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七夕祭り
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七夕祭り初日。
土曜日ということもあり、商店街は昼前から賑やかだった。
夜の19時には竹灯篭の点灯カウントダウンを広場で行うことになっている。
天気が心配だったが、広場には急な雨や強い陽射し対策も兼ねて、大型のイベント用テントをレンタルすることができた。
商店街の一軒一軒が竹灯篭を店先に置く。
そこに明かりが灯されたとき、どんな景色が広がるのか、茉白はとても待ち遠しかった。
夜に一度、配達の仕事があるので、カウントダウンが終わってからまた店に戻らないとならないが、今夜は祐奈が泊まりに来ることになっている。
先週行った浴衣参加での合コンは、残念な結果で終わったらしい。
七夕の短冊に願い事を書き、花言葉にあやかってペンタスを買って育てるからと裕奈からLINEがきた。
花言葉を書いた可愛いカード付きのペンタスは売れ行きも上々だ。
「へぇ、なんだか去年よりも賑やかじゃない?」
カウントダウンまであと数分。
広場に集まった人の多さに祐奈は驚いていた。
「竹灯り効果かもな」
仕事の合間を縫って広場へ来ていた梗も合流し、茉白に声をかけた。
「茉白の提案が良かったおかげだな」
梗の言葉に頷きながら、祐奈は携帯を取り出して言った。
「私も今夜は空彩商店街に貢献するね」
「え、どういう意味?」
不思議そうに聞き返す茉白に、祐奈は微笑した。
「インスタに写真をあげて、商店街の七夕祭りを宣伝できたらなぁって思って。七夕飾りも綺麗だし、竹灯篭の画像も素敵だと思うし。最近はインスタ映えするフォトスポットをわざわざ探して、撮りに来る人もいるんだよ」
「ああ、そういや食いもんの写真とか載せてる女子とか多いよな。んじゃついでにうちのオムライスも頼むわ」
「えー。じゃあさ、晩御飯まだだから、おすすめパスタと、このまえ美味しかった『季節のフルーツシャーベット』のデザートも付けてくれたら考えてあげてもいいよぉ。もちろんただでね」
「は?………只食いするつもりかよ」
「だってあれはまだ試作品なんでしょう?メニューに出していいってお兄さんからお許しでてないんでしょ?」
祐奈の言葉に梗は大きくため息をつき、答えた。
「……わかったよ、食えばいいだろ。どうせ俺はまだ半人前だよ」
「わーい、ヤッタァ!任せて、女子受けする写真たくさん撮ってあげる。でもオムライスだけじゃつまんないから、何か他のメニューも用意しておいてよね」
「おい!? どんだけ食う気だよ。……まったく!茉白も食うの手伝いに来いよな」
「───え、何?」
「なにって。聞いてなかったのかよ。なんだよ、さっきから誰か探してんのか?」
どこか不自然に視線を巡らす茉白の顔を覗き込みながら梗が訊いた。
「……ぇ、べつにそういうわけじゃ……。うん、話はだいたい聞いてたよ。でも今夜はまだ配達があるし、明日の準備もあるから私は行けないの、ごめんね。祐奈にたくさん食べさせてあげて」
「なんだよ、そうなのか。夜に配達なんて珍しいな」
「バースデー用の花束なの。ほら、路地裏の割烹店。女将さんとうちのおばあちゃん親友だから。そのお店にね、今夜予約してある常連さんが誕生日で、プレゼントにサプライズしたいからって女将さんに頼まれたの」
「ふーん」
「わぁ、いいなぁ。そういうの素敵だね。あ、そういえば、茉白の店で売り出してるペンタスの花も『恋の願いが叶うかも』なんてメッセージと一緒にインスタにアップしたらいい宣伝になるわよ、きっと。うん、さっそく明日やろう」
「へぇ……。なんか凄いね、祐奈。スマホでそういうことできるんだ」
「こんなの最近じゃあたりまえよ。茉白が遅れてるのよ。──あ、ほら!始まるよ、カウントダウン」
広場の照明が一斉に消えて、辺りが暗くなった。
「9、8、7、6、5、4、3、2、1……‼」
竹に灯りが点いた瞬間、広場に歓声が上がった。
広場の中央をメインに、円を描くような配置になっている大小様々な大きさの竹灯篭。
柔らかな灯りが暗闇の中に浮かぶ様子は美しく、人々を魅了していた。
───優しい灯りだね。
───とっても綺麗だね。
そんな感想が周りからたくさん聴こえてくる。
「灯りだけでこんなにロマンチックな場所に変わっちゃうなんて。なんだか凄いね。昼間の地味な広場の印象とは全然違うもん」
「地味でもないだろ」
興奮気味の祐奈に梗が言った。
「花壇の花とかさ、この広場の花を楽しみにしてる奴も多いんだぞ」
「え、ほんと?」
「ああ」
「ふーん。ねぇ茉白、これ毎年やったら評判になるよきっと」
祐奈がスマホで写真を撮りなが言った。
「そうだね。できるといいんだけど……」
「駐車場なんて俺は絶対反対だ」
「え、駐車場って?何のことよ」
事情を知らない祐奈に、梗が説明を始めた。
「───それじゃあ私、そろそろ行くね。梗くん、祐奈をお願いね。配達終わったらまたLINEするから」
「おう」
「行ってらっしゃい、茉白。また後でね」
「うん。行ってきます」
「配達、気をつけろよ。路地裏は酔っ払いも多いからな」
「あら、梗ってば。なんだか過保護ねぇ。小学生じゃあるまいし」
「るせーな!」
