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紫陽花色の出逢い
〈4〉
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広場では娑羅樹の白い花が見頃を迎えていた。
そのほかにも、ハナミズキが木陰を作っている。
「うわぁ。これは葉っぱが混み過ぎてる。切り戻しや間引きしなくちゃ。こっちは泥がひどいなぁ」
誰もいない広場で、花壇やプランターを見て回りながら茉白は呟いた。
強い雨が降った後は植物の下葉に泥が飛ぶ。泥は葉の気孔を塞いで窒息させてしまったり病気の元となるのだ。
「やっぱりマルチングしてないやつは泥跳ねが目立つなぁ」
『マルチング』とは、土の乾燥や雑草の蒸れや雨による泥の跳ね返りを防いだり、暑さ寒さから根を守るために植物を植えた地表面や根元周辺をウッドチップやバーク(樹皮)などで覆うことを言う。
茉白は早速、持参したバークを補充したり、株の内部にも風がよく通るように切り戻しの作業をはじめた。
「これから咲く夏の花も用意したいなァ」
「例えばどんな?」
背後から突然響いた声に、一瞬驚いた茉白だったが、
「………なんだ、梗くん。びっくりさせないでよ~」
振り向くとそこには、慣れ親しんだ声と顔。
幼馴染みの山浦 梗が茉白を見下ろしていた。
「名前呼んだぞ、ニ回も」
「えぇ、ほんと?全然聞こえなかったよ」
「マジかよ、まったく。相変わらず花ばっかだな、おまえの頭ん中」
「なによぅ。いーでしょ、べつに。それだけ仕事に集中していたってことなんだから」
「休みだろ、今日は」
「お店はね。でも広場の花の様子、そろそろ見ておきたかったし。梗くんこそどうしたの?こんな時間に」
「俺は店で足りない食材の調達に八百屋まで行くところ」
梗の家は商店街の中でも老舗の洋食屋だ。
店は梗の兄が後を継いでいたが、次男の梗も料理の道に進みたいという希望があり、調理の専門学校を卒業してからは実家の洋食屋で働いている。
いつかは独立して自分の店を開くという目標をもちながら頑張っている姿に、茉白は元気をもらっていた。
梗とは小・中と同じクラスで。高校も一緒だったが、クラスは別になった。
けれど松太郎と梗の祖父が親友だったこともあり、疎遠になることはなかった。
「あ、今日休みなら午後店に来いよ。俺が考案した新作のデザート食わせてやる。おふくろもたまには会いたがってるしな、茉白に」
「あ……ごめん。今日の午後はちょっと……」
「なんだよどこか出かけんのか?」
「そうじゃないけど」
「じゃあ来いよ、何時でもいいからさ。どうせいつも自宅の花の手入れで終わるだろ、休みの日は」
「どうせいつもとはなによ。そんなことないもん。私だって休みの日にはいろいろと……」
「いろいろとなんだ?」
「いろいろ………っていうか、今日の午後は家でのんびりしたいし。とにかく、今日はもう予定があるの。あ、じゃあさ。この土日どちらか久しぶりにお休み取るから祐奈を誘って食べに行くよ。祐奈、梗くんのお店のオムライスの大ファンだし。ね、それならいいでしょ?」
「それならって……おまえさ、」
「なによ」
「………なんでもねー。あと俺の店じゃないからな、あそこは兄貴の店。それに俺はデザートの試食を……まあ、いいか。わかったよ、連れてくりゃいいじゃん、岡崎のやつも」
梗はまだ何か言いたげだったが、諦めたような顔でため息をついた。
「じゃ、土日どちらか決まったら連絡しろよ」
「うん。わかった」
こう言って、再び花の手入れに取り掛かる茉白に梗はまた声をかけた。
「曇ってても暑いからな。作業はほどほどにしろよ。まったく、帽子くらいかぶれよ……」
───つん、───と。
梗は手を伸ばし、茉白の頭に軽く触れた。
「はいはい。午前中で終わらせるから大丈夫だってば」
返事をしながら振り返ると、梗は通りに止めてあった自転車に跨るところだった。
