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第108話
私の目の前で優雅にお茶を飲む女性。前パトリック伯爵夫人である、カミラ様だ。
「どうしてこちらへ?」
私の質問にカミラ様はにっこりと微笑んだ。
今まで彼女の心からの笑みを見たことが無かった私は、こんな時なのに、美しいと思ってしまった。
「どうして……。そうねぇ、此処に来たのは貴女に会いたかったから」
「私に?」
「ええ。私も貴女の様に幸せになりたかったの。そして、今、幸せだと……その姿を貴女に見て欲しかった」
カミラ様の言葉に私は首を傾げた。どうにも抽象的過ぎて、理解が追いつかない。
「私の言っている事が分からないって顔ね。いいのよ、それで。私の気持ちは私にしかわからないもの」
そう言ってカミラ様は一口お茶を飲んだ。そして続ける。
「もし……貴女がハロルドに嫁いでくれていたら、私は逃げ出さなかったかもしれない。あ!勘違いしないでね、貴女の責任だなんて言っている訳ではないの。
私ね、貴女には何となく仲間意識みたいなものを持っていたのよ。真面目にコツコツ。私も不器用だったから、パトリック伯爵家に嫁ぐ為に物凄く努力したの。
実は……あの人……ラッセルは私と婚約している時に、他の女性と……。私はこんなに努力しているのに……そう思うと泣きたくなったわ。その女性は男爵令嬢で、パトリック伯爵家には相応しくないと、婚約解消には至らなかったけど。その頃から、私の心はずっと軋んでいたの」
驚いた。カミラ様が居なくなって、前伯爵は塞ぎ込み、ハロルドに譲位したぐらいだ。二人の仲は私達には分からなくとも良好なのだと思っていた。
「でも……それでもずっと我慢したのはパトリック伯爵家の為だったのでは?」
私の言葉にカミラ様は少し首を横に振った。
「意地よ。『やはりあの男爵令嬢の方が良かった』なんて言われたくないもの。ただそれだけ。ハロルドの婚約者が貴女に決まって、貴女の努力を見ていると、昔の自分を思い出す様だった。貴女がお嫁に来てくれるのは楽しみだったのよ。……でもハロルドが馬鹿な事をして……」
「私の事をその様に思って下さっているなんて……思っていませんでした。ハロルドの婚約者をナタリーに替える事も反対してはいないと聞いていたので……」
「ハロルドもあの人と同じでね。私の言う事なんて聞いてくれなかった。もう随分前から諦めてたの。ナタリーと上手くやっていければ……そう気持ちを切り替え様と思ってたのに……ナタリーは……」
「真面目に努力しなかった……そういう事ですね」
「その通りよ。後は貴女も知っているでしょう?ラッセルはナタリーを嫌っていたけど、私の事も責めたの。もうやってられないって思ったわ。ナタリーが怪我をさせた侍女はね、私が実家から連れてきた侍女の娘でね。私、とても可愛がっていたのよ」
私はあの時の騒動を思い出していた。
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