忘れられない思い

yoyo

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これから⑶

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   先生が帰って来るまでの間、仕事の合間にお盆に行けそうな所を色々調べていた。少し料金は高くなるけど意外と泊まれる宿はありそうだ。先生と2人で旅行に行ったことはなく、温泉とかもいいなぁと思ってニヤニヤしてしまう。今日も昼休みに都築さんに突っ込まれたばかりだ。明日の夜、遅い便の飛行機で帰ると昨日の電話で言っていた。ボクは明後日も仕事だから、明後日の夜会う約束をしていた。



「真野?何かあった?」


   昼休み、都築さんとご飯を食べに行って注文を終えるとすぐに聞かれた。
   もう、3日間先生と連絡が取れないでいた。本当なら先週末には研修に行っていた九州から帰ってきて、会う約束もしていたけど、家に行ってみても帰って来ている形跡はなく、電話も繋がらず、メッセージも既読にならない状態だった。この週末は泰輔さんにも相談して何とか連絡とれないか一緒に色々考えたけど、大学は地元ではなかったし、もともと先生は地元のこととか家族のことを泰輔さんにもあまり話していなかったようで、実家の正確な住所や電話番号など全くわからなかった。事故に巻き込まれた可能性もあるかもと ネットで調べてみたけど、先生の名前は見当たらなかった。


「え、あーいや……」

   都築さんに余計な心配をかけたくなくて、言葉を探していると机に置いておいたケータイが震えた。液晶に表示されている“泰輔さん”という文字を見て、急いで都築さんに断りをいれてケータイを耳に押し当てながら部屋を出る。


「真野くん?今大丈夫?ごめんね、仕事中に。でも、早く連絡した方がいいと思って」

「大丈夫です。先生のことですよね」

「うん。真野くん落ちついて、聞いてね」


「はい」という声が震える。神妙な泰輔さんの声に嫌な感じに心臓が鳴る。嫌な予感しかしない。


「さっき、春人本人から連絡があった。何か階段から転倒して今、九州の病院に入院しているみたい」

「えっ……入院?だ、大丈夫なんですかっ?」

「怪我はしてないみたいだし、体は大丈夫。一応、すぐに退院も出来るみたいだ……」

「じゃあ、もうすぐ帰ってくるんですね?」


   そう声をかけると、歯切れの悪い泰輔さんの声に引っ掛かりを覚える。


「真野くん……そのあと、春人のお姉さんとも話をしたんだ。春人……JRのホームの階段で転倒したお婆さんを助けて、一緒に落ちたみたいで、その時頭も打っていて、ここ1、2年くらいの記憶がないって……。ケータイもその時に壊れたみたいで、連絡が取れなくなってたみたい」

「え……どういう……記憶が……ない……?でも、泰輔さんに連絡して来たんですよね?」

「あーうん。記憶がないのは、ここ最近のことだから……。だから……その……真野くんのことは……覚えてないらしい」


   泰輔さんが言っていることがよくわからない。先生の記憶がない?ボクのこと覚えてない?帰ってきたら、一緒に旅行に行こうって言ってたのに……それも含めて、何もかも覚えてないの?
   泰輔さんが、まだ電話口で何か言っているようだったけど、もうボクの耳には何も届かなかった。
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