じゃれ合うような言い合いを始めた祐奈と梗の様子に微笑んでから、茉白は広場を後にした。
土曜日ということもあり、商店街は昼前から賑やかだった。
夜の19時には竹灯篭の点灯カウントダウンを広場で行うことになっている。
天気が心配だったが、広場には急な雨や強い陽射し対策も兼ねて、大型のイベント用テントをレンタルすることができた。
商店街の一軒一軒が竹灯篭を店先に置く。
そこに明かりが灯されたとき、どんな景色が広がるのか、茉白はとても待ち遠しかった。
夜に一度、配達の仕事があるので、カウントダウンが終わってからまた店に戻らないとならないが、今夜は祐奈が泊まりに来ることになっている。
先週行った浴衣参加での合コンは、残念な結果で終わったらしい。
七夕の短冊に願い事を書き、花言葉にあやかってペンタスを買って育てるからと裕奈からLINEがきた。
花言葉を書いた可愛いカード付きのペンタスは売れ行きも上々だ。
「へぇ、なんだか去年よりも賑やかじゃない?」
カウントダウンまであと数分。
広場に集まった人の多さに祐奈は驚いていた。
「竹灯り効果かもな」
仕事の合間を縫って広場へ来ていた梗も合流し、茉白に声をかけた。
「茉白の提案が良かったおかげだな」
梗の言葉に頷きながら、祐奈は携帯を取り出して言った。
「私も今夜は空彩商店街に貢献するね」
「え、どういう意味?」
不思議そうに聞き返す茉白に、祐奈は微笑した。
「インスタに写真をあげて、商店街の七夕祭りを宣伝できたらなぁって思って。七夕飾りも綺麗だし、竹灯篭の画像も素敵だと思うし。最近はインスタ映えするフォトスポットをわざわざ探して、撮りに来る人もいるんだよ」
「ああ、そういや食いもんの写真とか載せてる女子とか多いよな。んじゃついでにうちのオムライスも頼むわ」
「えー。じゃあさ、晩御飯まだだから、おすすめパスタと、このまえ美味しかった『季節のフルーツシャーベット』のデザートも付けてくれたら考えてあげてもいいよぉ。もちろんただでね」
「は?………只食いするつもりかよ」
「だってあれはまだ試作品なんでしょう?メニューに出していいってお兄さんからお許しでてないんでしょ?」
祐奈の言葉に梗は大きくため息をつき、答えた。
「……わかったよ、食えばいいだろ。どうせ俺はまだ半人前だよ」
「わーい、ヤッタァ!任せて、女子受けする写真たくさん撮ってあげる。でもオムライスだけじゃつまんないから、何か他のメニューも用意しておいてよね」
「おい!? どんだけ食う気だよ。……まったく!茉白も食うの手伝いに来いよな」
「───え、何?」
「なにって。聞いてなかったのかよ。なんだよ、さっきから誰か探してんのか?」
どこか不自然に視線を巡らす茉白の顔を覗き込みながら梗が訊いた。
「……ぇ、べつにそういうわけじゃ……。うん、話はだいたい聞いてたよ。でも今夜はまだ配達があるし、明日の準備もあるから私は行けないの、ごめんね。祐奈にたくさん食べさせてあげて」
「なんだよ、そうなのか。夜に配達なんて珍しいな」
「バースデー用の花束なの。ほら、路地裏の割烹店。女将さんとうちのおばあちゃん親友だから。そのお店にね、今夜予約してある常連さんが誕生日で、プレゼントにサプライズしたいからって女将さんに頼まれたの」
「ふーん」
「わぁ、いいなぁ。そういうの素敵だね。あ、そういえば、茉白の店で売り出してるペンタスの花も『恋の願いが叶うかも』なんてメッセージと一緒にインスタにアップしたらいい宣伝になるわよ、きっと。うん、さっそく明日やろう」
「へぇ……。なんか凄いね、祐奈。スマホでそういうことできるんだ」
「こんなの最近じゃあたりまえよ。茉白が遅れてるのよ。──あ、ほら!始まるよ、カウントダウン」
広場の照明が一斉に消えて、辺りが暗くなった。
「9、8、7、6、5、4、3、2、1……‼」
竹に灯りが点いた瞬間、広場に歓声が上がった。
広場の中央をメインに、円を描くような配置になっている大小様々な大きさの竹灯篭。
柔らかな灯りが暗闇の中に浮かぶ様子は美しく、人々を魅了していた。
───優しい灯りだね。
───とっても綺麗だね。
そんな感想が周りからたくさん聴こえてくる。
「灯りだけでこんなにロマンチックな場所に変わっちゃうなんて。なんだか凄いね。昼間の地味な広場の印象とは全然違うもん」
「地味でもないだろ」
興奮気味の祐奈に梗が言った。
「花壇の花とかさ、この広場の花を楽しみにしてる奴も多いんだぞ」
「え、ほんと?」
「ああ」
「ふーん。ねぇ茉白、これ毎年やったら評判になるよきっと」
祐奈がスマホで写真を撮りなが言った。
「そうだね。できるといいんだけど……」
「駐車場なんて俺は絶対反対だ」
「え、駐車場って?何のことよ」
事情を知らない祐奈に、梗が説明を始めた。
「───それじゃあ私、そろそろ行くね。梗くん、祐奈をお願いね。配達終わったらまたLINEするから」
「おう」
「行ってらっしゃい、茉白。また後でね」
「うん。行ってきます」
「配達、気をつけろよ。路地裏は酔っ払いも多いからな」
「あら、梗ってば。なんだか過保護ねぇ。小学生じゃあるまいし」
「るせーな!」
じゃれ合うような言い合いを始めた祐奈と梗の様子に微笑んでから、茉白は広場を後にした。
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