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シュリー
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第二話 シュリー
誕生から4年たち、ルビンは4歳になった。赤く美しい髪を腰まで伸ばし、笑顔が可愛い女の子に成長した。そして、レガスが考えていたようにやんちゃな子供に成長していた。ひとたび外に出るとひとりでいても駆け回ったり、何かに登ってみたりととても好奇心旺盛な活発な子だった。風邪もほとんどひかない丈夫な子であったが、外に出るたびに泥だらけになるまではしゃいで、かすり傷のような小さな怪我は日常茶飯事だった。レガスはルビンのそういうところが、気になり、困っていた。ルビンには王女らしくもっとおとなしくて、おしとやかな少女に育ってくれることを望んでいたからだ。
城の中にいる時は、美しいドレスを身に纏って、1日に何回も身嗜みをチェックしてもらっていた。レガスはルビンが王女として恥ずかしくないようにと様々な習い事を習わせた。先ずは貴族としての礼儀作法、テーブルマナーから始まって、言葉遣い、ダンス、音楽(ペルンスの伝統的な鍵盤楽器シュリー)、絵画、ペルンスの古典…毎日が習いごと漬け日々。ルビンにはそれが苦痛だった。朝起きてから夜眠るまで、毎日が決められたスケジュールで行動しなくてはならない。息苦しいドレスも嫌いだった。自分の部屋にいる時以外に、自分の自由の時間はない。ルビンはそう考えることが多くなった。ルビンの部屋はシャルクストのビル街が一望できる場所にあり部屋に戻ると外を眺めていることが多くなっていった。なにか気になる場所を見つけてみては、あの場所には何があるのだろうか、どんな人がいるのだろうか。そんなことを考えながら外を眺めていた。
「ルビン様!シュリーの稽古の時間ですよ。支度して部屋から出てきてください」
お世話係のひとりがシュリーのレッスンに行かせようとやってくる。最初のうちこそ素直に聞いていたが、次第になかなか出てこないようになっていった。
「また、行かないおつもりですか?それなら鍵を開けさせてもらいますからね」
ここのところ呼んでも返事すらしないので、鍵をあけて無理やりレッスンに連れていくことが多くなっていた。今日も鍵を開けて部屋に入っていった。ところがおかしなことに今日はルビンの姿が見当たらなかった。
「おかしいわね」
バスルームにもクローゼットにもいない。部屋自体もかなり大きいが隠れられそうな場所はそんなにないはずである。ベッドの下、棚の中、隠れられそうな場所は探してみたものの見つからなかった。最後に残ったのはバルコニーだけである
「ここにいるのね。もう隠れても無駄ですよ」
そういってバルコニーに続く扉を開けた。しかし、ここにもいない。果たしてルビンはいったいどこに行ってしまったのだろうか。そう思った時バルコニーの柵の端に人の手足が見えた。慌てて駆け寄るととんでもないことになっていた。ルビンはバルコニーの柵に必死にしがみついて隠れていた
「見つかっちゃったか」
「見つかっちゃったじゃありませんよ!落ちたらどうするおつもりですか」
お世話係はあわててルビンを抱き上げた。なにせ地面は何十メートルも下。手を滑らせたら命は保証できない。
嫌がって足をばたつかせるルビンは強制的にレッスンに連れて行かれた。お世話係はレッスンの時間に遅れたのは自分の不手際だったと説明して謝ると席を外した。ルビンは椅子に座って鍵盤に手を伸ばした。お世話係りが部屋から出ると部屋の中から音がなくなった。静かになるとルビンは辺りをキョロキョロする。その手は震えているようにも見えた。
「さて、この前の続きから弾いてみてください」
