断罪された悪役令嬢は不眠侯爵と夜な夜なゲームに興じている

初瀬 叶

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第3話 苦肉の策

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「ユ、ユリウス殿下が仰るのなら婚約破棄は甘んじて受け入れますわ!で、でもですね? 私は一応幼少の頃から王太子妃教育を施されて参りました。王族の秘密……とまでは言いませんが、色々と王族にとって不都合な事実を知っている可能性もございます。ですので……その……私を ベルモンド侯爵と結婚させるっていうのはいかがでしょうか?」

もちろん話を盛っている。そんなびっくりするような秘密なんて私は知らない。だけど、この場を収めたい一心で、私はそんなことを口走っていた。言葉尻が段々と小さくなっていくのは自信の無さの表れだ。だが、私はそんな自分の弱い心を振り払うように一気にまくし立てた。

「ベルモンド侯爵って叔父上のことか?君とは今まで関わりのない人物だろう?何故叔父上なんかと── 」

ユリウス殿下は片眉をクイッと上げて私を訝しげに見つめる。

「ベ、ベルモンド侯爵は王位継承権を放棄されたとはいえ、王家の血を引いていらっしゃいます。王家の秘密を守るにはうってつけの相手かと……」

人間、何かを誤魔化したい時には早口になるものだ。私はとりあえず色々と突っ込まれたくない気持ちからオタク並みの早口を披露した。

ここで私が苦し紛れに名を挙げた人物。ベルモンド侯爵とは、現国王の末の弟君だ。そうユリウスの叔父にあたる。だが、叔父と言っても殿下と侯爵との歳の差は七歳程度。ベルモンド侯爵は第三側妃のご子息で国王陛下とは十五歳以上歳が離れていた。

そしてこのベルモンド侯爵、人付き合いが苦手な引きこもりとして有名である。いわゆる『コミュ障』だ。よって婚約者もおらず、王都からそこそこ離れた領地に引っ込んだままだ。

彼なら!彼ならば私の相手としてちょうどいい。王族としての堅苦しさもなければ、社交もしなくていい。
苦し紛れに出した答えであったが、私は意外にも『有りだな』と自画自賛していた。

私は見た目も悪くない。シルバーブロンドの髪に吊り上がったエメラルドグリーンの瞳が冷たい印象を与えるが、美しい容姿をしていると思う。そんな若い公爵令嬢をコミュ障陰キャが娶ることが出来るのだ。向こうも文句はあるまい。

私はずいぶんと勝手にベルモンド侯爵のことを上から目線で見下しながら、心の中で何度も名案だと頷いていた。

ただ……目の前のユリウスとシャルロッテは微妙な顔をしている。

「ロザリンド……君がそんなことを勝手に決めることは出来ないよ。まずなんでそんなにあっさり婚約破棄を受け入れるんだい?それに叔父上とはどんな── 」
ユリウスは眉根をギュッと寄せて不快そうな表情だ。

……婚約破棄を喜んで受け入れているのだから、もう理由なんてどうだっていいだろう。お前は黙って隣の小動物を娶れば良いではないか。

「も、もちろんそれは承知しておりますが── 」

「ユリウス!私は良いアイデアだと思うわ! ベルモンド侯爵様が独身であることは、陛下の悩みの種だとこの前言ってたじゃない」

「た、確かに。── だが……」

ここで、シャルロッテのナイスアシストがさく裂だ。
シャルロッテにしてみれば、私が誰かと結婚して人妻になった方が安心出来るのだろう。それにベルモンド侯爵領は王都から馬車で三日程離れているのだし。

「もちろんここで全てを決定できるわけではないことは私も承知してるわ。でも陛下にお話してみるだけでも……ね?」

シャルロッテがユリウスの腕を取り、可愛く首をコテンと傾げた。

ユリウスはシャルロッテの勢いに押されるように「う、うん……」と頷いている。

言質は貰った!ありがとう!シャルロッテ! 
許されるのならば彼女にハグしたいぐらいだが、そんな暇はない。私はユリウスの気が変わらぬ内にそそくさと挨拶をする。

「えっと、もう私の顔など見たくもないと思いますので、私はこの辺で。では皆様ご機嫌よう!」

私はサッとカーテシーをすると、ドレスのスカートを摘んで裾を踏まぬように早足で彼らに背を向け歩き出す。

「お、おい!ロザリンド!」

ユリウスの声が追いかけてくるような気がして、私は振り返らずにそのまま逃げるように会場を飛び出したのだった。

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