82 / 95
これから⑶
しおりを挟む
先生が帰って来るまでの間、仕事の合間にお盆に行けそうな所を色々調べていた。少し料金は高くなるけど意外と泊まれる宿はありそうだ。先生と2人で旅行に行ったことはなく、温泉とかもいいなぁと思ってニヤニヤしてしまう。今日も昼休みに都築さんに突っ込まれたばかりだ。明日の夜、遅い便の飛行機で帰ると昨日の電話で言っていた。ボクは明後日も仕事だから、明後日の夜会う約束をしていた。
「真野?何かあった?」
昼休み、都築さんとご飯を食べに行って注文を終えるとすぐに聞かれた。
もう、3日間先生と連絡が取れないでいた。本当なら先週末には研修に行っていた九州から帰ってきて、会う約束もしていたけど、家に行ってみても帰って来ている形跡はなく、電話も繋がらず、メッセージも既読にならない状態だった。この週末は泰輔さんにも相談して何とか連絡とれないか一緒に色々考えたけど、大学は地元ではなかったし、もともと先生は地元のこととか家族のことを泰輔さんにもあまり話していなかったようで、実家の正確な住所や電話番号など全くわからなかった。事故に巻き込まれた可能性もあるかもと ネットで調べてみたけど、先生の名前は見当たらなかった。
「え、あーいや……」
都築さんに余計な心配をかけたくなくて、言葉を探していると机に置いておいたケータイが震えた。液晶に表示されている“泰輔さん”という文字を見て、急いで都築さんに断りをいれてケータイを耳に押し当てながら部屋を出る。
「真野くん?今大丈夫?ごめんね、仕事中に。でも、早く連絡した方がいいと思って」
「大丈夫です。先生のことですよね」
「うん。真野くん落ちついて、聞いてね」
「はい」という声が震える。神妙な泰輔さんの声に嫌な感じに心臓が鳴る。嫌な予感しかしない。
「さっき、春人本人から連絡があった。何か階段から転倒して今、九州の病院に入院しているみたい」
「えっ……入院?だ、大丈夫なんですかっ?」
「怪我はしてないみたいだし、体は大丈夫。一応、すぐに退院も出来るみたいだ……」
「じゃあ、もうすぐ帰ってくるんですね?」
そう声をかけると、歯切れの悪い泰輔さんの声に引っ掛かりを覚える。
「真野くん……そのあと、春人のお姉さんとも話をしたんだ。春人……JRのホームの階段で転倒したお婆さんを助けて、一緒に落ちたみたいで、その時頭も打っていて、ここ1、2年くらいの記憶がないって……。ケータイもその時に壊れたみたいで、連絡が取れなくなってたみたい」
「え……どういう……記憶が……ない……?でも、泰輔さんに連絡して来たんですよね?」
「あーうん。記憶がないのは、ここ最近のことだから……。だから……その……真野くんのことは……覚えてないらしい」
泰輔さんが言っていることがよくわからない。先生の記憶がない?ボクのこと覚えてない?帰ってきたら、一緒に旅行に行こうって言ってたのに……それも含めて、何もかも覚えてないの?
泰輔さんが、まだ電話口で何か言っているようだったけど、もうボクの耳には何も届かなかった。
「真野?何かあった?」
昼休み、都築さんとご飯を食べに行って注文を終えるとすぐに聞かれた。
もう、3日間先生と連絡が取れないでいた。本当なら先週末には研修に行っていた九州から帰ってきて、会う約束もしていたけど、家に行ってみても帰って来ている形跡はなく、電話も繋がらず、メッセージも既読にならない状態だった。この週末は泰輔さんにも相談して何とか連絡とれないか一緒に色々考えたけど、大学は地元ではなかったし、もともと先生は地元のこととか家族のことを泰輔さんにもあまり話していなかったようで、実家の正確な住所や電話番号など全くわからなかった。事故に巻き込まれた可能性もあるかもと ネットで調べてみたけど、先生の名前は見当たらなかった。
「え、あーいや……」
都築さんに余計な心配をかけたくなくて、言葉を探していると机に置いておいたケータイが震えた。液晶に表示されている“泰輔さん”という文字を見て、急いで都築さんに断りをいれてケータイを耳に押し当てながら部屋を出る。
「真野くん?今大丈夫?ごめんね、仕事中に。でも、早く連絡した方がいいと思って」
「大丈夫です。先生のことですよね」
「うん。真野くん落ちついて、聞いてね」
「はい」という声が震える。神妙な泰輔さんの声に嫌な感じに心臓が鳴る。嫌な予感しかしない。
「さっき、春人本人から連絡があった。何か階段から転倒して今、九州の病院に入院しているみたい」
「えっ……入院?だ、大丈夫なんですかっ?」
「怪我はしてないみたいだし、体は大丈夫。一応、すぐに退院も出来るみたいだ……」
「じゃあ、もうすぐ帰ってくるんですね?」
そう声をかけると、歯切れの悪い泰輔さんの声に引っ掛かりを覚える。
「真野くん……そのあと、春人のお姉さんとも話をしたんだ。春人……JRのホームの階段で転倒したお婆さんを助けて、一緒に落ちたみたいで、その時頭も打っていて、ここ1、2年くらいの記憶がないって……。ケータイもその時に壊れたみたいで、連絡が取れなくなってたみたい」
「え……どういう……記憶が……ない……?でも、泰輔さんに連絡して来たんですよね?」
「あーうん。記憶がないのは、ここ最近のことだから……。だから……その……真野くんのことは……覚えてないらしい」
泰輔さんが言っていることがよくわからない。先生の記憶がない?ボクのこと覚えてない?帰ってきたら、一緒に旅行に行こうって言ってたのに……それも含めて、何もかも覚えてないの?
泰輔さんが、まだ電話口で何か言っているようだったけど、もうボクの耳には何も届かなかった。
1
あなたにおすすめの小説
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ミルクと砂糖は?
もにもに子
BL
瀬川は大学三年生。学費と生活費を稼ぐために始めたカフェのアルバイトは、思いのほか心地よい日々だった。ある日、スーツ姿の男性が来店する。落ち着いた物腰と柔らかな笑顔を見せるその人は、どうやら常連らしい。「アイスコーヒーを」と注文を受け、「ミルクと砂糖は?」と尋ねると、軽く口元を緩め「いつもと同じで」と返ってきた――それが久我との最初の会話だった。これは、カフェで交わした小さなやりとりから始まる、静かで甘い恋の物語。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる