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その59

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私は早速、アーベル殿下が育てている薔薇を図鑑で見つけ、殿下に図鑑を見せながら報告した。
殿下はあまり花などに興味はないので、

「ふーん」
とは言っていたが、図鑑を手に取ろうともしなかった。

なら何で私に調べて来いと命じたのか…とため息が出そうになるが、グッと堪える。


今度こそ、アーベル殿下とのお茶会で話が弾みますようにと祈りながら、当日を迎えた。


はっきり言えば、あと1ヶ月半もすれば、この『お試し期間』は終わる。

もしかしたら、クビ…ここを辞めさせられる前にアルティアに帰国する事になったりして…なんて笑えない想像をしてしまう。


しかし、私はその大事なお茶会の日に体調を崩してしまった。
5年に1度あるかないか…前に体調を崩した時など、とうに覚えていないぐらい昔だ。
それほどまでに私は頑丈だったのだが、流石にベルガ王国に来ると決まってから、ずっと休みなく働いてきたのが祟ったと見える。

私は殿下の部屋の隣では、殿下に病気を感染すかもしれないとの事で、医務室のベッドに横になっていた。

キャンベル医師が先程から嬉々として、私のお世話を焼いてくれている。

最初は申し訳ないと断っていた私も、熱が上がり、体を動かす事さえも億劫になってしまってからは、されるがままになっていた。

さっき飲まされた苦い薬のせいだろうか、だんだんと眠気に襲われる。

私が寝入る直前、誰かが部屋へ入って来たが、瞼が重くて目を開けられない。

きっとキャンベル医師だろう。

確認したいが、どうにも無理そうだ。

私が目を閉じている事を確認するかの様に、その誰かは顔を覗き込んでいる気配がする。

すると、その人物は、私の頭を撫でながら、何かを呟いた。

究極の眠気に抗えなくなった私は、その呟きが何だったのかわからないまま、眠りに落ちた。


私の熱は結局その後2日続き、仕事に戻れるようになったのは、3日後の事だった。

キャンベル医師は、

「シビルちゃん、本当に大丈夫?
本来なら、もう1日、2日は休養を取って貰いたかったんだけど。
熱が下がったってだけで、体力的にはまだまだなんだし」
と私が仕事復帰をする事に渋っている。

しかし、

「いえ。もう全然大丈夫です。薬はきちんと飲みますし、元々じっと寝てるのも飽きちゃう性格なので。働いてる方が、性に合ってます」
と、私はこれ以上休む必要はないとアピールする。

レジーとユリアにも迷惑をかけてしまった。出来るだけ早く仕事に戻りたかった。

「じゃあ、仕方ないから仕事復帰を許可するけど、もし少しでも、違和感があったりしたら、直ぐに此処に来る事!分かった?」
と私にしつこく確認してくるので、

私は、

「もちろんです。その時は、直ぐに来ます」
と元気よく約束した。

「あ、それと、この花。持って行ってよ」

私が寝ていた2日間、何故か私のベッドの横には花が飾られていた。私はてっきりキャンベル医師の気遣いかと思っていたのだが、

「僕が、って言いたい所だけど、僕じゃないよ。お見舞いみたいだけど、付いてたカードはどっかに失くしちゃったから、誰からか、僕も覚えてないや」
と言われた。

じゃあ、誰から?

…まぁ、ミシェル殿下ではない事だけは確かだろう。
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