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紫陽花色の出逢い
〈5〉
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作業を終え家に戻った茉白は、祖母の鈴子に土日の都合を聞いた。
鈴子から「どちらでもいいわよ」という返事をもらうと、茉白は祐奈の予定を聞くため、お昼休みにLINEを入れた。
「わ、早っ」
送ってすぐに返事がきた。
祐奈の希望は土曜日だった。
昼間は表通りでショッピングがしたいと書いてあり、夕飯は梗の兄のお店でという通知に、茉白はOKの返事をして梗にも伝えた。
◇◇◇
昼過ぎ。
鈴子も出かけ、さて何をしようと考える。
家でのんびりなどと梗には言ったが、やはり花の手入れに気持ちが向いてしまう。
「だってさ、放っておけばジャングルになり兼ねないもん。それに植物だって生き物だもの、こまめに手入れしてあげないと綺麗に咲いてくれないしね」
心の声をそのまま自身に言い聞かせるように呟いて、茉白はベランダへ出た。
茉白の家は庭がない代わりにベランダが小さな庭のようになっている。
二階のベランダは松太郎や鈴子が手入れをしているが、三階のベランダは茉白が自由に使っていた。
寄せ植えや鉢物、アンティーク調の園芸用品や可愛い雑貨を置いたり、蔓性植物を植えたハンギングを下げたり。
手入れは大変だが、心を込めて世話をしてあげればよく育ち、綺麗な花も咲かせてくれる。
それがとても嬉しくて楽しい。
そして見て楽しむ他にも、キッチン用として育てている〈ルッコラ〉や〈ラディッシュ〉。ハーブ類やミニトマトなどは食べて楽しむこともできる。
去年の売れ残りだが、大切に冬越しさせた〈ペンタス〉も順調に育っていて嬉しくなる。
来月には花を咲かせてくれそうだ。
ペンタスは花つきがよく暑さや湿気に強いので、花壇や寄せ植えの素材として好まれている夏の花だ。
小さな星型の花を頂部にかたまって咲かせる姿が可愛いので、夏は売れ筋商品でもある。
花色は白やピンク、赤に紫と豊富だ。
───この鉢はたしかピンク色。
紫色も欲しいなぁ。
花言葉はいくつかあったけど……。
全般では『願い事』。
それから……。
「希望が叶う…………」
茉白が呟いた瞬間、来客を告げるインターホンの音が部屋に響いた。
海堂家の玄関は店の左側路地から入ったところに扉がある。
表札以外に『花時計』の営業時間と定休日。そして『御用の方はこちらから』という札がインターホンの横に掛かっていた。
茉白は慌ててベランダから室内に戻り、玄関の子機から繋がっている機器で返事をした。
「はい、どちら様でしょうか」
二階の親機にモニターはあるが、茉白の部屋の機器は音声だけなので、顔を見ることはできない。
「あ、すみません。先日借りました傘を返しに来たのですが」
「は、はい!お待ちくださいっ、今降りますから!」
来てくれた!
アジサイ色のあの人。………でも一瞬、あのときと声の印象が少し違うような気がしたけれど。
一度しか聞いてない声に確たる自信はない。
モニターで顔を確認するべき?
迷うがとにかく。
(落ち着け、心臓!)
何度も心に言い聞かせ、茉白はホームエレベーターで一階に降りる。
昔は階段があったが、高齢になった祖父母のこともあり、リフォームも兼ねて取り付けたホームエレベーターは三階からあっという間に玄関へ降りた。
ガチャン。───茉白は扉を開けた。
「あ、どうも………」
(あれ!?)
違う………あの人じゃない。
けれど手に持っている傘は紺色で。
確かに店の置き傘なのに。
目の前に立つその人は、全くの別人だった。
鈴子から「どちらでもいいわよ」という返事をもらうと、茉白は祐奈の予定を聞くため、お昼休みにLINEを入れた。
「わ、早っ」
送ってすぐに返事がきた。
祐奈の希望は土曜日だった。
昼間は表通りでショッピングがしたいと書いてあり、夕飯は梗の兄のお店でという通知に、茉白はOKの返事をして梗にも伝えた。
◇◇◇
昼過ぎ。
鈴子も出かけ、さて何をしようと考える。
家でのんびりなどと梗には言ったが、やはり花の手入れに気持ちが向いてしまう。
「だってさ、放っておけばジャングルになり兼ねないもん。それに植物だって生き物だもの、こまめに手入れしてあげないと綺麗に咲いてくれないしね」
心の声をそのまま自身に言い聞かせるように呟いて、茉白はベランダへ出た。
茉白の家は庭がない代わりにベランダが小さな庭のようになっている。
二階のベランダは松太郎や鈴子が手入れをしているが、三階のベランダは茉白が自由に使っていた。
寄せ植えや鉢物、アンティーク調の園芸用品や可愛い雑貨を置いたり、蔓性植物を植えたハンギングを下げたり。
手入れは大変だが、心を込めて世話をしてあげればよく育ち、綺麗な花も咲かせてくれる。
それがとても嬉しくて楽しい。
そして見て楽しむ他にも、キッチン用として育てている〈ルッコラ〉や〈ラディッシュ〉。ハーブ類やミニトマトなどは食べて楽しむこともできる。
去年の売れ残りだが、大切に冬越しさせた〈ペンタス〉も順調に育っていて嬉しくなる。
来月には花を咲かせてくれそうだ。
ペンタスは花つきがよく暑さや湿気に強いので、花壇や寄せ植えの素材として好まれている夏の花だ。
小さな星型の花を頂部にかたまって咲かせる姿が可愛いので、夏は売れ筋商品でもある。
花色は白やピンク、赤に紫と豊富だ。
───この鉢はたしかピンク色。
紫色も欲しいなぁ。
花言葉はいくつかあったけど……。
全般では『願い事』。
それから……。
「希望が叶う…………」
茉白が呟いた瞬間、来客を告げるインターホンの音が部屋に響いた。
海堂家の玄関は店の左側路地から入ったところに扉がある。
表札以外に『花時計』の営業時間と定休日。そして『御用の方はこちらから』という札がインターホンの横に掛かっていた。
茉白は慌ててベランダから室内に戻り、玄関の子機から繋がっている機器で返事をした。
「はい、どちら様でしょうか」
二階の親機にモニターはあるが、茉白の部屋の機器は音声だけなので、顔を見ることはできない。
「あ、すみません。先日借りました傘を返しに来たのですが」
「は、はい!お待ちくださいっ、今降りますから!」
来てくれた!
アジサイ色のあの人。………でも一瞬、あのときと声の印象が少し違うような気がしたけれど。
一度しか聞いてない声に確たる自信はない。
モニターで顔を確認するべき?
迷うがとにかく。
(落ち着け、心臓!)
何度も心に言い聞かせ、茉白はホームエレベーターで一階に降りる。
昔は階段があったが、高齢になった祖父母のこともあり、リフォームも兼ねて取り付けたホームエレベーターは三階からあっという間に玄関へ降りた。
ガチャン。───茉白は扉を開けた。
「あ、どうも………」
(あれ!?)
違う………あの人じゃない。
けれど手に持っている傘は紺色で。
確かに店の置き傘なのに。
目の前に立つその人は、全くの別人だった。
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