身代わり王妃の最後の100日間

初瀬 叶

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第42話

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それからというもの、マギーは殆ど私と口をきかなくなった。
私が何かを尋ねても『はい』か『いいえ』ぐらいしか答えない。だからといって、私の気に入らない態度には一睨みはするのだが……。

「こんにちは。今日も美味しいご飯をありがとう」
陛下の部屋へ行く前に厨房を覗いて私がそう声を掛けると、厨房に居た料理人達は目を丸くし、

「あ……は……はい」
と戸惑いながらも返事をしていた。


王妃としての仕事は何にもしていない。
何もするな……とも言われている。まぁ、食堂の雑用は出来ても王妃の仕事は出来ない私としては願ったり叶ったりだ。
だが、部屋でマギーと二人……って言うのも息が詰まる。
最近の私はマギーから逃げる様に散歩を日課にし、雨の日は本を読むようにしていた。食堂のメニューを書いたりする為に文字を習っていて良かったと、今、心から思っている。

今日は久しぶりに陛下の時間が取れた為、話をする事になっていたが、前に話してからもうかれこれ三週間は経った。

「機嫌が良いな」
私にだけ聞こえる程の小声でノアがそう言った。

「今日の昼食、私の好物だったの」

「単純な奴」

「馬鹿ね。幸せになる秘訣は小さな事でもいちいち喜ぶ事よ。平民なんて、大きな幸せを待ってたって、中々来やしないんだから」

「なるほどね」

私は何だかんだ、ノアと話をする様になっていた。マギーと陛下とノアしか私の正体を知らない。そう思えば消去法でノアが選ばれるのも納得だろう。

そうして私は陛下の部屋の前に立つ。ノックの後、入室の許可と共に扉が開かれる。ノアとはここでお別れだ。何故かノアは、

「気をつけろよ」
と一言言って、私を見送った。
……何を気をつけたら良いのか分からず私は首を傾げながら、部屋へと入った。


「陛下?」

窓際に立つ陛下へと声を掛ける。机には書類が山積みだ。国王には多くの仕事があることを私は此処に来て初めて知った。豪華な椅子にふんぞり返って、高い酒を飲み、夜会を開いているだけだと思っていた自分が恥ずかしい。

私の声に振り返った陛下の顔色はいつも通り悪かった。

「あぁ、来たか。……そう言えば最近、良く中庭を散歩している様だな」

「はい。部屋に閉じ籠もってばかりでは体が鈍るので。陽の光を浴びないと夜もちゃんと眠れないんですよ?」

「なるほどな。確かにそうかもしれん。私が庭を散歩したのは……もう随分と前の事だ」

「……陛下……眠れていますか?」

隈が色濃く残る陛下の顔を見て、私は無意識にそう尋ねていた。


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