たったひとりのために

まつめぐ

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めじるし

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 東京から地元に帰ってきて、どのぐらい経ったのかわからないけど、すっかりいつもと同じ日常に戻っていた。



 東京でプリゾナーズの杉山さんと武本さんに会ったっていうことは、わたしと優希ちゃんにとっては帰ってきてからのひとつの自慢のようになっていた。



 そんなある日のこと、わたしはいつものようにパソコンの場面に向かっていた。

 わたしは、別にひきこもりって言うわけじゃないけどヒマさえあればパソコンの前にいてインターネットでいろんなサイトを見たりしている。

 そして何気なく、これも恒例となっているメールチェックをしてみた。

 いろんな件名でやってくる何通ものメールの中で、わたしは1通のメールが気になった。

「ん?」

 すると、そのメールの件名を見て驚きを隠せずにいられなかった。

「え ええ!? う うそ??」

 目を丸くしながら、ふとアドレスのとこを見ると全然見たことも、聞いたこともないケータイからのメールアドレスが書かれている。

 わたしは、まさかと思いながら何度も件名を見るとやっぱりその件名には間違いなくそう書かれていた。

『こんにちは 杉山です』

 わたしの周りでそういう苗字の人は、どんなに考えてもあのプリゾナーズの杉山さんしかいない。

 でも、東京で会ったときわたし優希ちゃんも杉山さんと武本さんにも自分たちの連絡先を教えていなかった。

 それなのに、そのメールはわたしのメールアドレスで届いていた。

 本当に杉山さんからのメールなのか、それとも単なる迷惑メールなのか、とりあえず内容を見ないと始まらないと思いながら、わたしはそのメールを見るためにクリックをすると、さっきまで真っ白だった内容のところにたくさんの字が並んでいた。

 

 『どうも、お久しぶり、プリズナーズの杉山です。

  突然のメールできっとビックリしてると思うけど、元気にしてるかな?

 

  この前、久々に公式のホームページの掲示板を見て、その中であやちゃんのカキコミを見つ  けたんだ。

  メールしようかどうしようと思ったけど、東京で会ったときが楽しかったから。

  そして、またあやちゃんと話がしたいから送ってみました。

  

  あやちゃんさえよかったら俺とメールでも話さないか?



  ちなみに俺は今、生放送のリハーサルが終わって楽屋で休憩中にこのメールを書いてる。

  でも、もしこのメールが信じられなかったら今日の生放送中にある目印をつけるからね?

  ここではあえて書かないけど、でも見ればすぐにわかるからね。

  だから返事は、その番組を見てからでいいから。



  それじゃ!

  

  杉山 辰弥』



 わたしは、ドキドキしながら1行ずつメールを読んでいた。

 確かに以前から公式のホームページの掲示板にカキコミをしていた。

 でも、東京で会ってからはちょっとカキコミを控えていた。

 それなのに、杉山さんはわたしの書いたカキコミを見つけた。

 何よりも杉山さんが東京でわたしに会ったときのことを忘れてなくて、しかも杉山さんのほうからメールを送ってくれた。

 とにかくわたしは、うれしくてうれしくてしょうがない気持ちでいっぱいだった。

 本当は今すぐにでも返事を送りたかったけど、とにかくここはグッと我慢していた。

「それにしても 杉山さん 目印 って?・・・あ~っ もうすぐ はじまっちゃうよぉ」

 わたしはパソコンも切らずに慌てて自分の部屋を出て、這って隣のリビングにある大画面のテレビに直行した。

 すると、案の定テレビは野球中継の真っ最中で父が真剣な目で見ていた。

 わたしは、そんなことをお構いなしでテーブルの上にあるリモコンでチャンネルを変えた。

「あっ こら! なにをするんだ? せっかくいいとこだったのに」

「いいじゃない どうせ スポーツ番組で やるんだし」

 父には悪いと思いながらも、どうしても杉山さんの目印を大画面で見つけたい一心だった。

 しばらくするといよいよ生放送が始まり、司会者から出演者の名前が呼ばれて順番に登場してきた。

 そして待ちに待ったプリゾナーズが登場すると、わたしは前に出てその場面を見ていた。

「なに これを見たさにあわてて来たの?」

 後ろから半分呆れた様子で母が話してきたが、わたしはテレビを見ながら「うん」と一言だけ答えた。

「おい 何なんだ?」

「プリズナーズ 5人で歌ってる あやのがいつもライブとか行ってるでしょ それにこの前優希ちゃんと東京行ったときにその中の2人と会ったんだって」

「へぇ」

 父と母の話なども気にもせずに、わたしはテレビに集中していた。

 テレビに映っているプリズナーズの5人は、やっぱりそれぞれにカッコよかった。

 そして杉山さんと武本さんも、東京で会ったときのラフな感じとは違って衣装がキマっている誰もがよく見る姿だった。

(しかしまぁ こうやって見ると 仕事とプライベートで まったくガラッとイメージが変わるんだねぇ)

