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第4話 ヴァレンティーヌ公爵
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「ロザリンド、陛下から殿下との婚約解消とベルモンド侯爵との新たな婚約の書状が届いたぞ」
父親であるヴァレンティーヌ公爵はその書状を苦々しい表情で私に差し出した。
婚約破棄を言い渡された卒業式のあの日。屋敷に戻った私は父にこっびどく叱られた。
そりゃそうか。平民上がりの小娘を嫉妬の果てに虐めた挙句、王太子殿下の婚約者の座をやすやすと奪われたのだ。父親としての面目は丸つぶれだろう。シングルファーザーとして育ててくれた恩を仇で返すような真似をして申し訳ないと、心から思う。
私は書状を受け取りながら、再度頭を下げた。
「お父様、本当に申し訳ありませんでした。私の力不足で── 」
「何故あんな小娘を虐めたんだ。お前は誇り高きヴァレンティーヌ公爵家の娘だぞ?」
叱責を受けたあの日も同じことを訊かれ、同じことを答えたが、父の怒りが理解できる私はもう一度同じ答えを口にする。
「お父様、私は虐めたつもりはございません。ただ誤解を解けなかった……いえ殿下の御心を掴めなかった私の力不足です。あの時に私が強く否定したとしても……更に恥をかくだけだと判断いたしました」
父は大きくため息をつく。
「本当にお前はそれでいいのか? あんなに幼い頃から王太子殿下に釣り合うよう努力してきたのに……」
あぁ……私が前世を思い出したのが、あの時で良かった。でなければ、最初からハードな勉強にも厳しいマナー指導にも耐えられなかっただろう。
「努力は今後の自分の糧になります。誰かのためではありません」
背筋を伸ばした私は真っ直ぐ父に視線を向けた。あくまでも私の企みがバレてはならない。楽をしたいなんて口が裂けても言える雰囲気ではない。
「……ベルモンド侯爵との結婚に今までの苦労は見合わないと思うがな」
「お父様は反対ですか?」
父には迷惑をかけたと思う。彼が反対だと言うなら考え直さなければならないかと思ったが── 。
「いや……。お前の能力を生かしきれない相手だと思っただけだ。ベルモンド侯爵は現国王の弟君。嫁ぐ相手として文句はない」
何とも奥歯に物が挟まったような物言いだ。私はベルモンド侯爵のことをあまり知らない。前世でもそんな人物は小説に登場しなかった。モブもモブ。
「お父様には本当にご迷惑をおかけして……申し訳ありません」
「別に私の立場が剥奪されたわけではないから、そこは気にするな。虐めたという確たる証拠がないことを陛下もご存知だ。だがユリウス殿下が頑固でな」
「安心いたしました」
父は大臣の座を剥奪されたわけではない。陛下は殿下よりちゃんと物事を冷静に判断する目をお持ちのようだ。
「── お前が認めなければ、良かったんだ」
そう言われると何も言えないが、私は弱々しく「認めてはおりません」と反論するのが精一杯だった。曖昧にした自覚はある。
「まぁ……陛下としてはベルモンド侯爵の結婚に頭を悩ませていたからな。渡りに船だと思ったらしい。ベルモンド侯爵がお前を拒否しなかったことが大きいだろう」
拒否される可能性があったのか……そんなことまで頭が回らなかった。若い美人を娶れるなら嬉しいだろうぐらいにしか考えていなかった。
「そ、そうですわね」
「ベルモンド侯爵は今までずっと色んな縁談を断ってきたからな……陛下としてはやっとその気になってくれたと喜んでいたよ。……だが、殿下の相手選びは難航していると聞いた」
「え? シャルロッテ様が婚約者になられるのでは?」
私は目を丸くする。
「馬鹿を言え。平民上がりの小娘に王太子妃が務まるわけがないだろう」
父はそう言うと、私の部屋を出て行った。
私は自分の手の中の書状を確認する。そこには私が一週間後にはベルモンド侯爵と婚姻を結ぶ旨が書かれていた。
父親であるヴァレンティーヌ公爵はその書状を苦々しい表情で私に差し出した。
婚約破棄を言い渡された卒業式のあの日。屋敷に戻った私は父にこっびどく叱られた。
そりゃそうか。平民上がりの小娘を嫉妬の果てに虐めた挙句、王太子殿下の婚約者の座をやすやすと奪われたのだ。父親としての面目は丸つぶれだろう。シングルファーザーとして育ててくれた恩を仇で返すような真似をして申し訳ないと、心から思う。
私は書状を受け取りながら、再度頭を下げた。
「お父様、本当に申し訳ありませんでした。私の力不足で── 」
「何故あんな小娘を虐めたんだ。お前は誇り高きヴァレンティーヌ公爵家の娘だぞ?」
叱責を受けたあの日も同じことを訊かれ、同じことを答えたが、父の怒りが理解できる私はもう一度同じ答えを口にする。
「お父様、私は虐めたつもりはございません。ただ誤解を解けなかった……いえ殿下の御心を掴めなかった私の力不足です。あの時に私が強く否定したとしても……更に恥をかくだけだと判断いたしました」
父は大きくため息をつく。
「本当にお前はそれでいいのか? あんなに幼い頃から王太子殿下に釣り合うよう努力してきたのに……」
あぁ……私が前世を思い出したのが、あの時で良かった。でなければ、最初からハードな勉強にも厳しいマナー指導にも耐えられなかっただろう。
「努力は今後の自分の糧になります。誰かのためではありません」
背筋を伸ばした私は真っ直ぐ父に視線を向けた。あくまでも私の企みがバレてはならない。楽をしたいなんて口が裂けても言える雰囲気ではない。
「……ベルモンド侯爵との結婚に今までの苦労は見合わないと思うがな」
「お父様は反対ですか?」
父には迷惑をかけたと思う。彼が反対だと言うなら考え直さなければならないかと思ったが── 。
「いや……。お前の能力を生かしきれない相手だと思っただけだ。ベルモンド侯爵は現国王の弟君。嫁ぐ相手として文句はない」
何とも奥歯に物が挟まったような物言いだ。私はベルモンド侯爵のことをあまり知らない。前世でもそんな人物は小説に登場しなかった。モブもモブ。
「お父様には本当にご迷惑をおかけして……申し訳ありません」
「別に私の立場が剥奪されたわけではないから、そこは気にするな。虐めたという確たる証拠がないことを陛下もご存知だ。だがユリウス殿下が頑固でな」
「安心いたしました」
父は大臣の座を剥奪されたわけではない。陛下は殿下よりちゃんと物事を冷静に判断する目をお持ちのようだ。
「── お前が認めなければ、良かったんだ」
そう言われると何も言えないが、私は弱々しく「認めてはおりません」と反論するのが精一杯だった。曖昧にした自覚はある。
「まぁ……陛下としてはベルモンド侯爵の結婚に頭を悩ませていたからな。渡りに船だと思ったらしい。ベルモンド侯爵がお前を拒否しなかったことが大きいだろう」
拒否される可能性があったのか……そんなことまで頭が回らなかった。若い美人を娶れるなら嬉しいだろうぐらいにしか考えていなかった。
「そ、そうですわね」
「ベルモンド侯爵は今までずっと色んな縁談を断ってきたからな……陛下としてはやっとその気になってくれたと喜んでいたよ。……だが、殿下の相手選びは難航していると聞いた」
「え? シャルロッテ様が婚約者になられるのでは?」
私は目を丸くする。
「馬鹿を言え。平民上がりの小娘に王太子妃が務まるわけがないだろう」
父はそう言うと、私の部屋を出て行った。
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