ペルンス

シリウス

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発表会

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第三話 発表会

 ある日シュリーの先生はジェノに相談に来ていた。
「私はルビン様のシュリーのレッスンを担当しているメウラと申します」
「これはメウラさん。初めましてジェノです。娘がいつもお世話になっています。」
 ジェノはメウラにたいして深く挨拶をした。
「とんでもないですジェノ様。頭をあげてください。わざわざ貴重なお時間を私なんかに割いていただきすみません。ですがルビン様のシュリーの指導について相談したいことがございます。」
 メウラはやや尻つぼみの喋り方で話していた。額にはうっすらと汗を浮かべている。
「ルビン様の音楽を奏でる感性は素晴らしいものがあります。その感性はずば抜けています。」
 ジェノは黙ってメウラの話を聞いている。
「ルビン様はまだシュリーを初めて1年にも満たないですが、鍵盤の配置を体で覚えていて、音楽の基礎も自然と身についてきているように思えます。私が一度演奏するとほぼ間違えなくそれを再現できる耳と指の感覚を持っておられます。1年間ルビン様の指導にあたりましたが、その成長には驚いています。」
「私も先日たまたまルビンの演奏を聴いたよ。初めて聴いたが私も正直驚いたよ。それは今習っている曲なのかと聞くとオリジナルの曲だと言った。一つ一つのフレーズは簡単なものだったけど、うまい具合にかみ合っていて心地が良かった。娘は娘なりに曲に物語性を作っているらしくて聞いていてワクワクしたよ」
 ジェノは娘の自慢をするかのような軽やかな口調で話した。先日のルビンの部屋での演奏を思い出していたのだろう。
「ジェノ様もお聞きになられましたか。確かにルビン様の演奏は独創的で才能を感じているんですが、問題はその独創性なんですよ。ルビン様は演奏の腕はグングン上がっているのになかなか譜読みを覚えません。ちょっとつまづくとすぐに止まってしまいます。そして自分の演奏に酔ってくるとすぐに譜面とは違うフレーズを弾いてしまうんです。私にはどう指導したらどうやら...」
 メウラは困った口調でジェノに相談した。メウラは国中でも優秀な指導者でだからこそ王宮で指導できる腕を持っているのだが、こういったケースは初めてだった。
 ジェノは頭を抱えて考えていたが一つの提案をした
「そうですねぇ。では一度演奏会を設けてみましょうか。」
 演奏会ときいてメウラは驚いた。
「まだ1年も経験がないのにいきなり演奏会ですか?!」
「そうです。一度人前で演奏させてみましょう。その方がルビンも緊張感を持ってレッスンが受けられるでしょう。いい経験になると思うし、あなたならできるでしょう。」
メウラは提案をきいてしばらく黙って考え込んでいた。
「まぁ、これは一つの提案ですが、やるなら私が場を用意いたしましょう。」
「やらせてください。私が必ず成功させましょう。成功させてルビン様には自信を持っていただきたい。そして私のレッスンをもっと楽しく受けていただきたい。ルビン様なら演奏会を盛り上げる素質は十分ありますし、私ならその手助けをできます」
 メウラは考え込んだあと何かを納得したかのように答えた。この話はルビンにとってもメウラにとってもいい話だと思ったからだ。
「ではそうしましょう。ちょうど一月後に王宮で演奏会をやります。その時のゲストでルビンを出させます。いかがでしょうか。」
「彼女にとって最初の演奏会があんな大舞台ですか!?それはちょっときつくありませんか!?」
 メウラは演奏会の件は承諾したもののその大舞台に少し戸惑っていた。その演奏会とは毎年王宮で行われるもので、世界中から集まった一流の演奏家たちで行われるものだった。城の中の人たちは勿論の事一流の評論家たちも集まる、いわば音楽の祭典である。この演奏会を通して有名になるものもいれば、悪評を突かれてしまうものもいる。演奏家たちにとっても1年の集大成である。
「なに。子供の演奏なんだからそんなに硬くならなくてもいいじゃないですか。ルビンが場を明るくできるような演奏ができることを期待しているよ。では失礼」
 そう言ってジェノは席を離れた。メウラが覚悟を決めて相談したことだが、こんな相談するんじゃなかったと内心思った。確かに成功すればすごいことだが、失敗したらどうなることやら。
メウラはルビンのことより自分の評価のことで頭がいっぱいだった。

 レッスンに戻ったメウラはさっそくルビンに演奏会の話をした。ルビンは最初は話を理解していないようだったが、しばらくすると納得したのか思いっきり笑顔で答えた。
「え!私の演奏をみんなに聞いてもらえるんですか!!」
 メウラはルビンにこの話をしたら萎縮してしまうかと思いきや、反対に大喜びしている姿に驚いた。それと同時にしっかり指導しなければならないという使命感も感じた。
「ただしだ。発表会をするにあたっては、今まで以上に私の指導に従ってほしい。わからないことがあればとことん付き合う。いいですね。」
「わかった!なんでも聞きます!」
 ルビンは満面の笑みでまた答えた。
「まず第一に守ってほしいのは楽譜に忠実に演奏することです。」
 一瞬ルビンの表情が曇った。
「えー!それじゃ面白くないです」
「面白いとか面白くないとかじゃなくてそれが大前提です。それができなければ発表会には出しません。楽譜を読むのが苦手なら私の演奏をとことん真似てください。演奏に物語性が欲しければ相談してください。一緒に考えましょう」
 ルビンは少し考えた。
「わかりました。この前もお父さんに言われた。先生の真似をしてもそれは私の演奏には違いないって。折角誰かに演奏を聞いてもらえるのならしっかり練習します。だから私を発表会に出して。」
 ルビンはうつむきかげんではではあったけど、しっかり答えた。
 ルビンの言葉を聞いて少し安心したのかメウラは鍵盤に手を置いた。
「じゃあ行くよ。課題曲は『華麗なる英雄の舞』。ルビン様にピッタリの明るい曲だ」
 そういうとメウラは演奏を始めた。戦から帰ってきた英雄が村に帰って行く途中の嬉しさを謳った曲。その嬉しさから英雄が踊るように歩いている様子を描いている曲だ。リズミカルで細かいパッセージが聴いている方をウキウキさせる曲だった。最後は多くの村人に迎えられて迫力のある堂々とした和音で締めくくられる。ルビンは曲を聴きながら曲の様子を思い浮かべていた。今まで幾つかの曲を練習していたが、今までにない曲調だなと思った。
「先生!私この曲好きだよ!眩しいような黄色い曲、カクカクしてるけど、尖っていないから痛くはないですね!今までに感じたことのない曲です。しっかり練習するからしっかり教えてください!」
 『教えてください』という言葉は今までルビンから聞いたことのない言葉だった。メウラは今まで自分の選曲が良くなかっただけだったのかと振り返った。でもそんなことは考えずに期待に応えられるように曲を教えようと思った。
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