59 / 86
番外編
番外編・その24
しおりを挟む一通りの自己紹介的な挨拶が済むと、
「ゴールドマン伯爵…絵を拝見させていただきました」
と私は微笑んだ。
「私の正体はとっくにバレていましたよね。お父上から?」
とゴールドマン伯爵も微笑む。
下手に隠すつもりはないようだ。
「いえ。ジュリエッタへ釣書を送って下さったでしょう?何故だろうって、とっても不思議だったんです」
と私が言えば、
「不思議ですか?今やオーヴェル侯爵家と縁付きたい者など、山ほど存在するでしょう?」
とゴールドマン伯爵は自分もその口だと言わんばかりだ。
「確かに。ジュリエッタへの釣書は全て目を通すのに、随分と時間が掛かりました。
候補になりそうな家も多くありましたけど…でも、私が気になったのは、伯爵だけです」
「何故?」
「そうですねぇ…はっきり言えば勘のような物でしたわ。最近、商会との取引も開始しましたが、それだけで?と思ったのがきっかけでした。
私、好奇心旺盛ですの。気になった事は調べなくては気がすみませんのよ?」
「なるほど。オーヴェル侯爵家に縁談を申し込むのです。調べられて当然。私の正体がバレる事も織り込み済みです。
…で、私は侯爵の好奇心を満たす事が出来ましたでしょうか?」
「最初は父が、貴方に頼んだのかとそう疑っていましたのよ?でも父は『違う』と」
「ええ。頼まれた訳ではありませんよ。私自身の考えです。
私はジュリエッタ嬢より10以上も歳上なうえ、前妻を亡くしています。正直、私の釣書など、見ても貰えないと思っていました。
お父上と私の関係性を知ったのなら、尚更です。侯爵から見れば、私はジュリエッタ嬢を利用しているようにしか見えないでしょう。
…しかし、私は侯爵に呼ばれて此処に居る。私の方が不思議に思っています」
「ふふふっ。ジュリエッタの悪評はここ王都で知らない貴族は居ないのではないかと思うほどです。
人の噂話など、いつの日か忘れ去られる…そう思いたいのですが、あの娘が社交に出れば、また皆は思い出すでしょう。
そんな妹と結婚をするのに、メリットを求めるのは当然。下心があるのが普通です。
そういう意味では今回釣書を送って来た家は全てジュリエッタを利用しようとしていると言っても過言ではありませんもの」
…ジュリエッタを利用してこのオーヴェル侯爵家と繋がりたい家なんて、わんさかあるのだ。
というか、それが殆んどだ。
私は続けて、
「私は逆に伯爵の意図が掴めなかった。だから、お話してみたかったんです」
「意図?と申しますのは?」
「他の者が皆ジュリエッタを利用しようとしている中、伯爵がジュリエッタと結婚したいと思った理由ですわ。
伯爵は…皆と違う理由なのだと…私の勘がそう訴えているのです」
と私が言うと、何故か伯爵は頬を少し赤くした。
「オーヴェル侯爵の勘違い…とは考えられませんか?」
と言う伯爵に、
「私、勘は鋭い方なのです。…父にジュリエッタの事を何と聞いていましたか?」
「…お父上はジュリエッタ嬢をとても心配しておられた。ああいう風に育ったのは、自分に全責任があると。
侯爵にもこれ以上迷惑をかけたくないと。
しかし…私は先ほど言ったように、ジュリエッタ嬢に相応しい男ではありません。
ジュリエッタ嬢は、もっと若くて…婚姻歴のない男を選ぶ事も可能です。だが…私は…」
と伯爵は言葉を切ると、少し俯いた。
「…伯爵はジュリエッタを好ましく思って下さったのですね」
と私が声を掛けると、伯爵は顔を上げて、
「お父上からジュリエッタ嬢の事を聞く度に…私の中で彼女の存在が大きくなっていった。その気持ちがなんなのか…同情なのか、憐れみなのか…始めはわかりませんでした。
お父上に恩もありますので、それでその様に感じるのかとも考えました…でも、そんな風に過ごしていたら、彼女の事を考える時間が増えていって…気づけば、頭の中がジュリエッタ嬢で一杯になってしまっていた事に気づいたんです」
なかなかストレートな告白に、私は自分の勘が間違っていなかった事を確信した。
109
あなたにおすすめの小説
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。