先生はそういうと楽譜の途中を指差した。唾を飲み込んで震える手で鍵盤をたたいた。緊張のためか不安定なリズムでなんとか曲をつなげているような感じだった。途中までは曲を奏でていたルビンだったが、あるところでパタッと曲が止まってしまう。先生はすぐさま間違いを指摘する。
「どうしてこんな簡単なところでリズムを間違えてしまうんですか。ここは、こうやって弾くんだってこの前言ったばかりじゃないですか」
先生はそういうとルビンが間違えた箇所を自分で弾いて見せた。するとルビンの表情は落ち着いたように見えた、手の震えも収まった。
「青、緑、黄色...森の香り...」
よくわからないことをブツブツ言いながら先生が弾いた所を軽やかに奏でる。先ほどのおぼつかない手つきとは違いスムーズに音が繋がっていく。
「そうそう。その感じです」
先生がそういうと先生がお手本で弾いていたところの先も何の迷いもなく弾いてみせた。何がどう変わったのかわからないがさっきとは別人が弾いているようだ。しかし、長く弾けば弾くほど先生の表情は沈んでいく。それもそのはずである。ルビンが弾いているのは楽譜とは全く関係ないフレーズだった。これはもはやルビンのイメージが作った曲になっていた。
「ルビン様!また全然違う曲をひいていますよ!!どうしてあなたはすぐ自分勝手にひくんですか?」
またやってしまった。ルビンは思った。
ルビンはシュリーを演奏すること自体は嫌いではなかった。むしろ好きだった。だから、自分の部屋ではよくシュリーを弾いていた。自分が思っているものが音になって聞こえるのが楽しかった。でも、ルビンは楽譜通りに演奏することは苦手っだった。まだ楽器に触って月日がたっていないこともあるが、楽譜を読むこと自体苦手だった。それと同時に自分の思ったように弾けないことが面白くなかった。
ルビンは耳が良かった。それは、先生も知っている。だから、楽譜が苦手なルビンに対して耳で曲を教えることもやってみた。するとルビンは何回か練習すると曲を覚えて先生のやっていることを再現してみせた。それには先生も驚いていた。しかし、すぐにアレンジして自分の曲にしてしまう。これではまずいと思い楽譜をみせて楽譜通りに演奏してみるようにいうと、緊張して固くなってしまう。こうなると先生もどうやって教えたらいいのかわからなくなってしまう。
ルビンは、自分が楽しいと思ったことはとことん集中できるが、決まりごとに従うのは苦手だった。ほかの習い事も同じ理由で嫌いになってしまった。ルビンは絵を描くのも好きだったが、見たものを見たとおりに描けなかった。色や形までもすぐに自分の思ったようにしてしまう。絵の先生は何度もそれを指摘したが、直らなかった。というより何がいけないのかわかっていなかった。注意されたからには、何かがいけなかったということは幼いルビンでもわかったが、今度はそればかり考えてしまって何も描けなくなってしまう。そして、シュリーと同様に少し気を抜くと元に戻ってしまった。この繰り返しだ。ただ、ダンスだけは本当にできなかった。動きがぎこちない上に、リズムに合わせて体を動かすことができない。おまけにダンスレッスンはひとりじゃなかった。いくら曲に合わせようとしてもまわりと同じことができない。ルビンは周りから取り残されている不安感をいだいた。
シュリーのレッスンが終わるとルビンは再びお世話係に連れられて、部屋に戻った。部屋に戻るとぼんやりと外を眺める。城の目の前の丘の斜面に広がる住宅地、住宅地とビルの間に広がる自然公園、そしてビル街。空には真っ白い雲が漂っていて、飛行機が飛んでいる。バルコニーではつがいと思われる鳥がさえずりながら追いかけっこをしていた。こういう時に外の世界を見ると、外の世界が束縛のない自由な世界に見えてくる。そんなことを感じながら部屋の中にあるシェリーに向かった。外の鳥が飛び立ったと同時にルビンは鍵盤を叩いた。
