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第21話
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母は兄の顔を見るなり、走り寄ると
「今の今まで、何をしていたのよ!!!」
と兄の頭をポカポカと殴り始めた。私が止めるより先に、
「一応、怪我人だから」
と母が振り上げた拳をレナード様はそっと受け止めた。
母はレナード様の顔を見てから、急に泣き崩れる。私は崩れ落ちた母に急いで駆け寄った。
そんな母に戸惑った表情を浮かべるレナード様と、申し訳なさそうな顔の兄。兄が母の肩に置こうとした手を母は振り払う。
「お父様が倒れたのは貴方のせいよ!どれだけお父様が貴方を心配していたか………」
とまた涙を浮かべる母を私は抱きかかえる様にして立たせた。
「お兄様、私、お母様を休ませてくるわ。お兄様も長旅で疲れたでしょう。話はまた明日にしましょう。レナード様も、兄を連れ帰って下さってありがとうございました。今日は我が家にご宿泊下さい。直ぐに部屋を用意させます」
と私は兄とレナード様に一言残し、母を連れて応接室を出て行った。
「ごめんなさい、取り乱したわ」
グラスに注いだ水を母は一気に飲み干すと、一息ついてそう言った。
「お父様……私やナタリーの前ではお兄様を『好きにさせろ』と言うだけだったけど、本当は心配なさっていたのね」
頭を抱えた母に私はそう言った。
「ええ。とてもね。ジュードにはお父様の愛情が伝わっていなかったのかもしれないけれど」
良く兄は言っていた『僕達なんかより父上は領民の方が大切なんだ』と。
でも、私はそんな父を誇りに思っていた。領民にも使用人達にも慕われている父を。兄はそれに対して複雑な想いを持っていたようだが、私は『何を甘ったれているのだろう』と呆れていた。もっと兄と真剣に話をしておけば、こんな事は起きなかったのだろうか?
「お兄様は……」
「自分はお父様に愛されていないと思っていたのでしょう?わかっていたわ。だからといって領民に嫉妬するなんて何て馬鹿げた……」
「だから領主になりたくないなんて言い出したのかしら?」
「それはジュードにしか分からないけれど、私は直ぐに根をあげて戻って来ると思っていたの。きっとお父様の気を引きたいだけなのだと。まさか、その間にお父様があんな事になるなんて……」
「お兄様……これからどうするおつもりなのかしら?」
「怪我……って言っていたわね。杖をついていた様だけど」
「足を怪我した様よ。お父様の事を聞いて戻って来た……と、レナード様が」
「へ?まさか……あの大きな男性は……」
「彼がレナード・クレイグ様よ。お兄様を連れて帰って下さったの」
「まぁ……私、何て所を見せてしまったのかしら!夜会にも顔をお出しにならないから、知らなかったとは言え、とんだ失礼を……」
「今晩はうちにお泊りいただくつもりよ。後でゆっくりと謝罪する時間はあるわ。お母様は少し休んでて」
そう言って、私は母の部屋を出た。
すると、玄関先でアーサーが焦った声を出している。私は急いで玄関ホールへと向かった。
「今の今まで、何をしていたのよ!!!」
と兄の頭をポカポカと殴り始めた。私が止めるより先に、
「一応、怪我人だから」
と母が振り上げた拳をレナード様はそっと受け止めた。
母はレナード様の顔を見てから、急に泣き崩れる。私は崩れ落ちた母に急いで駆け寄った。
そんな母に戸惑った表情を浮かべるレナード様と、申し訳なさそうな顔の兄。兄が母の肩に置こうとした手を母は振り払う。
「お父様が倒れたのは貴方のせいよ!どれだけお父様が貴方を心配していたか………」
とまた涙を浮かべる母を私は抱きかかえる様にして立たせた。
「お兄様、私、お母様を休ませてくるわ。お兄様も長旅で疲れたでしょう。話はまた明日にしましょう。レナード様も、兄を連れ帰って下さってありがとうございました。今日は我が家にご宿泊下さい。直ぐに部屋を用意させます」
と私は兄とレナード様に一言残し、母を連れて応接室を出て行った。
「ごめんなさい、取り乱したわ」
グラスに注いだ水を母は一気に飲み干すと、一息ついてそう言った。
「お父様……私やナタリーの前ではお兄様を『好きにさせろ』と言うだけだったけど、本当は心配なさっていたのね」
頭を抱えた母に私はそう言った。
「ええ。とてもね。ジュードにはお父様の愛情が伝わっていなかったのかもしれないけれど」
良く兄は言っていた『僕達なんかより父上は領民の方が大切なんだ』と。
でも、私はそんな父を誇りに思っていた。領民にも使用人達にも慕われている父を。兄はそれに対して複雑な想いを持っていたようだが、私は『何を甘ったれているのだろう』と呆れていた。もっと兄と真剣に話をしておけば、こんな事は起きなかったのだろうか?
「お兄様は……」
「自分はお父様に愛されていないと思っていたのでしょう?わかっていたわ。だからといって領民に嫉妬するなんて何て馬鹿げた……」
「だから領主になりたくないなんて言い出したのかしら?」
「それはジュードにしか分からないけれど、私は直ぐに根をあげて戻って来ると思っていたの。きっとお父様の気を引きたいだけなのだと。まさか、その間にお父様があんな事になるなんて……」
「お兄様……これからどうするおつもりなのかしら?」
「怪我……って言っていたわね。杖をついていた様だけど」
「足を怪我した様よ。お父様の事を聞いて戻って来た……と、レナード様が」
「へ?まさか……あの大きな男性は……」
「彼がレナード・クレイグ様よ。お兄様を連れて帰って下さったの」
「まぁ……私、何て所を見せてしまったのかしら!夜会にも顔をお出しにならないから、知らなかったとは言え、とんだ失礼を……」
「今晩はうちにお泊りいただくつもりよ。後でゆっくりと謝罪する時間はあるわ。お母様は少し休んでて」
そう言って、私は母の部屋を出た。
すると、玄関先でアーサーが焦った声を出している。私は急いで玄関ホールへと向かった。
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