「じゃあな」
「うん。またね」
小さく手を振る茉白に微笑して、梗は広場から離れていった。
そのほかにも、ハナミズキが木陰を作っている。
「うわぁ。これは葉っぱが混み過ぎてる。切り戻しや間引きしなくちゃ。こっちは泥がひどいなぁ」
誰もいない広場で、花壇やプランターを見て回りながら茉白は呟いた。
強い雨が降った後は植物の下葉に泥が飛ぶ。泥は葉の気孔を塞いで窒息させてしまったり病気の元となるのだ。
「やっぱりマルチングしてないやつは泥跳ねが目立つなぁ」
『マルチング』とは、土の乾燥や雑草の蒸れや雨による泥の跳ね返りを防いだり、暑さ寒さから根を守るために植物を植えた地表面や根元周辺をウッドチップやバーク(樹皮)などで覆うことを言う。
茉白は早速、持参したバークを補充したり、株の内部にも風がよく通るように切り戻しの作業をはじめた。
「これから咲く夏の花も用意したいなァ」
「例えばどんな?」
背後から突然響いた声に、一瞬驚いた茉白だったが、
「………なんだ、梗くん。びっくりさせないでよ~」
振り向くとそこには、慣れ親しんだ声と顔。
幼馴染みの山浦 梗が茉白を見下ろしていた。
「名前呼んだぞ、ニ回も」
「えぇ、ほんと?全然聞こえなかったよ」
「マジかよ、まったく。相変わらず花ばっかだな、おまえの頭ん中」
「なによぅ。いーでしょ、べつに。それだけ仕事に集中していたってことなんだから」
「休みだろ、今日は」
「お店はね。でも広場の花の様子、そろそろ見ておきたかったし。梗くんこそどうしたの?こんな時間に」
「俺は店で足りない食材の調達に八百屋まで行くところ」
梗の家は商店街の中でも老舗の洋食屋だ。
店は梗の兄が後を継いでいたが、次男の梗も料理の道に進みたいという希望があり、調理の専門学校を卒業してからは実家の洋食屋で働いている。
いつかは独立して自分の店を開くという目標をもちながら頑張っている姿に、茉白は元気をもらっていた。
梗とは小・中と同じクラスで。高校も一緒だったが、クラスは別になった。
けれど松太郎と梗の祖父が親友だったこともあり、疎遠になることはなかった。
「あ、今日休みなら午後店に来いよ。俺が考案した新作のデザート食わせてやる。おふくろもたまには会いたがってるしな、茉白に」
「あ……ごめん。今日の午後はちょっと……」
「なんだよどこか出かけんのか?」
「そうじゃないけど」
「じゃあ来いよ、何時でもいいからさ。どうせいつも自宅の花の手入れで終わるだろ、休みの日は」
「どうせいつもとはなによ。そんなことないもん。私だって休みの日にはいろいろと……」
「いろいろとなんだ?」
「いろいろ………っていうか、今日の午後は家でのんびりしたいし。とにかく、今日はもう予定があるの。あ、じゃあさ。この土日どちらか久しぶりにお休み取るから祐奈を誘って食べに行くよ。祐奈、梗くんのお店のオムライスの大ファンだし。ね、それならいいでしょ?」
「それならって……おまえさ、」
「なによ」
「………なんでもねー。あと俺の店じゃないからな、あそこは兄貴の店。それに俺はデザートの試食を……まあ、いいか。わかったよ、連れてくりゃいいじゃん、岡崎のやつも」
梗はまだ何か言いたげだったが、諦めたような顔でため息をついた。
「じゃ、土日どちらか決まったら連絡しろよ」
「うん。わかった」
こう言って、再び花の手入れに取り掛かる茉白に梗はまた声をかけた。
「曇ってても暑いからな。作業はほどほどにしろよ。まったく、帽子くらいかぶれよ……」
───つん、───と。
梗は手を伸ばし、茉白の頭に軽く触れた。
「はいはい。午前中で終わらせるから大丈夫だってば」
返事をしながら振り返ると、梗は通りに止めてあった自転車に跨るところだった。
「じゃあな」
「うん。またね」
小さく手を振る茉白に微笑して、梗は広場から離れていった。
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