「まずはぐーんと空高く♪ お城の周りは家だらけ♪」
鼻歌まじりで楽しそうにシュリーを演奏し始めた。その姿はレッスンを受けていた姿とまるで違うものだった。曲は物語性があってあたかも自分が鳥になってシャルクストを眺めているようだった。空高く飛んだルビン鳥は急降下すると普通の家のキッチンを映した。でも一般家庭を見たことがないルビンはどこの家でもコックがいると思っており歌の中では広い厨房でコックが料理をしていた。その後もルビン鳥は曲の中であちこち飛び回った。公園で子供に追いかけられたり、おいしそうな果物をだべてみたり、ビルの中を覗いてみたりした。内容はあくまでもルビンの想像で、おかしなこともたくさんあったが、ルビンは確かに想像の中でいろいろなものを見ているようだった。しばらくしてルビンの手が止まり満足そうに笑った。
すると誰もいないはずの部屋から拍手が聞こえてきた。
「上手じゃないか。ルビン」
ルビンはびくっとなって後ろを見た。後ろには父の姿があった。一体いつからルビンの演奏を聞いていたのだろうか。
「昼食の時間になったから久しぶりにルビンと食べようかと思って来てみたんだ。いくら呼んでも返事がないから鍵を開けてはいらせてもらったよ。そしたら聞いたことのない曲が聞こえてきてびっくりしたよ。そういえばルビンがシュリーを弾いているの初めて聞いたかもしれない。今の曲は今習っている曲か?もう一度弾いて見せてくれ」
「お父さん!もう今の演奏はできないの。だって弾いているうちに考えた曲なんだもん。私ね、シュリーを弾きながらシャルクストを探検してたんだ。本当だよ!」
そういうとルビンは満面の笑みを浮かべてジェノの胸に飛びついた。ジェノはルビンを抱きかかえると立ち上がった。するとルビンの視野はたちまち高くなる。ジェノは娘の好きなことを知ってちょっと嬉しくなった。
「そうか。ルビンはシェリーが得意なんだな。お父さんは初めて知ったよ。今までそんな話をルビンから聞いたこともなかった。シュリーのレッスンは楽しいか?」
ジェノがそう問いかけると急に沈んだ顔になった。
「私レッスンは嫌い。だって思ったように演奏できないんだもん。私ね、先生から楽譜どおり弾くようにって教えてもらってるの。でも、楽譜を見ただけではどんな曲か想像できないし、頑張って楽譜通りに弾こうと思っても間違えちゃう。先生の手助けもあってようやくやっている曲がどんな曲かわかると、つい自分はこう弾きたいって気持ちが強くなって好き勝手になっちゃう。そうやって演奏した方が弾いている時に色や景色が見えてきて楽しいんだもん。」
ジェノは黙ってルビンの話に耳を傾けた。
「一度覚えた曲は楽譜通りに弾けないわけではないんだよ。でも、楽譜通りに弾くだけじゃ面白くないの。先生の真似してるだけじゃつまらない!」ルビンは強い口調で言った。
「そうか、つまらないか。でもなルビン。これだけは覚えておくんだぞ。ルビンがオリジナルの曲を弾こうが、楽譜通りの演奏をしようが、どっちもルビンの演奏なんだ。楽譜通りの演奏が先生のまねごとだなんて思っちゃだめだぞ。どっちもお前の「オリジナル」の演奏なんだ。そして先生の言うことをちゃんと聞いて、いろんな曲を覚えなさい。いろいろな事を学びなさい。そうすればきっとお前の力になるから」
そういうとルビンの頭を撫でてやった。
ルビンにはジェノの言っていることがさっぱりわからなかった。でも父の言っていることだから正しいことに違いない。ルビンはそう思った。
「さあ、お腹もすいただろご飯食べながら続きを聞こう!」
「うん!」
再びルビンは満面の笑みを浮かべるとジェノと部屋のバルコニーに向かった。そしてバルコニーの椅子に腰をかけると、楽しい会話をしながら食事をした。いくら親子といえどもふたりは国王と王女。一緒にいられる時間はそんなに長くはない。久しぶりの二人の食事はふたりにとって楽しいものに違いなかった。
