ペルンス

シリウス

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ルビン誕生

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 人々は夜になると星空を見上げる。それは単に美しいだけでなくこの宇宙のどこかに自分たちと同じような存在がいること期待しているからだと思う。
 自分たちと同じように星を眺めている人たちがいるかもしれないと…





第一話 ルビン誕生


「ふう」
 夜の冷たい空気の中でタバコをふかしている大男がいた。よく鍛えられた逞しい筋肉を持ち、身長は悠に2mは超えているだろう。黒いサングラスをかけており、ガチガチに固めた白髪の長髪が夜の闇に浮かんでいる。彼は巨大な宮殿のバルコニーに肘をついて休息している様子である。視線の先には強い光を放つ大規模なビル街があった。
「俺が王になって2年、決して楽なことばかりではなかったな」
そういうと男は空を見上げた。快晴の夜で、街明かりにかき消されながらも多くの星を見ることができた。男は疲れた時は、こうしてバルコニーに出てはタバコをふかしながら星を眺めることが多かった。
「ジェノさんー!やっと見つけたわ」
大きめのドレスをまとった若い女性がひとりバルコニーにやってくると、ゆっくりとした足取りで男のもとに向かった。女性は大きなおなかをしていた。子供を授かっているようである。
「会議が終わるとさっといなくなっちゃうんだもん。でもやっぱりここにいましたか」
「レガス…」
そういうと男は女性の名前を呼び左腕で抱き寄せた。すると風に乗ってなびいた髪が男の筋肉に覆われた腕に絡みついた。一見黒く見える髪は、少し青みがかっているようである。レガスも決して小柄な女性ではなかったが、男と一緒にいるとまるで子供のように見えてしまう。
男の名前はジェノ。ジェノ・クライアル。地球から遠く離れた惑星セイピにあるペルンス王国の国王である。ジェノは2年前に国王に就任し、就任と同時に許嫁であったレガスと結婚した。ジェノが今いる場所はペルンスのシャルクスト市にあるトルン城。シャルクストはペルンス第一の都市で、政治と経済の中心地である。トルン城は沿岸に広がるビル街から少し内陸にある丘の上にたつ城でとてつもない大きさを誇る。200メートル級のビルが立ち並ぶ景色と丘の上の城はそれだけで美しい景観となり、国内外から多くの観光客が訪れる街でもある。
「おなかの中の赤ちゃんは元気かい。もうそろそろだよな」
「もう元気元気!何度も私のおなかを蹴るんだもの。きっとやんちゃな子になるわ。」
レガスはうつむきかけていた顔をあげると笑顔で話した。
「なんたってジェノさんの血が入っているんだもの。男の子だろうが、女の子だろうがあんまりやんちゃさせないようにしないとね。しっかり勉強させて教養を身につけて王様の子供として恥ずかしくないように育てないと!」
 レガスははきはきとした口調で笑顔のまま話した。よっぽど生まれてくる赤ちゃんのことが楽しみなのだろう。それに対して、ジェノはレガスの言葉を聞くと不自然に空を見上げてしまった。きっと過去にあまり思い出したくない思い出でもあるのだろう。
「ところで名前は決めてくれたかしら?。決めておいてって頼んだでしょ」
「名前か…さてどうしようか。」
「えー!もしかして考えてくれてないの!?」
レガスはジェノの腕を振り払うと、ジェノの方を向いて目を丸くしてジェノに尋ねた。
「ちゃんと考えてあるよ。『ルビン』なんてどうだろうか?」
「ルビン?」
ジェノは再びレガスを後ろから抱き締めると耳元に向かって答えた
「そう!男の子でも女の子でもルビン。ルビニス(希望、光という意味)からとってみた。俺が王になってからも裏の国との関係は修復していないだろ。二年前、俺が王になる前に父と母はメルガドゥーン(ペルンスの裏側の一国)に訪問した際に行方不明になってしまった。二年たった今も消息はつかめていない。それから半年後ペルンス第二都市のグラスジェンが裏の過激派に攻撃された」
 最初は耳元にささやいていたジェノであったが、両親の話になった頃あたりから声のトーンが上がりまっすぐ前を向いて話した。あたかもレガス以外にこの話を聞いている人がいるかのような口調だった。
 グラスジェンという言葉を聞いてレガスはごくりと生唾を飲み込んだ。それもそのはずである。グラスジェンとはレガスの故郷である。ペルンスとペルンスの真裏にあたる国々との間では昔から戦乱が絶えなかった。しかし、ここ100年ほどは、ペルンスに対する攻撃はなかった。それを自分の代になって許してしまったのが残念でならなかった。夏の始まりのとても清々しい晴れた日のことである。多くの犠牲者をだした。
「あれから一年半たった今も裏との関係は良くなったとは言えず、シャルクストも攻撃の対象になりかねない…。いまだかつてこんなことが無かっただけに今後はよりよい関係を築けるようにしなくてはいけない。生まれてくる子供には希望を持って生きてもらいらい。希望っていうのは、赤ちゃんに対してだけではない。俺たちにとってだってそうだ。ようやく巡り合えた子供なんだ。俺たちの希望に違いない」
「ルビン…いい名ね。」
うつむいていたレガスは真上を向いてジェノと目を合わせた。
その時だった。レガスはいきなり腰を抜かして地面にうずくまった。おなかを抱えながらレガスは言った
「陣痛が始まったみたい」
「本当か!」
 ジェノは一呼吸して落ち着くとレガスを抱えて医者のもとへレガスを運んだ。

 翌日の昼前に赤ちゃんはこの世に生まれた。真っ赤な髪の毛の元気な女の子だった。女の子はジェノの言うとおり「ルビン」と名付けられた。ルビンが生まれてからも裏の脅威は去っていなかったが、ジェノの懸命な努力もあってか何も起きずに済んだ。ルビンは自分が生まれる前にどんなことがあったかなど知る由もなくすくすく成長していった。
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