旦那様は転生者!

初瀬 叶

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36話

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殿下が引っ張り出してきた洋服は初めて目にする物で、どう着ればよいのか最初は頭を悩ませた。

「これは…。この国の平民はこのような物を着るのですね…」
と私が呟く。

私が着替える間、後ろを向いていた殿下は、

「もう着たか?そっちを向いて良いか?」
と訊いてきた。

なんと、この部屋…というか…納戸というか物置のような狭い空間がこの家の全てだと言う。
こんな狭い所で暮らせるものなのだろうか?

私は、

「はい…なんとか」
と私が言えば殿下はこちらを向いた。

私はその姿をまじまじと見る。

これが本当の『ハヤト』の姿なのだ。

黒い瞳に少し短めの黒い髪。背は…床に座り込んでいるのでわからないが、結構高そうだ。

「何でそんなジロジロ見るんだよ」
と少し不貞腐れたように言う殿下に私は、

「殿下。殿下にお話しないといけない事がございます」
と私も殿下の様に床に座り込むと、私はハヤトから聞いた話を、順を追って話し始めた。

話を聞きながら、殿下が驚いたり、怒ったりするのを見ながら、

「…という事なのです。殿下はその『ハヤト』という男性と入れ替わってしまったんです。
信じがたい話ではあると思いますが」
と殿下に説明し終わると、殿下は頭を抱えた。

「私は…騙されていたと言うのか?エレーヌやハロルドに?そんな…馬鹿な…」

ショックだろうな…。信じてきた者が実は自分の命を狙っていたなど。
私だったら…そう思った私の頭の中にはハヤトの姿があった。

ハヤトは無事逃げ切れただろうか?
私しか…彼が頼れる人は居なかったのに…私は彼との約束を破ってしまった。

俯いた私の顔を覗き込む殿下。

「何故…お前が泣いているんだ?」

そう言われて私は自分の頬に触れた。

もう2度とハヤトに会えないのだと思うと、後から後から涙が溢れてきた。

すると立ち上がって何処かへ行った殿下が白い布を持って現れた。

その布を私に黙って差し出す殿下。
きっと涙を拭け…という事だと思い、私はそれを受け取って顔に近づけると…

「臭っ!!」
と思わずその布を顔から離し、汚い物を持つ時の様に摘まんだ。

「おい!失礼だろうが!折角持ってきてやったのに」
と言う殿下に、

「これは…洗っているのですか?」
と私は不満気に言った。

「洗うって…どうすりゃ良いのかわからないし」
と不貞腐れる殿下に、

「この数ヶ月…殿下はどうやって此処で暮らしていたのです?」
と私は訊ねた。

彼は王族。自分の身の回りの世話は幼い頃から全て人任せで生きてきた。
そんな彼が、この全く右も左も分からない世界で良く生き延びてきたと思う。

正直、既に野垂れ死んでいるのではないかと思っていた。

すると殿下は、

「は?私が此処に来て…まだ数日だが?」
と不思議そうに答えた。

…ん?どういう事?
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