誕生から4年たち、ルビンは4歳になった。赤く美しい髪を腰まで伸ばし、笑顔が可愛い女の子に成長した。そして、レガスが考えていたようにやんちゃな子供に成長していた。ひとたび外に出るとひとりでいても駆け回ったり、何かに登ってみたりととても好奇心旺盛な活発な子だった。風邪もほとんどひかない丈夫な子であったが、外に出るたびに泥だらけになるまではしゃいで、かすり傷のような小さな怪我は日常茶飯事だった。レガスはルビンのそういうところが、気になり、困っていた。ルビンには王女らしくもっとおとなしくて、おしとやかな少女に育ってくれることを望んでいたからだ。
城の中にいる時は、美しいドレスを身に纏って、1日に何回も身嗜みをチェックしてもらっていた。レガスはルビンが王女として恥ずかしくないようにと様々な習い事を習わせた。先ずは貴族としての礼儀作法、テーブルマナーから始まって、言葉遣い、ダンス、音楽(ペルンスの伝統的な鍵盤楽器シュリー)、絵画、ペルンスの古典…毎日が習いごと漬け日々。ルビンにはそれが苦痛だった。朝起きてから夜眠るまで、毎日が決められたスケジュールで行動しなくてはならない。息苦しいドレスも嫌いだった。自分の部屋にいる時以外に、自分の自由の時間はない。ルビンはそう考えることが多くなった。ルビンの部屋はシャルクストのビル街が一望できる場所にあり部屋に戻ると外を眺めていることが多くなっていった。なにか気になる場所を見つけてみては、あの場所には何があるのだろうか、どんな人がいるのだろうか。そんなことを考えながら外を眺めていた。
「ルビン様!シュリーの稽古の時間ですよ。支度して部屋から出てきてください」
お世話係のひとりがシュリーのレッスンに行かせようとやってくる。最初のうちこそ素直に聞いていたが、次第になかなか出てこないようになっていった。
「また、行かないおつもりですか?それなら鍵を開けさせてもらいますからね」
ここのところ呼んでも返事すらしないので、鍵をあけて無理やりレッスンに連れていくことが多くなっていた。今日も鍵を開けて部屋に入っていった。ところがおかしなことに今日はルビンの姿が見当たらなかった。
「おかしいわね」
バスルームにもクローゼットにもいない。部屋自体もかなり大きいが隠れられそうな場所はそんなにないはずである。ベッドの下、棚の中、隠れられそうな場所は探してみたものの見つからなかった。最後に残ったのはバルコニーだけである
「ここにいるのね。もう隠れても無駄ですよ」
そういってバルコニーに続く扉を開けた。しかし、ここにもいない。果たしてルビンはいったいどこに行ってしまったのだろうか。そう思った時バルコニーの柵の端に人の手足が見えた。慌てて駆け寄るととんでもないことになっていた。ルビンはバルコニーの柵に必死にしがみついて隠れていた
「見つかっちゃったか」
「見つかっちゃったじゃありませんよ!落ちたらどうするおつもりですか」
お世話係はあわててルビンを抱き上げた。なにせ地面は何十メートルも下。手を滑らせたら命は保証できない。
嫌がって足をばたつかせるルビンは強制的にレッスンに連れて行かれた。お世話係はレッスンの時間に遅れたのは自分の不手際だったと説明して謝ると席を外した。ルビンは椅子に座って鍵盤に手を伸ばした。お世話係りが部屋から出ると部屋の中から音がなくなった。静かになるとルビンは辺りをキョロキョロする。その手は震えているようにも見えた。
「さて、この前の続きから弾いてみてください」
先生はそういうと楽譜の途中を指差した。唾を飲み込んで震える手で鍵盤をたたいた。緊張のためか不安定なリズムでなんとか曲をつなげているような感じだった。途中までは曲を奏でていたルビンだったが、あるところでパタッと曲が止まってしまう。先生はすぐさま間違いを指摘する。
