わたしが小言を言いながらそのネックレスに見とれていると、急に後ろから低い声がした。
「へぇ あやちゃんって こういうのがいいんだ?」
「!?」
わたしは驚いて身体が大きく跳ね上がり、後ろを見ると杉山さんが少しビックリした様子でわたしを見ていた。
「あ ごめん 驚かすつもりじゃなかったんだ」
「い いえ あ そんなことより 杉山さんは もういいの?」
「ん? はは いやぁ悪かったね? 急に寝ちゃって」
杉山さんは苦笑いをしてから、わたしに軽く頭を下げた。
「いえいえ 杉山さん 疲れてた みたいだし しょうがないよ」
わたしが笑顔でそう言うと杉山さんは何も言わずに、そっとわたしの頭の上に右手を置いて優しく撫でてくれた。
その時にわたしは、杉山さんに対してまたまたドキッとした。
(それに さっき杉山さん わたしのことを「あやちゃん」って呼んでくれたよね? なんかメチャクチャうれしいよぉ)
でも、そんなことを打ち消すように杉山さんは何かを思い出したようで少し焦りながら言ってきた。
「おっと! そうだった せっかくだけど そろそろあっちに戻らないと ヤバいことになったんだ」
「ぇ? なにか あったの?」
「それがさぁ さっき寝てるときにケータイが鳴って 「急にメンバーで集まることになった」ってマネージャーから」
「ええっ!?」
「そんなことだから 急いで戻るぞ!・・・って ヒロ すまないが また来るから」
杉山さんは大声で奥にいるヒロさんに軽く挨拶をしてから、わたしの車椅子を後ろ向きにしてバックでゆっくり段差を降りて店を出た。
「じゃあ ちょっと早足になるけど いいね?」
「うん」
「んじゃ 行くか」
そして杉山さんは再びわたしの車椅子を押しながら少し早足で歩き出した。
杉山さんに車椅子を押してもらっているその間、わたしは杉山さんに話しかけたら悪いと思い黙っていた。
しばらく歩くと遠くの方で手を振りながらこっちを見ている二人の姿が見えてきた。
「あれ 優希ちゃんだ」
「ん? 本当だ おっ それに武本もいるじゃん」
そしてわたしと杉山さんは、ようやくカフェに着いて再び優希ちゃんと武本さんに合流した。
「いやぁ 遅くなって悪かったな?」
「いえいえ いいんですよ・・・そんなことよりも あやちゃん 杉山さんと一緒にいられてよかったね?」
「う うん」
わたしが照れながら答えると、優希ちゃんと武本さんは笑顔でうなずいていた、
「ね? たっちゃん どこまで歩いてたの?」
「・・・って話してる場合じゃねぇんだよ」
武本さんの攻撃的な質問に杉山さんはうまくかわすように言ってきた。
すると、さっきまで笑顔だった武本さんも一瞬だが真剣な表情になった。
「マネージャーからのだったら知ってるよ オレのとこにも連絡はいったからさ それで 先に行こうかと思ったけど待ってたんだ」
「そのことなら あたしも武本さんから聞いてます だから気にしないでください」
「そっか わりぃな んじゃ 行くか?」
「了解!」
武本さんはゆっくり席から立ち上がり、杉山さんと並んでわたしと優希ちゃんの方を向いた。
「じゃあ そういう訳で 急で悪いけど 俺たちはこれで」
「今日はホントにありがとうございました あたしたちも杉山さんと武本さんに会えてすっごく楽しかった・・・ね?」
「ぇ? あ うん わたしも すっごく 楽しかった」
わたしはその時、これで杉山さんとお別れなんだということに、急に寂しい思いでいっぱいになり黙ったままボ~っとしていた。
でも優希ちゃんに言われてやっと我に返り、泣きたい思いをこらえながらも、いつもと同じように明るく言った。
「あはは そっか ならよかった 俺も楽しかったよ」
笑いながら言ってくれる杉山さんに、わたしはうれしさと切なさで複雑な気分でいた。
「あ あやのちゃんも優希ちゃんも またライブとかに来てね?」
「はい 必ず行きます!」
「あの これからも お仕事 ガンバって ください」
「あぁ ありがとうな」
「うん これからもいい曲歌うからね」
「「は~い!」」
「さて そろそろ行くか?」
「うん そんじゃあね バイバイ!」
杉山さんと武本さんは笑顔でわたしたちに軽く手を振りながら、ゆっくり歩き出してカフェを出ていった。
「行っちゃったね?」
「うん」
「よかったね? 杉山さんと武本さんに会えて」
「うん よかった」
わたしは杉山さんと武本さんに会えて、それでいろんな話ができて、そしてほんのちょっとだけだったけど杉山さんとデート(?)ができたことに何よりもうれしかった。
しばらくしてから、わたしは優希ちゃんに気になることを聞いてみた。
「ところで 優希ちゃんは 武本さんとは 仲良くなれたの?」
「うん なれたよ いっぱい話をしたしねぇ でも ファン以上にはなれないかな」
「はは そうなんだ」
まだそこまで聞いてないのに、しかも明るくサバサバと言う優希ちゃんに、わたしは少し笑いながら聞いていた。
すると、すかさず今度は優希ちゃんがニコッとしながら聞いてきた。
「そういうあやちゃんはどうなの? 杉山さんのこと ファン以上の感情になったの?」
わたしは優希ちゃんの言葉にドキッとしながらも、素直に「うん」と答えた。
ファン以上の感情・・・つまりわたしは杉山さんのことが本当に好きになったってこと。
「でも ダメだよね これ以上 好きになっきゃ」
いくらなんでも相手は誰もが知ってる有名人、わたしみたいなのを相手にするはずはないってことぐらいわかっている。
「ふふ あやちゃんの気持ち 案外早く叶うかもよ?」
優希ちゃんの意外な言葉に、わたしは驚きながらも少し自信が湧いてきたような気がした。
「さぁて あたしたちもそろそろ ホテルに戻りますかね?」
「うん そうだね」
優希ちゃんはゆっくり席から立ち上がり、わたしの後ろに回ってきた。
「それでは 話の続きはホテルでね?」
「うん」
そして優希ちゃんは慣れた手つきでわたしの車椅子をゆっくり押しながら歩き出しカフェを出た。
その時のわたしは杉山さんとはライブとかで会えるけど、直接に会って話をするってことはもうないだろうと思っていた。
でもまさかこんな意外な形で杉山さんと会うなんて思いもしなかった・・・。
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