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29話
その日の夜。私は昼間の妃陛下との会話を思い出していた。
それと同時に、今までフェルナンド殿下にやられた数々の不快な出来事も。
殿下が婚約者となってから、私とのお茶会にまともに顔を出したのは、初めの数回だけ。
私は王太子妃教育で疲れきった体に鞭打って、月に1度お茶会の開かれるテラスで彼を待つこと数時間。
一刻も早く家に帰って休みたい本心を隠し、背筋を伸ばしたままフェルナンド殿下を待つ時間は、何かの修行かと思うほどに苦痛だった事を覚えている。
会えば会ったで『お前と居ると退屈』だの、『お前の顔を見ていると気が滅入る』だの言われ放題。
学園では常に女を侍らしていたとの噂が蔓延り、エレーヌ様と出会ってからはエレーヌ様とイチャイチャする毎日。
私が学園に入学した際は、2人で私の顔を見に来て『学園では僕に話しかけるなよ?目障りだから視界にも入らないようにしろ』って言われたっけ。あの時のエレーヌ様の勝ち誇った顔…今でも忘れていないわ。
フェルナンド殿下の振る舞いを思い出すだけで、今でも胸がムカムカしてくる程に不快なのだが…その殿下が私を好きだった?まさか、そんなの嘘でしょう?アレで?
例えエレーヌ様と出会う前であっても私は褒められた事も、笑顔を見せて貰った事もないんだけど?
妃陛下の言う事を信じる事は到底出来ない…。
私がそんな風に考え事に耽っていると、
「マイラ!!!危ない!離れろ!」
という大きな声が聞こえ、私はハッと我に返る。
声のする方へ振り向くと、ハヤトが凄い勢いで走って来たかと思うと、私の腕を痛いぐらいに引っ張って、座っていた椅子から引き剥がす。
「痛っ!」
と私が言うのも構わず、ハヤトは私をそこから離すように引っ張りながら、
「蛇だ!」
と叫んだ。
私は今まで自分が座っていた椅子の足元に目をやると、そこには今、まさに噛みつかんと口を大きく開けた蛇がいた。
ハヤトは、
「誰か!!蛇だ!」
と言いながら私を連れて廊下へ続く扉を開く。
扉の両脇に居た護衛はその声に慌てて部屋の中へと飛び込んだ。
ハヤトは私を廊下の護衛に預けると、自分は部屋へ戻る。
「殿下!危ないです!」
と私が言うと、
「大丈夫、蛇がどうなるのか…最後まで見届けないと…こいつらを信用できない」
と私の耳元で囁いた。
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