「どうしてこんな簡単なところでリズムを間違えてしまうんですか。ここは、こうやって弾くんだってこの前言ったばかりじゃないですか」
先生はそういうとルビンが間違えた箇所を自分で弾いて見せた。するとルビンの表情は落ち着いたように見えた、手の震えも収まった。
「青、緑、黄色...森の香り...」
よくわからないことをブツブツ言いながら先生が弾いた所を軽やかに奏でる。先ほどのおぼつかない手つきとは違いスムーズに音が繋がっていく。
「そうそう。その感じです」
先生がそういうと先生がお手本で弾いていたところの先も何の迷いもなく弾いてみせた。何がどう変わったのかわからないがさっきとは別人が弾いているようだ。しかし、長く弾けば弾くほど先生の表情は沈んでいく。それもそのはずである。ルビンが弾いているのは楽譜とは全く関係ないフレーズだった。これはもはやルビンのイメージが作った曲になっていた。
「ルビン様!また全然違う曲をひいていますよ!!どうしてあなたはすぐ自分勝手にひくんですか?」
またやってしまった。ルビンは思った。
ルビンはシュリーを演奏すること自体は嫌いではなかった。むしろ好きだった。だから、自分の部屋ではよくシュリーを弾いていた。自分が思っているものが音になって聞こえるのが楽しかった。でも、ルビンは楽譜通りに演奏することは苦手っだった。まだ楽器に触って月日がたっていないこともあるが、楽譜を読むこと自体苦手だった。それと同時に自分の思ったように弾けないことが面白くなかった。
ルビンは耳が良かった。それは、先生も知っている。だから、楽譜が苦手なルビンに対して耳で曲を教えることもやってみた。するとルビンは何回か練習すると曲を覚えて先生のやっていることを再現してみせた。それには先生も驚いていた。しかし、すぐにアレンジして自分の曲にしてしまう。これではまずいと思い楽譜をみせて楽譜通りに演奏してみるようにいうと、緊張して固くなってしまう。こうなると先生もどうやって教えたらいいのかわからなくなってしまう。
ルビンは、自分が楽しいと思ったことはとことん集中できるが、決まりごとに従うのは苦手だった。ほかの習い事も同じ理由で嫌いになってしまった。ルビンは絵を描くのも好きだったが、見たものを見たとおりに描けなかった。色や形までもすぐに自分の思ったようにしてしまう。絵の先生は何度もそれを指摘したが、直らなかった。というより何がいけないのかわかっていなかった。注意されたからには、何かがいけなかったということは幼いルビンでもわかったが、今度はそればかり考えてしまって何も描けなくなってしまう。そして、シュリーと同様に少し気を抜くと元に戻ってしまった。この繰り返しだ。ただ、ダンスだけは本当にできなかった。動きがぎこちない上に、リズムに合わせて体を動かすことができない。おまけにダンスレッスンはひとりじゃなかった。いくら曲に合わせようとしてもまわりと同じことができない。ルビンは周りから取り残されている不安感をいだいた。
シュリーのレッスンが終わるとルビンは再びお世話係に連れられて、部屋に戻った。部屋に戻るとぼんやりと外を眺める。城の目の前の丘の斜面に広がる住宅地、住宅地とビルの間に広がる自然公園、そしてビル街。空には真っ白い雲が漂っていて、飛行機が飛んでいる。バルコニーではつがいと思われる鳥がさえずりながら追いかけっこをしていた。こういう時に外の世界を見ると、外の世界が束縛のない自由な世界に見えてくる。そんなことを感じながら部屋の中にあるシェリーに向かった。外の鳥が飛び立ったと同時にルビンは鍵盤を叩いた。
「まずはぐーんと空高く♪ お城の周りは家だらけ♪」
