貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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80話

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「はい?コンラッド様は……陛下なのでは?」
私は少し混乱していた。陛下の言葉の意味が分からなくて。

「あぁ。そうだ。だが、お前が好意を持っているのは俺じゃない。スティーブ・コンラッドだ」

「陛下。私はそんな……」

「俺は結局、誰にも愛されないんだな」
と一言言い残して陛下は私の隣から立ち上がった。

部屋の扉に陛下が手をかける。私は、ここで陛下を行かせてはいけない気がして、その背中を追った。

「お待ち下さい!」

私は陛下の腕を後ろから掴んで止める。

陛下は振り向かず、

「すまない。変な事を言った。ハハッ!おかしいだろう?」
と乾いた笑い声に寂しさが滲む。陛下は少し天井を見上げる様に顎を上げると、

「俺はこんな力があったせいで、子どもの頃からどうも他人と打ち解ける事が難しかった。父親は可愛がってくれたよ……母が亡くなるまでだが。その後は無関心になったな。
父親はクズのような男だが、母を愛していた。いや……異常な執着だったかもしれん」
陛下の顔は見えないが、声に力がない。
陛下は私に何を伝えたいのだろう。私にはアイザックや陛下の様な力はないので分からない。

「陛下。私には特別なギフトはありません。こちらを向いて……きちんとお話してくれませんか?でないと、陛下の気持ちが分かりませんよ」
私は陛下の腕を掴んだ手に少し力を込めた。


陛下はゆっくりと振り返って私を見る。その頬には一筋、涙の跡があった。

「俺は父親の異常さを継いだのかもしれない。こんな気持ちは初めてで、どうして良いのか分からない」

「陛下……」
私は背伸びして陛下の頬に触れると、その一筋の涙の跡を指で拭った。

陛下はその手を握る。

「初めて人を好きになったんだ。自分で自分に嫉妬する程だ」

「別に私は……」

「君はスティーブ・コンラッドの事を話す時、少し優しい目をするんだ。それだけでイライラする。俺自身を愛してくれる者などいない」

「陛下、逆です。コンラッド様は陛下ご自身に他なりません。立場も見た目も全て取り除いた姿がコンラッド様だったのではありませんか?」

「クレア……」

「私はあの夜の事を後悔した事はありません。それはコンラ……いえ、陛下の優しさに触れたからです。
陛下はいつも飄々としていらして、少し粗雑に振る舞っていらっしゃいますが、本当は優しく、思慮深い方です。私はこの数ヶ月でそれに気づきました。きっとロータス様始め、陛下の本質に気づいている方はもっとたくさんいらっしゃいます。皆様、私なんかより陛下と時間を共にしていらっしゃるのですから」

「……俺はクレアに好かれたい」
少し拗ねた様に言う陛下が可愛らしい。

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