 そんなことを考えると、なんだか少し得をした気分になった。

 だけど肝心の杉山さんが言う目印がわからないまま、やがて彼らの歌う番がやってきていた。

 そして、彼らのきれいな歌声がテレビから流れていた。

 わたしはその歌を聴きながら、テレビ場面から目を離さなかった。

 いろんなカメラワークでメンバーが映りだす中、場面は杉山さんに切り替わり、ゆっくりアップになっていく。

 いつもなら、杉山さんが映っただけで家族に迷惑をかけるくらいに大喜びをしてしまうとこだけど、さすがに今日はそうはいかなかった。

 すると杉山さんに何か小さく光っていたことに気がついた。

「あれ? なんか 今 光った?」

 わたしは少し気持ちを落ち着いてから、もう1度場面を見たときにそれが何であるかわかった。

 杉山さんの首元で、男の人がするには少し細くて短いネックレスからぶら下げている小さい石がライトのあたり具合でピカッピカッと何度も光っていた。

 そんな杉山さんのネックレスにわたしは、驚きで思わず大声が出そうになった。

「ま まさか あ あのときの・・・?」

「ん? 何か言った?」

「ぁ ぅ ううん 何でもない」

 母にはなんとか冷静を装い答えたけど、心の中ではパニック寸前だと思う。

 だって、あのネックレスこそ東京で杉山さんの友達のヒロさんのお店で、わたしが欲しそうに見ていたネックレスだった。

 杉山さんはわたしが見ていたことに気づいていてくれて、別れてからもそのことを覚えていてくれて、それをわたしにあのメールを自分からだと信じてほしいからネックレスを目印としてつけていた。

 わたしは、うれしさと感動で涙が出そうでどうしようもなかった。

 そして歌が終わってからすぐに、わたしはまた急いでリビングから自分の部屋に戻りパソコンの前に座り、左手でゆっくり1字ずつキーボードを打っていった。



 『杉山さん お久しぶりです。

  メールありがとうございます。

  わたしは相変わらず元気ですよ!

  

  あとさっき番組見ましたし、ちゃんと目印もわかりましたよ。

  東京のときに、ヒロさんのお店でわたしが見つけたネックレスですね?



  それにしても杉山さんは、わたしのことをちゃんと覚えててくれたんですね。

  なんか少しテレるけど、ものすごくうれしいです。

  

  わたしも、これからも杉山さんといろんな話がしたいです。

  だから、よろしくお願いします!



  あやの』



 本当は、まだまだ書きたいことはいっぱいあったけど、その気持ちを抑えて書いたメールを杉山さんへと送信した。



 このメールがきっかけで、わたしと杉山さんはメル友になった。



 杉山さんは、ほとんど毎日のように仕事が終わってからや、休憩中などにメールしてくれていた。

 杉山さんからの内容は自分のことや、ほかのメンバーの愚痴だったりいろいろで時々は、まだ誰も知らない情報などを教えてくれたりして、それはちょっとラッキーだった。

 そして、わたしも自分のこととか、いろんなことをメールで話していた。

いつの間にかわたしは、杉山さんからメールが来るのを楽しみになっていた。

 たとえメールとはいえ杉山さんと個人的に話せることが、何よりわたしにとっては幸せな気分だった。

 できれば、このまま杉山さんとメル友として仲良くできればそれでもいいと思った。

 でもメールを交換しているうちに、わたしは東京で会ったとき以上に杉山さんのことを好きになっていた。

(杉山さんは わたしのことどう思ってるんだろう・・・?)

 しかし相手はやっぱり誰もが知っている有名人、もし売れていないときに出会っていたら、それか普通の人として出会っていたら、まだ多少はチャンスがあったのかもしれない。



 それでも、わたしは杉山さんに対して「好き」という気持ちが大きくなっていた。

 そして、いつかこの想いを杉山さんに伝えようと心に決めた。



 もちろん、わたしはこんなビックチャンスがこんなに早くにやってくるとは全く思ってなかった・・・。

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