鼻歌まじりで楽しそうにシュリーを演奏し始めた。その姿はレッスンを受けていた姿とまるで違うものだった。曲は物語性があってあたかも自分が鳥になってシャルクストを眺めているようだった。空高く飛んだルビン鳥は急降下すると普通の家のキッチンを映した。でも一般家庭を見たことがないルビンはどこの家でもコックがいると思っており歌の中では広い厨房でコックが料理をしていた。その後もルビン鳥は曲の中であちこち飛び回った。公園で子供に追いかけられたり、おいしそうな果物をだべてみたり、ビルの中を覗いてみたりした。内容はあくまでもルビンの想像で、おかしなこともたくさんあったが、ルビンは確かに想像の中でいろいろなものを見ているようだった。しばらくしてルビンの手が止まり満足そうに笑った。
すると誰もいないはずの部屋から拍手が聞こえてきた。
「上手じゃないか。ルビン」
ルビンはびくっとなって後ろを見た。後ろには父の姿があった。一体いつからルビンの演奏を聞いていたのだろうか。
「昼食の時間になったから久しぶりにルビンと食べようかと思って来てみたんだ。いくら呼んでも返事がないから鍵を開けてはいらせてもらったよ。そしたら聞いたことのない曲が聞こえてきてびっくりしたよ。そういえばルビンがシュリーを弾いているの初めて聞いたかもしれない。今の曲は今習っている曲か?もう一度弾いて見せてくれ」
「お父さん!もう今の演奏はできないの。だって弾いているうちに考えた曲なんだもん。私ね、シュリーを弾きながらシャルクストを探検してたんだ。本当だよ!」
そういうとルビンは満面の笑みを浮かべてジェノの胸に飛びついた。ジェノはルビンを抱きかかえると立ち上がった。するとルビンの視野はたちまち高くなる。ジェノは娘の好きなことを知ってちょっと嬉しくなった。
「そうか。ルビンはシェリーが得意なんだな。お父さんは初めて知ったよ。今までそんな話をルビンから聞いたこともなかった。シュリーのレッスンは楽しいか?」
ジェノがそう問いかけると急に沈んだ顔になった。
「私レッスンは嫌い。だって思ったように演奏できないんだもん。私ね、先生から楽譜どおり弾くようにって教えてもらってるの。でも、楽譜を見ただけではどんな曲か想像できないし、頑張って楽譜通りに弾こうと思っても間違えちゃう。先生の手助けもあってようやくやっている曲がどんな曲かわかると、つい自分はこう弾きたいって気持ちが強くなって好き勝手になっちゃう。そうやって演奏した方が弾いている時に色や景色が見えてきて楽しいんだもん。」
ジェノは黙ってルビンの話に耳を傾けた。
「一度覚えた曲は楽譜通りに弾けないわけではないんだよ。でも、楽譜通りに弾くだけじゃ面白くないの。先生の真似してるだけじゃつまらない!」ルビンは強い口調で言った。
「そうか、つまらないか。でもなルビン。これだけは覚えておくんだぞ。ルビンがオリジナルの曲を弾こうが、楽譜通りの演奏をしようが、どっちもルビンの演奏なんだ。楽譜通りの演奏が先生のまねごとだなんて思っちゃだめだぞ。どっちもお前の「オリジナル」の演奏なんだ。そして先生の言うことをちゃんと聞いて、いろんな曲を覚えなさい。いろいろな事を学びなさい。そうすればきっとお前の力になるから」
そういうとルビンの頭を撫でてやった。
ルビンにはジェノの言っていることがさっぱりわからなかった。でも父の言っていることだから正しいことに違いない。ルビンはそう思った。
「さあ、お腹もすいただろご飯食べながら続きを聞こう!」
「うん!」
再びルビンは満面の笑みを浮かべるとジェノと部屋のバルコニーに向かった。そしてバルコニーの椅子に腰をかけると、楽しい会話をしながら食事をした。いくら親子といえどもふたりは国王と王女。一緒にいられる時間はそんなに長くはない。久しぶりの二人の食事はふたりにとって楽しいものに違いなかった。
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